他校交流戦 4

                  2115年7月17日(水)「秋津島学園」

                           喫茶店フォックステイル


 今日はジェファーソン記念校の生徒は自由行動で、島外に出ても良いことになっている。


 自由行動ということで秋津島学園の生徒が強制的に同行するようなことはない。


 もちろん誘われれば同行してもいいが、俺は誘われてない。


 さて、エリザベス・ベイカーはどうしているのかね?


 彼女の感じからして、自由行動だからと言って遊びに出かけるようには思えない。

 学内で訓練とかしてそうな感じだ。

 俺みたいに訓練を楽しんでいるのであればいいが、負けないために必死に訓練しているであろうことを考えると痛ましいほどだ。


「青っちが新しい女に夢中な件について」


「あ、それ、私も感じてました」


「感じるも何も、見れば分かるだろ」


 まーた俺の悪評を広めようとしてるな。この三人は。


 最近、フォックステイルの店員さんが俺を見る目が冷たいのは気の所為ではないだろう。


 なお卯月自身がチームメイトは下の名前で呼び合うと言い出したにも関わらず、いつの間にやら本人だけが青っちと俺のことを愛称で呼んでくる。


 でも時々青羽って名前で呼んできたりして、一人称と同じように安定しないヤツだ。


「そりゃ世界一位だ。気になるさ」


「えー、でもいつもの青っちならどうすれば倒せるかって話に終始するところなのでござる。その内心にまで踏み込むのは、らしくないでござるよ」


「今のエリザベス・ベイカーとはっても面白くない。最適行動をプログラムされた無人のバトルドレスと戦ってるようなもんだ。そりゃダンスじゃねーよな。俺は世界一位と踊りたいんだ」


 モーニングのゆで卵の残りを口の中に放り込んだ。


 学食の朝食も悪くはないが、たまには別のところで食べたくなる。


 夏休みということもあって色んなところを食べ歩いているが、フォックステイルのモーニングはボリュームもあって食べ盛りな俺たちの胃に優しい。


「根本的に組み合わせが発表されるまで誰と試合することになるのか分からないってことを忘れてないか?」


 碧の言葉に俺は首を横に振った。


秋津島学園うちの意向としては交流戦としての勝利だろ? 五人出て三勝がマストだ。瑞穂をエリザベス・ベイカーにはぶつけられないさ。客観的に見れば前に碧が言ったように、俺を捨て駒にするのが一番正しい。大将は俺だ」


「向こうがチームオーダーを出してくる可能性は?」


「いや、それは無い。ジェファーソン記念校の監督が今の監督になってから五年間の交流戦の記録を卯月に調べてもらった。綺麗に学内順位通りに並べてくるよ。エリザベス・ベイカーも自分が秋津瑞穂と戦うことになるって言ってた。大将に置かれるって知ってるんだ」


「ということはこちらの監督次第か」


「秋津島学園はここ何年か負けが続いてる。今年はホームということもあって是が非でも勝ちたいだろ。とにかく俺たちはエリザベス・ベイカーと戦うつもりで準備する」


「とは言っても最近の課題と変わらないでござるな。敵は重装甲型バトルドレス。こちらの火力不足は如何ともし難いでござる」


「卯月、ホワイトナイトの蓄熱装甲を全損させるまでにエネルギーブレードを何回当てればいい?」


「八十%で七回か、八回、と言ったところでござろうな。ホワイトナイトは放熱板も展開式で大きいでござるから、排熱限界も高いでござるよ」


 卯月の答えは淀みない。


 ちゃんとエリザベス・ベイカーと戦うつもりで情報を集めてくれているのだ。

 彼女のこういうところは本当に尊敬する。

 それ以外のところはアレだけど。


「多めに見てぶっ倒すまで十二回、重装甲型を相手に至近距離を維持してエネルギーブレードを当て続ける訓練だな」


「その相手をあたしがするわけか。ひとみをどっちにつける?」


「仮想エリザベス・ベイカーでやるなら碧につけるしかないだろ」


「世界一位になりきらなきゃいけないわけか。ひとみがいてもきついな」


「悪い。だけど必要なんだ。他の二人にも悪いと思っている。夏休みなのに、ずっと俺に付き合わせてるよな。遊びにだって行きたいだろうに」


「いえ、そんな、私は――」


「待つでござる、ひとみ殿」


 ひとみの言葉を遮って、卯月がぐいっとテーブルの上に身を乗り出した。


「そう思うんなら、青っち、交流戦が終わったらあっしらに時間をくれ。一人に一日ずつ。どう使うかはパートナー次第で」


「そりゃ構わないが、そんなことでいいのか?」


「約束だぞ。いいな! 他の二人もそれでいいな?」


「え? でも、そんなに急に言われても……」


「あたしもそれでいい。青羽を一日好きに使えるんだろ?」


 重労働に従事させて上前はねるとかはやめてね。


「じゃあ、私もそれで……、それが、いいです」


 ひとみがそう言って、とりあえず三人はそれでいいようだった。


 まあ、確かにそれなら三人はフリーな二日と俺を自由にできる一日を得られるわけで、悪い話ではないのか?


 単に休んでもらうより、いつものお礼ができる分、俺もありがたい。


「今週は交流戦があるから学内戦はお休みだけど、来週からは再開されるから連続三日は無理だぞ。週に一人ずつで頼む」


「ラジャー! 日程はこっちで決めとくね!」


 卯月がいい笑顔で言って、デザートのパフェを口に放り込んだ。


 デザートって朝から食べるものでしたっけねえ?

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