学内決闘戦 エピローグ
2115年5月2日(木)「秋津島学園」放課後
喫茶店フォックステイル
「というわけで、戦勝パーティーと、三津崎の吊し上げ会はっじまっるよー!」
音頭を取ったのは太刀川卯月だ。
こいつのコミュ障設定どこ行ったんだろうな?
瑞穂との戦いに勝った俺たちには、そのまま勝利を喜べるほどの余裕が残されていなかった。
徹夜でバトルドレスを仕上げ、仮眠を取っただけで戦ったのだ。
自然とそのまま解散の流れとなった。
とにかく眠かったのだ。
そして日が変わってさつきちゃんに怒られた俺たちは、放課後になって鵜飼ひとみ行きつけの喫茶店で戦勝パーティーを開くことになったのである。
「てか、吊し上げ会ってなんだよ!」
「秋津瑞穂と下の名前で呼び合う仲だなんて拙者ら聞いてないでござる」
「瑞穂……」
曽我碧が熱っぽく太刀川卯月に囁くと、太刀川卯月もそれに応じる。
「青羽……」
「分かったから捏造するな。俺だって知らなかったんだ。そんな目で見るな。本当だ。瑞穂と最後に会ったのは、五歳の時だ。あいつだって前歯の抜けた間抜けなツラした子どもだったんだ」
「幼馴染だったんですね……」
「なんだ、負けフラグが立ってるのでござる」
「なんだ、それは。俺が気付いたのはバトルの最中だよ。途中で瑞穂の戦い方が変わったろ。あれで気付いた。俺たちはバトルドレスをモチーフにしたゲーム仲間だったんだ」
「へー、それだけ?」
「それだけもなにも、あいつは俺にとって大事な友だちだよ」
「あっしらは?」
「大事なチームメイトだ。誰が欠けても勝てなかった。みんなのお陰だよ」
「これは……」
「意外に?」
「差がついていないかも……」
三人は顔を突き合わせてそう言葉を繋げる。
「何の話だよ。とにかく今日は俺の奢りだ。パーッとやろうぜ」
瑞穂、学内一位に勝利したことで、俺は順位差に応じて貰える勝利ポイントと、日を跨いだことで学内一位として得られる今日の分のポイントを手に入れていた。
三人に借りていたポイント返しても懐にはまだまだ余裕がある。
とは言っても俺だけの力で手に入れたポイントではない。
ちゃんと四人で分配するつもりだし、今日の分は俺の個人ポイントになる分から支払うつもりだ。
「秋津瑞穂との再戦はどうするつもりでござるか?」
「二位からの挑戦は拒否権が無いからな。瑞穂はずっと一位だったから挑戦権を使っていないはずだし、今週中にも再戦ってことになるだろう」
いわゆる順位戦と呼ばれるルールである。自分より順位がひとつ下の相手からの挑戦は拒否できない。挑戦できるのは週に一度だが、一位だった瑞穂は挑戦権を使っていないはずだから、すぐにでも俺に挑戦できる。
「すぐにまたあんな戦いをするのか。信じられない」
曽我碧がため息を吐いて首を横に振る。
「ダンサーを諦めたくなったか?」
「いいや、前よりもずっとやる気が出た。絶対にダンサーになって、あたしもあの舞台に立つんだ。あんなに熱くて綺麗なダンスをあたしは他に知らない」
「俺だってそうさ。必ずマスカレイドの舞台に立つ」
瑞穂と再会できたことで俺の最大の目標は達成された。
だが俺の挑戦は終わらない。
こんなに楽しいことを俺は他に知らない。
この舞台で、俺は行けるところまで行ってみせる。
まずは国内選抜戦。
片っ端から優勝する!
「じゃあ、これからもこのチームで頑張っていくってことでいいでござるか?」
「俺はそうしたいと思ってる」
「開発もさせてくれるのなら……」
鵜飼さんは意外と
「あたしはできるだけ早くダンサー候補生になるつもりだけど、それまででいいならこちらからお願いしたいくらいだ。勉強になるからな」
「分かってる。ガンガン鍛えてすぐにダンサー候補生にしてやるよ」
「じゃあ、正式なチーム結成を、祝う、前に!」
太刀川卯月がグラスを掲げる。
「チームメイトは下の名前で呼びあうことを提案したい!」
「賛成!」
「えっと、はい……」
曽我碧と、鵜飼ひとみもグラスを掲げる。
「え? なんで?」
「馬鹿か。これから私たちはチームになるんだ。より親密になる必要がある。上手くやっていくためだ。それだけだ! 本当だぞ! なんか文句あるか!?」
「いや、別に無いけど。じゃあ、卯月、乾杯を頼んでいいか?」
「くぅ~、思ってより来るぅ」
「何がだよ」
「なんでもいいだろ。青羽。じゃあ、私たちの勝利を祝って、乾杯ッ!」
俺たちはグラスをぶつけ合った。
この日から本当の戦いが始まった。
アンダーティーンを維持することの難しさを俺たちはまだ知らなかったのだ。
だがどんな困難も必ず乗り越えられる。
そこに友だちがいる限り。
俺たちの戦いは続く!
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