【楽しみたいとき】『カメがウサギに勝つ方法』
「だからやめときなって言ったのにぃ」
山の頂上でウサギはカメに言いました。
「足の速いボクに、お世辞にも速いとは言えない君の足で、競争して勝てる訳がないじゃないか」
のそのそと歩いてるカメの横で、歩調を合わせるように、ウサギが歩きながら話しかけました。
カメはウサギをチラっと見てから、
「ウサギさん、競争はまだ終わっていませんよ」
と正面に向き直り、歩みを止めぬまま、
「約束しましたよね、往復して速く着いた方の勝ち、って」
山のふもとからスタートして山を登り、頂上にある木を回ってスタート地点に戻る。それがふたりの競争のルールでした。
「あぁ、そうだねぇ、確かに競争は終わってない」
ウサギはあきれた表情のまま話しを続けました。
「でもねカメくん、ボクは折り返し地点の頂上で、キミがくるまで一時間も待ってたんだよ、途中で昼寝しても、まだ来ないんだもの退屈しちゃったよ」
ウサギは肩を大げさにすぼめました。
確かにウサギの気持ちも分かります。頂上に先に着いて昼寝もして、それでも来ないから、少し山を降りてきて、こうしてカメの横を歩いているのです。
どう考えても勝負にならない競争です。そもそも、なぜ、こんな競争が始まったというのでしょう。
まず、ウサギがカメの足の遅さをバカにしたことが始まりでした。
カメが起こったので「だったら勝負しよう」とウサギは言いました。
カメは勝負を受けました。ただし、ルールは自分が決めると言いました。
ウサギは「自由に決めていいよ」と言い、山の頂上にある木を回ってからこの場所に戻ってくる、というカメの作ったルールで勝負することが決まりました。
そして今、カメは無言のまま、のそのそと山の頂上の木を回りました。
ウサギは頑固に歩くカメの姿を見て、軽く息を吐きました。
「カメくん、キミって奴は素直じゃないよ……、まぁ、いいでしょう。先にふもとで待ってるよ」
と、ウサギは軽快な足取りで木を回り
「一時間後に、また会おう!」
と、カメを置き去りにして行ってしまいました。
カメはウサギの後ろ姿を眺めながら、のそのそと歩きました。
やがて下り坂に差し掛かりました。
するとカメは、段々と小さくなって行くウサギの後ろ姿に向かって、ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべました。
(フフフ、ボクはこの時を待っていたんですよウサギさん)
カメはウサギの後ろ姿から目線を外し、進行方向に対して体を横向きにしました。
(あなたが頂上付近でわざわざボクを待ってバカにしてくることは、あなたの性格上から判断して、分かっていました)
横を向いたカメ。
(すべては計画通りです。とっとと走ってゴールすればよかったものを……)
左が頂上側、右がふもと側、道は下り坂です。
(このルールを、あなたがのんだ時点で、ボクの勝ちなのです)
右側の足を二本、甲羅の中に静かにしまいました。
(カメにウサギの頭で勝とうなんて、100万年早いですね)
頂上側にある左の足二本に力を入れました。
「せ〜の、よっ」
体が、右の方、つまり、下り坂の低い方に傾き始めました。
そして、くるりと一回転。
「もう一回、せ〜の、よっ」
足を使って一回転。
テンポよく足を使ってもう一回転。
リズムに乗ってもう一回転。
だんだんと下り坂で加速がついて、とうとう足を使わなくても回転し続けるようになりました。
カメは全部の足を甲羅の中にしまいます。
転がるスピードが上がりました。
その頃ウサギは、のんきに口笛を吹きながら歩いて山を下っていました。
こんな速さでも勝てると気楽なもんです。
あくびが出てきて、なんだか眠くなりそうです。
───コロコロ
何やら後ろから音がします。
コロコロコロ
(石でも転がって来たのかな?)
と、ウサギが振り向こうとした瞬間、
コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ!!!
ウサギの横を、物凄い勢いで何かが転がって行きました。
「───── へ?」
ウサギは呆気にとられました。
が、次の瞬間、転がって行ったのがカメだと気付きました。
「ちょっと、カメくん」
ウサギは慌てて走りました。
コロコロコロコロコロコロ!
「ちょっと、ちょっと、ちょっと、ちょっと」
全力で走っても、カメとの距離は縮まりません。
コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ!
「ちょっ、ちょっ、ちょっ、カメくーん」
ウサギは、力を振り絞って必死に走りました。
コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ!
「ちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょ」
必死に走ったおかげで、徐々に転がっているカメに近づいてきました。
全力で走っていると、あっという間に、ふもとのスタート地点が見えるところまでやってきました。
ラストスパートです。
ウサギは歯を食いしばって、全身の力を足に込め走りました。
あとちょっとで、転がっているカメに追いつきそうです。
しかし、さすがに全力で走るのも限界に近づいてきました。
がんばったウサギでしたが、ついに、スタート地点の手前で失速、カメに先を越されてしまいました。
コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ!
スタート地点に先に戻ったのはカメでした!
カメの優勝です。
カメは、全力で走るウサギに勝つことができたのです!!
ウサギはスタート地点に倒れ込み、ゼーェ、ゼーェ、と激しく息をしました。
そして、しばらくして、カメの姿を探しました。
しかし、ウサギが周りを見渡しても、カメの姿は見えませんでした。
「あれっ……、カメくん?」
目を凝らして、よーく先の方を見ると、まだまだ勢いよく転がっているカメの姿を見つけました。
「おーい、カメくーん、どこへ行くんだーい」
ウサギは、遠くの方で転がっているカメくんには聞こえないだろうな、と思いながら呟きました。
「カメくん、あれじゃ海まで行っちゃうね」
転がっているカメの姿を眺めていると、
(誰か、止めてーーーーーーーーーーーーーーぇ!!!!!)
と叫んでいる、声が聞こえたような気がしました。
コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ!
「ま、その内、戻ってくるだろ」
と、ウサギは寝そべって待つことにしましたとさ。
おしまい
(イソップ物語:ウサギとカメ)
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