他校交流戦 8
俺は反重力装置を起動させると、斜め前方に向けてアクセルブースト!
エリザベス・ベイカーのすぐ隣で足をシールドに接触させ、急停止。
流石世界一位。
反応してくる。
だけど、武器制限解除までは十分の一秒残ってるんだよなあ。
斜め後ろ方向にアクセルブースト。
眼前を拡散レーザーが切り裂いていく。
メインブースターを全力噴射して、慣性を打ち消す。
俺の体は一瞬だけ後ろにすっ飛んだかと思うと、小さな弧を描いてエリザベス・ベイカーの反対側に回る。
足をシールドに触れさせて停止。
――すでに斬ったぜ。エリザベス・ベイカー。
ホワイトナイトの放熱板が目で見て分かるほどに熱を持った。
「このっ!」
近すぎて声さえ聞こえる。
エリザベス・ベイカーは俺に銃を向けようとするが、すでにそこに俺はいない。
銃口の下を潜り抜け、正面を抜けて、反対側に
二度目の斬撃がホワイトナイトを燃え上がらせる。
アクセルブーストでその場を離れ、るように見せかけて、ステップで元に位置に戻る。
三度目の斬撃がホワイトナイトを捉えた。
マズいと思ったのかエリザベス・ベイカーはホワイトナイトのアクセルブースターを使う。
だけどな、お前の逃げる方向。
俺はすでに
ほぼ同時にアクセルブースターを使用。
拡散レーザーが俺の一瞬前に居た場所を薙いだ。
ショットガンを撃つ。
が 、エリザベス・ベイカーは足元のシールドを使って急停止。
これを躱す。
俺も咄嗟にステップを踏む。
だが亜音速での十分の一秒はあまりに長い。
三十メートル近く離される。
アクセルブーストで斜めに接近しようとしたが、銃口がこちらを向くほうが早い。
ひとみの指示に従ってステップで回避。
拡散レーザーの端っこが俺のドレスを掠める。
エリザベス・ベイカーは引き金を引いたまま銃を振る。
拡散レーザーが振り抜かれる。
ステップを踏んで、
ドレスを焼かれながら、しかしそれでもエリザベス・ベイカーへの再接近に成功する。
エネルギーブレードを振る。
ステップで避けられる。
エリザベス・ベイカーのヤバいところは、重装甲型バトルドレスに乗りながら、これだけ回避が巧みであるところだ。
最初の奇襲で五発は当てるつもりだったが、目論見を外された。
だが嘆いている暇はない。踊りだしたのだから止まれない。
エリザベス・ベイカーは次の射撃を俺が避けたのを見ると、再びアクセルブーストで俺から距離を取ろうとする。
その動きは知っている。
ステップを踏んで、アクセルブースト。
十分の一秒の遅れが致命的なら、百分の一秒にするだけだ!
速く! 早く! 速く! 早く!
動きが噛み合い始める。
心の声が聞こえてくる。
困惑しているな。エリザベス・ベイカー。
学内五位だと聞いて、
いつも通りに処理できると思いこんでいたな。
銃口の動きを読んで、聞いて、ステップではなく、メインブースターを巧みに操作して避ける。
至近距離なら拡散レーザーと言ってもその攻撃範囲はさほど広くない。
銃口さえ向けられなければ問題はない。
最小限のアクセルブーストで、場合によっては姿勢制御スラスターを移動に使い、四つのメインブースターを巧みに操って世界一位に食らいつく。
以前の俺ならもっと早かった。速かった。
だがこれほど巧みには動けなかった。
こうして至近距離を維持して、世界一位のその動きに食らいつくというような、上手い動きはできなかった。
エネルギーブレードがホワイトナイトを捉える。
アクセルブーストによる回避を強要されているホワイトナイトは熱量を下げる時間が無い。
あらゆる行動が蓄熱装甲に熱を溜める。
ドレス全体が熱を持って、空気が揺らぐ。
次々と蓄熱装甲が剥がれ落ちていく。
「なぜ! どうして!」
叫び声を上げながらエリザベス・ベイカーは銃口を振り回す。
動きは速く、的確で、しかしそれゆえにひとみには読みやすい。
エリザベス・ベイカーが最適行動を取れば取るほど、ひとみによってその動きは看破される。
他人によってプログラムされた彼女には、俺への対処行動が取れない。
彼女は彼女の才能を最も効率良く運用するための動きをする。
ただそれだけの自動人形だ。
なあ、おい、エリザベス・ベイカー。
それじゃつまんねぇだろ。
二回連続でエネルギーブレードが当たる。
すでにホワイトナイトの蓄熱装甲は半減している。
まだ半分だと思う自分と、もう半分かと思う自分がいた。
集中力を酷使しすぎて頭が痛い。
手の指どころか、足の指の一本一本までもが、ドレスの操縦に割り当てられている。
指を曲げようとする力の強さでブースターの出力は変わる。
力加減を間違えれば思っているのとは違うところにすっ飛んでいく。
緊張することすら許されない究極の集中。
バトルダンスがスポーツの最高峰にある理由。
これがフルマニュアルの世界ッ!
「何故笑っている! 何故笑っていられる!」
「決まってる! 楽しいからだッ!」
体中を糸が貫いて引っ張られているような苦痛。
それに耐えながら亜音速から急停止、再び亜音速へと切り替わる世界を、認識し、屈服させる。
つらい。苦しい。重い。熱い。熱い。熱い!
楽しいッ!
何故分からない。エリザベス・ベイカー!
それだけの操縦技術を持ちながら、何故分からないッ!
俺たちは自由だ!
重力の軛から解き放たれ、音速の壁を超えられる俺たちは、世界で一番自由に動き回れるんだぞ!
なのに、なんでそんなにつまらなさそうなんだよ!
なんで他人の言うがままに動いてんだよ!
拡散レーザーが顔を掠める。
首を振らなければ当たっていた。
上手い。
バランスを崩された。
姿勢を戻そうとすれば追撃が来る。
俺は姿勢制御スラスターを吹かせて、横に一回転する。
回転中にエネルギーブレードを振る。
追撃のために構えていたエリザベス・ベイカーは避けられない。
当たる。
もしエリザベス・ベイカーがレーザーを撃ちっぱなしで振れば少しは俺に当たっていただろう。
エネルギーブレードを振る余裕も無かったかも知れない。
だが彼女は自身の排熱限界を超える攻撃は最小限に抑えるようにプログラムされている。
「自由意思で踊れよ! エリザベス・ベイカー!」
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