灰色のミルクコーヒー

ケイティBr

かふぇ いろどり

 俺の名前は橋本コウイチ。どこにでもいるような平凡な大学生だ。


 朝起きて、講義に出て、家に帰る。その繰り返しで、毎日がなんとなく灰色に感じられる。退屈なルーチンを繰り返していた。


 そんな俺の唯一の楽しみは、お気に入りのカフェで本を読むことくらいか。なので今日もカフェにふらりと立ち寄った。


『カフェいろどり』は古びた感じがするけど、それがまたいい。隠れ家みたいな雰囲気で、居心地が気に入っていた。


 でも、お客さんが少ないのが、少し気になっていたんだ。


 カランカランとドアを開けて店内に一歩足を踏み入れると、俺は無意識に深呼吸をした。


 普段ならば鼻をくすぐるコーヒーの香ばしい香りを楽しむはずが、今日は予期せぬペンキの鋭い匂いが店内を支配していた。


 不思議に思いつつも、俺はカウンターへ向かった。


「いらっしゃいませー、お客様は、いつものですか?」と気さくに俺を迎えてくれたのは、このお店のオーナーの娘さんで赤木ミツキさんだ。


 俺は、ミツキさんのことが気になっていた。だから淡い期待と共に、このカフェに通っていたんだ。


 だけど、今日はなぜか彼女の仕事着にペンキの飛び散ったような模様が……どうしたんだろう?


「はい。いつものミルクコーヒーをお願いします」ミツキさんの姿が、気になりつつも俺はひとまず注文をした。


「ありがとうございます。少々お待ち下さいませ」そう言いながら、ミツキさんは手際よくコーヒーを淹れる。


 俺は、席にカバンを置いて、いつものように読みかけの本を開く。


 しかし今日はページに目を通すふりをしながらも、心のどこかでミツキさんのことが気になり、集中できない自分がいた。


 そわそわしながら待っていると「お待たせしました」とミツキさんが、コーヒーを持ってきてくれた。


「すみません、今日は改装をしようとしていたので……匂い気になりますよね?」眉根を寄せながら彼女は、申し訳無さそうにそう言った。


「……少し気になりますけど。大丈夫ですよ。それよりどうしたんですか? ペンキまみれですけど」


 ミツキさんは少し安堵した表情を見せたが、それも束の間、何かを思い出したように「あ、実はお客様にお願いがありまして」と切り出した。


「俺に出来ることであれば手伝いますよ」彼女に少しでもいい印象を持ってもらいたくて、俺はすぐにそう言った。


「実は、このカフェ、もう少し魅力的にしたくて。でも、一人でやるのが大変で……。でもお金も無いし。と思って自分でやろうとしたんですけど。うまく行かなくて。お客様は、いつもインテリアの本を読んでらっしゃっるので、それで……」


 ミツキさんは、モジモジしながら申し訳無さそうに状況を話してくれた。


 俺は、そんなミツキさんからの提案に心が弾んで、つい心が浮き立った。


「わかりました。では、このコーヒーを頂いてからでいいですか?」俺の心は、アクセルをブレーキを同時にかけてしまったようだ。そのせいか俺は、あくまでコーヒーを飲みに来てるんだ。そんな態度を取ってしまった。


「あ、はい。もちろん。です!」けれど彼女の顔が明るくなったのを見て、俺は嬉しくなった。


「それではごゆっくりお寛ぎくださいませ」そう言ってミツキさんは去っていった。


 俺の心臓はバクバクしており、コーヒーを楽しむだなんて気持ちでは無かったが、震える手でコーヒーにミルクを淹れてかき混ぜていた。その時――


「きゃぁ」っとミツキさんの声が聞こえて、カラカラと何かが転がる音がした。


 俺は慌ててミツキさんに駆け寄り、彼女の腕を掴んで起こした。


「だ、大丈夫ですか? 怪我は?」


「え、あ、はい、大丈夫です。ありがとうございます…」ミツキさんは少し顔を赤らめながら、立ち直った。


 ミツキさんはペンキ缶を持ってこようとしたが、不意に足を滑らせ、ペンキ缶が床に転がり、彼女自身もバランスを崩してしまった。


「ああ、どうしよう……」床にはペンキがこぼれてしまっていて、彼女は落ち込んでいた。


「大丈夫ですよ。全面を塗り直してしまえば問題ないです」


 と俺は、ミツキさんの手を取り励ました。


 急に手を握られた彼女は、少し驚いた顔をした後、頬を染めた。


「本当にありがとうございます。お言葉に甘えてしまって……」

「こう言った重たい物は、男の俺に任せてください!」

「ふふ、ありがとうございます」


 その後、俺とミツキさんは改めて内装の色選びについて話し合った。


 ミツキさんは、情熱的に語っておりこのカフェに思い入れがあるのだと感じられ、俺もその熱意に引き込まれた。


 その日、俺はただの常連客から、『かふぇ いろどり』の一部になった気がした。


 ミツキさんとの距離もぐっと縮まり、俺の心が色付いた瞬間だった。


おわり

―――――――――――――――――――――――――――

あとがき


KAC20247 お題 色


最近の趣味の一つでカフェ巡りをしてるんですが

ある店の女性店員さんに顔を覚えられていて、『お客様、先日も来られてましたね』と言われた時は、ドキッとしちゃいました。

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灰色のミルクコーヒー ケイティBr @kaisetakahiro

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