第2章 他校交流戦

他校交流戦 1

                  2115年7月14日(日)「秋津島学園」

                             第2バトルアリーナ


 ブザーが鳴って試合終了を告げる。


 俺は学内五位から挑まれた順位戦に敗北し、四位から五位に落ちた。

 一度は六位まで下がり、そこから頑張って四位まで上がった順位が五位に戻る。


 瑞穂を倒して一度は学内一位に上り詰めた俺だったが、その後は大体この辺りが定位置だ。


 だってしょうがねぇじゃん。

 みんな俺をメタるセットアップをしてくるんだもん。


 学内最強の戦闘機型バトルドレス使いである瑞穂を倒した俺だったが、そんな俺に対して瑞穂以外はみんな重装甲型バトルドレスで挑んできたのだ。


 流石にアンダーティーンは稼いでいる。

 相手に合わせてセットアップを変えるくらいのポイントは余裕であるのだ。


 そんな環境の中、俺は近接型一筋で頑張っている。


 稼いだポイントでドレスの強化は行ったが、近接型では重装甲型に対して火力が足りない。


 最大の火力であるエネルギーブレードにしても、出力八十%で二回攻撃を行うと冷却に六秒が必要になる。


 戦闘機型ですら蓄熱装甲を多めに積めば二回攻撃に耐えうるのだ。

 重装甲型なら言うまでもない。


 ひとみの先読みがあっても、避けきれないほどに弾幕を張られれば結局は同じことだ。


 回避先が無いのである。

 俺は弾幕の雨に突っ込んでいって攻撃を仕掛けるしか無くなる。


「中距離で弾幕を張らせて回避に専念すればいいのではござらんか?」


 もはやチームの拠点となった喫茶店フォックステイルで反省会を開くと、卯月がそう言った。


「避けきれないほどの弾幕を張っている間、相手は排熱限界を超えているであろ? 少しずつ相手の蓄熱装甲を損耗させていけば勝機はあると思うのじゃがなあ」


「分かっちゃいるが、それじゃ面白くない、だろ?」


 確かに相手の弾幕を誘い熱量を上げさせるのは、対重装甲型でのセオリーだ。

 時間をかけて少しずつ相手を消耗させていくのもそうだろう。


 だがそれが面白いとはどうしても俺には思えなかった。

 少なくともバトルダンスの名に相応しくない。そうだろ?


「面白い面白くないの前に、青羽は下手だよな」


 碧に言われてぐうの音も出ない。


 下手というのはドレスの操縦のことを指しているのではない。

 バトルドレスの熱量の管理が俺は致命的に下手なのだ。

 すぐに排熱限界を超えて蓄熱装甲を駄目にしてしまう。


 短期決戦ならいいが、長期戦になると自滅寸前まで自分から熱量を上げていってしまうのだ。


 相手の攻撃が避けきれるのであればいいが、重装甲型の撃ってくる面に張られた弾幕は避けきれない。


「私がもっと上手く誘導できればいいんですけど……」


「ひとみは悪くないよ。あたしと組んだら青羽を追い詰められるんだしさ」


 碧の言うとおりである。


 彼女はシミュレーター訓練でひとみを通信士オペレーターに付けて重装甲型バトルドレスに乗ると、俺を倒せるとまではいかないまでも、十分な脅威となる。


 器用だし、運動神経もいいし、熱量の管理も上手い。|

 操縦手ダンサー候補生に昇格して、ひとみを引き抜かれたら、アンダーティーンに入ってくるのではないだろうか?


 あれ、これ碧じゃなくてひとみがすげーって話だな。


「とにかく五位で凌いで、交流戦のメンバーにはなんとか残ることができた。ヤツと戦えるチャンスはある」


 秋津島学園はアメリカに姉妹校がある。


 毎年夏休みになると、どちらかの学園に上位の生徒が行って交流を行う。

 そこで行われる団体戦が交流戦だ。


 去年は秋津島学園の生徒が向こうに行ったから、今年はこっちが迎える側だ。


 去年以上に、今年の交流戦には意味がある。


 何故なら秋津島学園の姉妹校、ジェファーソン記念校には、去年のマスカレイド優勝者が在籍しているからだ。

 マスカレイド優勝者、つまり去年の世界一だ。

 今年は違う。

 俺が優勝するからな。


 だがマスカレイドを待つまでもない。この交流戦で俺がぶっ倒してやる。


「普通に考えれば彼女は大将で出てくるでござる。んで、こちらの大将は秋津瑞穂が順当でありますぞ」


「瑞穂も雪辱を晴らしたいだろうしな」


 去年のマスカレイドで瑞穂はヤツに負けている。

 今年も交流戦があることは分かっているから、瑞穂も対策を練ってはいるだろう。


 白銀色の重装甲型バトルドレス。通称、ホワイトナイト。


 ヤツは圧倒的な射撃精度でバトルフィールドの中央から全域を攻撃範囲に収めてくる。

 彼女が存在するために、バトルフィールドの広さが見直されるのではないかという噂が出るほどだ。


 回避も上手い。

 重いはずの重装甲型で的確に照準を外してくる。


 言うまでもなくフルマニュアルの使い手だ。


 ホワイトナイトがバトルフィールドの中央に陣取れば、もう勝負は終わったと言われるほどに強い。


「まあ、でもあたしが監督なら彼女には青羽を当てるな」


「分かってるじゃないか。碧」


「どうせ誰を当てても勝てないんだから、一番弱いのをぶつける」


「前言撤回だ。てめぇ」


「でも、今の青羽くんでは彼女に勝てないと思います」


 一番状況が見えるはずのひとみにまでそう言われてしまう。


 そんなに駄目かなあ?


 そりゃ今は学内五位ではある。

 だがこれは世界一位になるための準備期間として仕方のないことだと割り切っている。


 嘘だよ。

 悔しいに決まってる。


 しかし今は辛酸を舐めなければならない。絶対に必要なことなのだ。


以前の青羽くんなら・・・・・・・・・、勝ち筋はあるかも知れません」


 ひとみがそう誘惑してくるが、俺の意思は変わらない。


「それは駄目だ。その俺には未来が無い」


「それなら世界一位になれるとしてもでござるか?」


「それでは世界一位で在り続けられない。楽しむのはいい。でも楽をしちゃ駄目だ」


「学園で一位を取れない人がなんか言ってる」


「言葉って言う人によって説得力が違うんだと分かる事例でござるなあ」


 碧と卯月の言葉に俺はちょっと傷つく。


 だって良いこと言ったと思ったんだもん。


「誰が言おうと言葉は言葉だろ。誰が言ったかは関係ない。受け取る側の問題だ」


「せめて学内一位を維持できるようになってから言って欲しいでござる。正直、ポイントがカツカツなんでござるよ」


「卯月とひとみには多めにポイント渡してるだろ。開発はポイントがすげーかかるからって」


「人は一度吸った甘い汁を忘れられないんでござるよぉ!」


「なるほど。言葉って上手く伝えることが大事なんだなっていま理解した」


 だが真面目な話、卯月のポイントが足りていないのは問題だ。


 彼女が無駄遣いしているわけではないことは知っている。

 彼女が精力的に俺に合わせた装備を開発してくれているお陰で、今の順位で済んでいるとも言えるのだ。


「俺の個人ポイントを渡そうか?」


「援助に感謝して労働からだでお礼するね」


「公共の場でいかがわしい感じにするのやめろ!」


 俺はすでに悪い意味で有名人なので悪評を伸ばすのは本当にやめていただきたい。


 ただでさえ秋津瑞穂に黒星を付けたくせに、アンダーティーン上位に上がれない雑魚扱いなのだ。


 秋津島学園の三日天下と言えば俺のことである。


 そういうお前ら何位だよって話だ。

 まあ、大体そういう発言してるのは順位に関係ない、チームにも所属していない一般生徒なのだけど。


「とにかく明日には連中が到着する。まずは見せてもらおうぜ。世界一位とやらを」

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