五月 晴

 いつの間にか眠ってしまっていたようだ。目が覚めた時はいつも高揚しており、しかし、同時に悲しくなる。

 喪失感が忍び寄ってくる。


 暗い気持ちを払拭する為に、トイレに行くことにした。一度保健室を出る。

 そして、戻って来るとクラスメイトがいた。


 転校生の、確か名前は彩雅君。

 イケメンでスポーツ万能。中学で人気者になるのにそれ以上の理由はいらなかった。


 私とは別世界の住人で、当然今まで話したこともない。


 そんなに彩雅君が今、私の目の前で普段見せない顔を見せていた。眼鏡を外していた


 どうしていいか分からず暫く見つめ合った。


「……あ!」


 最初に動いたのは彩雅君の方。

 彼は自分が眼鏡をかけていない事に気が付くと、慌てて視線を反らし眼鏡をかけた。

 そして、少しバツが悪そうに私に向き直った。


「ははは、まさか人――しかもクラスメイトが来るなんて思わなかったな……。五月さんだよね? 今見た事は忘れてくれると嬉しいんだけど」


 彼が何か言っていたが、大いに焦る私には届かない。

 

 ココに他の人がいる事が予想外過ぎて。


「ぁ、ぁぁ……」


 途切れた声を出すので精一杯。


「……そうか。じゃあ、僕は行くね」


 彩雅君は帰っていった。


 

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