【人間関係に疲れたとき】『王様とサルの王様』(インドの昔話:サルの王様)
むかし、むかしある国にマンゴー好きの王様がいました。
その日の昼食のデザートがマンゴーだったので、王様はとびっきりの笑顔で食べました。
「ん!」
一口食べた瞬間、王様は目を見開いてマンゴーを見つめました。
そして、近くにいた家来に言いました。
「おい、これはとてもうまいマンゴーではないか」
「およろこびいただいて、恐縮でございます」
頭を下げる家来に王様は、“ガブリッ、ガブリ”と、マンゴーを食べながら、
「こんな美味しいマンゴーをわしは食べたことが無いぞ」
と、マンゴーをあっという間にたいらげてしまいました。
「おい、このマンゴーをどこで手に入れた?」
と、王様が訪ねると、
「実はですね、王様」
と、家来は低い声で言いました。
「昨日、3つばかりが、プカプカと川に流れていたものなのです」
「なに、プカプカと川を流れていたものをわしに食べさせたのか!」
王様が病気になってしまっては大変なので、いろいろな試験をとおった食べ物しか王様の口には入りませんでした。
ましてや、川を流れていたものを出すなどもってのほかです。
「ハイ、申し訳ありません」
家来は深々と頭を下げてから言いました。
「川を流れていたようなものでしたが、一口食べてみた所、あまりにも美味しいものだったので、是非、王様に食べていただきたいと思いまして、こうしてお出ししたのでございます。もちろん、毒味はしっかりとした上でございます」
毒味とは、王様に出す前に家来が安全かどうか試しに食べてみることです。
それを聞いた王様は、怒りもせず、
「そうか、そうか、気の利く家来じゃ」
と、喜びました。
「恐縮です」
家来は頭を下げました。
この家来は王様に長く仕えている者で、王様は本当のことを言えば、ちゃんと話を聞くお方だということを知っていました。
美味しいマンゴーを食べ、上機嫌な王様が言いました。
「ところで、このマンゴーをもっと食べたいが、どこで採れたのかは分かったのか?」
家来は顔を上げて言いました。
「ハイ、我々は人手を使い、現在探索中でございます」
「おうおう、さすがに手が早いな、楽しみにしておるぞ」
王様は美味しいマンゴーの実がたくさん実っている木の姿を想像し、満面の笑みを浮かべました。
──数日後。
王様に今日予定を一通り報告した後で、
「ところで王様、この間のマンゴー件でお話があります」
と、家来が言いました。
「おうおう、楽しみしておったぞ、どうだ、見つかったか!」
王様は椅子から飛び出すかのように、前のめりに聞いてきました。
「ハイ」
「でかしたぞ!」
王様は手を叩いて喜びました。
「よかった、よかった」
と、美味しいマンゴーを食べられると大喜びの王様。でも、家来の表情が少し厳しいことに気づきました。
「ん、どうした、なにか問題でもあったのか」
「ハイ、少しばかり」
と、静かな口調で家来は言ってから
「大きな問題ではないかも知れないのですが、一応、王様に聞いていただき、判断をいただければと思っております」
「なんじゃ、申してみるが良い」
王様は座り直し、背もたれに寄りかかりながら話を聞きました。
家来はゆっくりと話を始めます。
「マンゴーが流れていた川の上流を探していると、山の中腹で、マンゴーの木を見つけました」
「おお、見つけたのじゃな」
「ハイ、しかし、マンゴーの木には先客がいたのです」
「そうか、あれだけ美味しいマンゴーだから、それは仕方がないのう」
王様はガッカリ肩を落としました。
「しかし、王様」
家来は続けました。
「その先客と言うのは、サルだったのです」
「サル? あの?」
王様はキョトンとした表情で聞きました。
「ハイ、動物のサルです」
と答える家来に王様は、
「サルなら追っ払えばよかろう」
「その通りでございます」
家来が、同意と言わんばかりな口調で言うので、王様は何か訳があるのだなと察して話の続きを促しました。
「サルたちは、マンゴーがたくさん実っている木に乗り、美味しそうにマンゴーを食べていました。我々は、追っ払おうと、剣や槍で突いたので、サルたちは慌てて逃げ始めました」
「そうか、マンゴーを横取りしてしまって、サルたちには、悪いことをしたなぁ」
「はっ、」
と、家来はとっさに頭を下げ
「王様ならそうおっしゃると思いました。我々も同様に少し気が引けました」
と言ったあと、顔を上げた家来はその表情はより一層、厳しいものでした。
「逃げ惑うサルの中に、一匹だけ、違う行動をしていたサルがいたのです」
「違う行動?」
「ハイ、そのサルは、剣や槍に向かって進んで来たのです」
「なに? なんのために?」
と、王様は眉間にしわを寄せて一瞬考えました。
そしてすぐに、目を見開き、
「まさか!」
「ハイ、そのまさかです」
「他のサルたちを逃がすために、自分から身を呈して剣や槍の前に立ったと!」
「ハイ、剣や槍をどこに向けても、そのサルは飛び出して来ました」
「サルながら、あっぱれじゃなぁ」
王様は感心と驚きを込めた声を出しました。
家来は続けます、
「何度も何度も剣や槍の前に出てきましたから、そのサルの体は傷だらけでした。ところがです」
王様は唾を飲み込みながら聞きました。
「他のサルたちがマンゴーの木から逃げた後、そのサルは逃げるでもなく一匹だけ残り、マンゴーの木を背にして、我々の前に立ちはだかったのです」
「なんと!」
「フラフラと、足取りもおぼつかない傷だらけの体で……」
話を聞き終えた王様は“フーッ”と大きな息を吐いて肩を落としました。
そして、「そのサルはどうした?」
「ハイ、あまりにも傷だらけで不憫なので、治療してやろうと連れて帰ってきました」
「なんと、ここにおるのか?」
王様は立ち上がりました。
「ハイ、庭先の小屋で、傷の手当てをしております」
「よし」
と、王様はスタスタと歩き出し、庭の小屋に向かいました。
庭の小屋では、アチコチ傷だらけになっているサルが檻の中にいました。
ケガをしていても意識はしっかりあるようで、鋭い目で王様を見ていました。
王様は、檻の前で膝まづくと、サルに言いました。
「サルでありながら、おまえの行動は立派だった。お主こそ、真の王の姿じゃ」
そして王様は立ち上がり、声を張り上げて言いました。
「皆の者、聞くがいい! 今後、このサルが守るマンゴーの木には、一切手を付けるのを禁じる! そして、付近に兵を置き、何人たりとも、マンゴーの木には近づかせるな!」
「ハッー!」
近くにいた家来たちが声を上げました。
王様は檻の前に膝まづき、サルに言いました。
「おまえたちの生活を壊してしまって申し訳なかった。言葉は通じないかもしれないが、我々の行動を詫びる」
王様は、ケガが治るまで手厚く看病し、元気になったらマンゴーの木に返してやるように家来に命じました。
その後、王様は毎日のようにサルの檻に様子を見に来ました。
そして元気になったサルを連れて、家来たちと共にマンゴーの木まで行きました。
マンゴーの木のところでサルを放すと、一目散に仲間の方へ走って行きました。
王様は笑みを浮かべながらそれを見届け、そして呟きました。
「達者でな」
王様はマントを翻し、その場を立ち去りました。
おしまい
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