色めき立つは貴方より
宮塚恵一
色彩
紫、藍、若草色。それに白と、ぼんやり鉛色。桜色。
君と一緒の帰り道、君の気持ちが見える。見えてしまう。
紫は不安。藍色は興奮。若草色は期待。白は混乱。鉛色は嫌悪。桜色は安心と好意。
君にそのことを言ったことはなかったね。
自分自身の色ももっと見えたら良いのに、と思う。見えないわけじゃないけれど、君の色の方がくっきりと見える。
嗅覚と視覚。その二つが不可分に私の感覚器官が受け取るということを知ったのは私が小学生の頃。それまでも、苛々したおじさんの茜色やおじさんに肩を寄せるママの樺色を見ていても、想像力豊かな
色を教えてくれるのは、子供向け番組に出ていた小さな恐竜のぬいぐるみ。世界に溢るる数多の色を指差して、この色はあの人から、あの色はその人からのものだと教えてくれる。
「あのさ」
君は後ろ手を組んで言葉を探す。次の言葉が何となくわかる。私の色も、きっと君と似ている。
君といると私も安心する。いつもは視界の端々をうろちょろする恐竜も、君といる時は私の足元で小さく可愛らしく眠っている。
私は待つ。君の色が大きくなるのを。口から紡がれる言葉を。
それにどう返すべきか、私は考えあぐねる。私には愛される価値なんてないとも思う。
「大好きです」
真っ直ぐな言葉。君が纏っていた種々の色は霧散した。鮮やかな朱色が君の周りに渦巻く。
「でも私は」
どんな言葉を紡いでも後悔すると思った。そんな私の肩を誰かが押した。
どこにでも行ける恐竜が、私の肩に座る。そして小さく頷いて、にっこりと笑った。
「私も」
朱色が薄く、君の期待の若草色が大きくなる。君は真っ直ぐな人だと、私は思う。
次に私の肩を抱いたのは恐竜ではなく──。
色めき立つは貴方より 宮塚恵一 @miyaduka3rd
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