【和みたいとき】『季節の妖精さんのおしゃべり』(イソップ物語:冬と春)

 ある日のこと、冬の妖精と春の妖精が話していました。


「春さんはいいよなぁ、あなたが顔を出すと人間たちはニコニコしながら外に出て来て、楽しそうにしている。それに引き換え……」


 冬の妖精は淋しそうな表情で、


「冬になると人間たちは、着物の襟を押え縮こまり、家の扉をしっかり閉めると、閉じこもって中々出て来なくなってしまう。そして、みんな家の中で言うんだ。早く春が来ないかなぁ〜って」


 冬の妖精が言い終わると、春の妖精が話しました。


「そうですか? そんなことないと思っていました」


 春の妖精が明るい声で言いました。


「冬の人間たちは、雪山や氷の上をすべって楽しそうだなぁ、と思っていましたよ。こたつに入っている姿も暖かそうだし、雪だるま作りなんて、私、やりたくてやりたくて憧れちゃいますよ」


「えっ、なんだ冬にもいいところがあるのか」


 と、冬の妖精は呟きました。


 春の妖精は続けました。


「それに春になったら人間たちは、やれ風が強いだの暑い日と寒い日の変化が激しいだの。頭がボーっとするだの、着る物が分かんないだの、最近では花粉症で鼻水が止まらないだの、もう、たくさんの愚痴を言ってますよ」


「え、そんなに愚痴が多いんですか」


「ハイ、梅雨に入れば人間たちは早く夏にならないかなぁ、あのギラギラした日射しが待ち遠しいとか言い出しますしね」


「確かに! 夏の人間は楽しそうですよね。それこそ活動的になって、海へ行ったり、山に行ったり」


「それに、お祭りしたり、花火まで上げちゃう! かき氷もスイカも美味しそうで、私は夏に憧れちゃう〜」


 と、春の妖精が笑顔で言うと、


「それは誤解だよ」


「あ、夏の妖精さん、こんにちは」


 冬の妖精と春の妖精は、夏の妖精に挨拶をしました。


「君たちは夏を誤解しているよ」


「そうですか、人間たちは、とっても待ち遠しくしてるように見えますけど」


 と、春の妖精が言うと、夏の妖精は「そんなことはない」

 と、言ってから続けました。


「夏になったら、どれだけの人間が動かなくなるか、外はもちろん、家の中にいても、グダ〜っとしてるし、熱中症になってしまうものも多い。最近じゃエアコンなんてつけるから、よけいに夏バテして、終わりの頃は、早く涼しくならないかなぁ、が、口癖になってる始末だよ」


 聞いていた春の妖精は、


「確かに、夏の終わりの頃の人間は、かなり元気が無くなっている感じがしますね」


 と、同情するような顔をしました。


「すると、人間が一番好きなのは秋ですかねぇ」


 と、冬の妖精が言うと、夏の妖精がいいました。


「そりゃそうだろう、過ごしやすい気温になるし、紅葉がキレイだし、なんたって、米だの野菜だの、いろんな食べ物が実って、人間にとってイイことがたくさんあるだろう」


「そうですよね」


 と、春の妖精は、


「実りの秋、食欲の秋、読書の秋、なんて言葉があるくらいですもの人気がありそうですね」


「睡眠の秋、なんて言っている人間もいるし、みんな楽しそうです」


 冬の妖精が頷くと、


「それはどうでしょう」


 静かな声で秋の妖精が現れました。


「こんにちは」


 と、冬と春と夏の妖精が挨拶をすると、


「ハイ、こんにちは」


 と、ゆったりとした口調で秋の妖精は答えてから言いました。


「秋になると長雨が続いてしまって、人間たちは大そう困っています。お日様が出ている時間も短くなり、段々、気温も下がって来るので、不安になってくる人も多くいて、皆、淋しそうにしています」


「フフフ」と、秋の妖精は少し微笑んでから、


「人間たちは、早く冬になって、クリスマスやお正月が来ないかなぁ〜、と、待ち遠しく思っていますよ」


 冬と春と夏の妖精は、秋の妖精の話を聞いて「う〜ん……」と、唸りました。


 それから、四季の妖精はみんな黙って、しばらく考えました。


「つまり……」


 冬の妖精は言いました。


「人間たちは、それぞれの季節で楽しみ、それぞれの季節で苦しみ、それでも生活している、ってことですかねぇ」


 春の妖精が答えます。


「そうですね、それぞれの季節の良いところで喜び、悪いところでは嘆きながら、生きているのね」


 夏の妖精が続けます。


「つまり、どの季節にも、良いところもあれば悪いこともある、ってことだな」


「ハイ、」


 と、秋の妖精が静かに言ったあと、


「私たちは、その季節に合った、その季節らしい世界を作り上げることが、大切なのだと思います」


 冬と春と夏の妖精は大きく頷きました。


 そして、四季の妖精たちは、笑顔で会釈して、自分たちの季節へ帰っていきましたとさ。




おしまい

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