第19話 魔法の国の罪と贖

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   裏の裏

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 ぼくはずっと聞いていた。


 妖精男の話の最中も、馬鹿女の話の最中も、ずっと聞いていた。


 ずっと存在していた。


 だから腹が立って立って仕方なかった。


 ぼくは存在しない、だとか。ぼくは妖精じゃない、だとか。ダルクのそばにいてくれる人間が誰もいない、だとか。そういう人間がいれば良かった、だとか。今からでもできる、だとか。


 違うだろ。


 全部、いた、だろ。いや、全部、いる、だろ。

 ぼくはここにいた。今もずっといる。


 ボクが気づかないだけだ。

 でも、きっと、気づく。気づかせる。目の前の女がボクを騙している。ぼくが馬鹿女を殺せば気づくだろう。ぼくだけがボクには必要だって事を。ボクの目を覚ますにはきっと、馬鹿女の血を見せてやればいいだろう。


 そうすれば、ボクはぼくの必要性を思い出してすぐに元に戻る。


 すぐにでもやってやりたいが、でももう、ぼくには力があまりない。

 ボクはぼくの事を信じられなくなっている。すでにぼくが動かせるのは腕一本くらいだ。


 だからチャンスを伺っていた。


 腕一本でも馬鹿女を始末できるタイミングを。


 今じゃなくてもいい。今日じゃなくてもいい。一年後でも。十年後でも。

 ぼくは待つつもりだった。


 でも。


 なんて事はない。すぐにそのタイミングはやってきた。馬鹿女が依頼を見ると言って目を閉じた。完全に無防備になる時間だ。普段なら絶対にそばに妖精男がいる。それで馬鹿女は守られる。でも今はいない。


 いまだ。


 ダルクの右手がブルリと震えた。

 まるで右手だけが意志を持っているように。


 ダルク本人は姉であるアニエスの可愛らしくも美しい幻想的な探偵姿に見入っている。その右手の悪意ある蠕動には全く気づかない。


 スローモーションのように世界は動く。


 右手はブルブルと震える。


 あらぬ場所に行こうとする右手。ボクの無意識の抵抗。それをぼくの意識が無理やり抑え込む。そうしてやれば右手の震えは自然と止まった。


 ゆっくりと。


 右腰に刺さっている護身用の短剣の柄を逆手に掴み。


 でもスムーズに。


 手首を返すようにして鞘から抜き去り。

 その刀身つみを世界に暴露する。


 刀身つみは誰にも気づかれずに輝く。


 その輝きは罪の輝き。罪は闇に隠れたがる。

 だから刀身つみも隠れたがる。

 白日に晒された罪の輝きは、いい隠れ場所を見つけたように、アニエスの腹に吸い込まれた。



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 その時。

 フロノスは貴族街を飛んでいた。


 すでに王城にいる王族への対策は終わっていた。

 ダルクに対しては余裕と言い張っていたが、アニエスもそばにいない状況では、やはり時間を戻して黒い妖精を元に戻す事は不可能だった。

 しかし既に群がる黒い妖精の数も減っており、自分の分体を使用して結界を張って置けば、時間の経過でいなくなるだろうと判断し、そのように対策するようにした。

 これならば時間も労力もそれほどかからず、毒を飲んだ人間の全員を助ける事ができる。


 今は王族への処置を手早く終えて、懇意にしている貴族の処置を終える事もでき、中立状態の貴族を救うべきかどうか迷いながら宙に浮きながら思案していた。


「お嬢によくしない奴らを救うのもなー」


 などと余裕を見せながら独りごちていると。


 体から急に力が抜けた。


 腹からごっそりと存在力が抜け落ちた感覚があった。

 そのせいで空の上で体勢を崩し、危うく地面にぶつかりかけたが、何とか体勢を戻し、V字を描き空へと戻った。ダルクとの対戦で元に戻した妖精たちを体に吸収していなかったらまずかったかもしれない。


 今は何とか空に浮かんでいられるが、それでも存在力の流出は止まっていない。このまま減っていけば、魔法の制御も怪しい状態になってしまう。存在力が流出している感覚のある自分の腹を触ってみるが何もない。


 となると。


 考えられる可能性は一つ。


「お嬢!」


 フロノスは王城へとフラフラとした状態で飛び立った。



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 暴かれた刀身つみが再び秘匿されたタイミングで。


 表のダルクは気づいた。


 自分の右手が。姉の腹を刺している事に。


 驚愕に。

 ナイフからは自然と手が離れ、刺されたアニエスは糸が切れたように床に崩れ落ちた。


「何で! 姉上! どうしてボクはどうして!? 右手! 右手の感覚が……」


 血に染まった右手を見て、ボクは叫んだ。


「よう、目が覚めたか、ボク?」


 狼狽するボクを確認して、ぼくが答えた。


「ああああ! これは! ぼくがやったのか!?」


 心の中から聞こえた声にボクは驚く。


「ああ、そうだ」


 驚く事はないだろうと言わんばかりに憮然とした言葉。

 しかしボクがぼくの存在を認識したため、ぼくはダルクの体の右半分の支配権を得た。


「何で! 何で? 姉上はボクに優しくしてくれたし、ボクを救ってくれようとしたじゃないか!」


 左半分。ボクが怒る。


「救ってくれようと? は、全部綺麗事だ。それにさ。ボクのそばに誰もいないなんて嘘をついてるじゃないか。ボクのそばにはいつだってぼくがいる、今だっているじゃないか」


 右半分。ぼくが呆れたように吐き捨てる。


「そうだけど! ぼくはボク自身だった。支えてくれる他人じゃない。今までぼくがやってくれた犯罪は全部ボクがやっていた事だ! 今まではぼくがやってくれている事はボクはやっていないと思ってた。でも違った! ボクは犯罪者だ! 罪は償わなきゃならないよ!」


 左半分だけで激し、右半身は微動だにしない。

 その姿はまるで壊れた人形のようにいびつだ。


「は、罪の償い? どこまでも綺麗事だな。罪を償ってどうなる? 贖ってどうなる? ぼくらのしてきた事を何で贖うってんだ? ぼくがやってきた事がわかってるのか? ぼくらのこの罪を贖うには命しかないんだよ。死にたいのかい?? ぼくは嫌だよ」


 淡々と。右半分は左半分の抱く感情に忖度する事はせず、一ミリも動く事はない。


「ああ! それでもいいよ! この国の法がそう裁くならボクはそれを受け入れる。ボクはそれだけの事をした! ボクもぼくと一緒に死ぬよ」


「死ぬ? 簡単に言うけどな。じゃあ俺らの理想はどうなる? お前は言ってたよな? この国には問題がある。魔法による差別や格差だ。王になってそれを正すって言ってたよな? 俺とお前でそれを実現するって。二人ならできるって言ってたよな?」


 まるで分裂した様な、左半身、右半身の交互のやりとりは、左右それぞれから見ていたら、まるで向かい合って口論するように進んでいく。


「言ったよ! でも僕らはやり方を間違ったんだ! 僕は人を殺した。裏の道を進んだ人間はローレライ王国の王道は進めないんだ! 僕はずっとその裏の道を君がやってくれているから、自分は大丈夫だと思ってたんだ。ずっと君に甘えていたんだよ!」


 ボクはお前と呼ばれた。

 だから。

 ぼくを君と呼んだ。


「は、確かにそうだな。お前はずっと俺に甘え続けてきた。俺とお前は違う。お前は俺が守ってやってはじめて僕になれる半端者だ! 俺がいなかったら何もできない甘ったれだよ!」


 ぼくは君と呼ばれた。

 思わず動揺したのだろう。

 ボクへの言葉に言ってはいけない言葉と変わる。


 言った後にぼくは失敗した事に気づいた。

 これはぼくが生まれてからずっと、ひたすら隠していた本音だった。


 ぼくはボクの保護者だった。ぼくがいないと泣いてばかりいるボク。そんなダメなボクをぼくだけが認めてあげる。ぼくだけが成長させてあげられる。ぼくが底上げすればどこまでも伸びていける。

 簡単な言葉にしてしまえば、見下していた。

 だけどそれは当然の事。ぼくはダルクが自分自身で作り出したイマジナリーフレンド。立ち位置は守護者。いわばハイヤーセルフとして生み出された存在。上から見て、上から物を言うのは存在として当然だった。


 実際、今まではそれでうまくいっていた。


 だけれど。今は違う。ダルクの中でその存在が揺らいでいる。ハイヤーセルフは自分を見下してくる他者と同一の存在、つまりは敵へと変化していく。


「やっぱり、君もそう思っていたんだね……」


 そんな存在の言葉は、幼い頃から浴びせかけられてきた敵意と認識される。


「違う! いや、違わないけど! でもな! 俺たちは裏と表の二人で一つだ。二人がそろえば王になる器だった。今の王も、次の王になる王太子も王の器じゃない! 実際見てきただろうが! この国には問題が山ほどある! 魔法の強い貴族はふんぞり返ってお前のような王族すらも蔑んで。全ては自分のためにあると考えている。魔法の弱い平民はなまじ魔法が使えるからそれを使おうとしてそれに振り回されて苦しんでいる。王都から離れた領地の人間はもっと苦しんでいる。魔法が使える人間なんてひとつまみだ。でもこの国は魔法が使える事が前提になっている。使えない人間の事なんて考えていない。弱者の事なんて誰も何も一つも考えない! だから俺たちが王になって一度全部リセットさせてこの国を作り変えてやるんだろうが!」


 失敗を取り戻すためだけの多様な言葉。

 ダルクからダルクへと。同じ身体から放たれる言葉は、今までとは違い、決して心まで届く事はない。音は前に向かい、勢いを失くし、地に堕ちる。言葉は全て無駄になる。今までは言葉にしなくても届いていたのに。


「そう、だけど。もう、遅いよ。僕らは失敗した。きっと姉上ならそれを何とかしてくれる」


「いや、今からでも遅くない。その姉上ってのは虫の息だ。あとは妖精男を殺せばいい。そしたら王族は明日には全員死ぬ。俺らが王だ。悪事は全部俺がやる! だから!」


 身体をよこせ!


 その言葉と同時にダルクの身体が奇妙に震える。


 ぼくの顔、ボクの顔。

 まるで顔にノイズがかかったように高速で切り替わる。

 それは体の主導権を奪い合う戦い。


 たまにどちらかの顔で止まり。

 またすぐにノイズに変わる。

 それを何度も繰り返す内に、段々とぼくの顔。裏のダルクの顔に安定しはじめ。

 一分ほどで完全に停止した。


 そこにあるのは。世を恨み。人を憎み。国を滅ぼさんとする。

 顔。その表情は怒りであった。


「まったく! 何でボクは大人しくぼくの言う事を聞かないんだ! 妖精男を殺せばとりあえずぼくらの勝ちだからそれまでしばらく寝てろよ!」


 吐き捨てるような言葉。


 そのまま、つま先は扉へと向かう。一歩踏み出し、二歩目を動かそうと筋肉が動く。

 しかしその二歩目の足は何かに引っかかり動かなかった。思わずつまづくような形になった裏のダルクがイラついた視線を足元へ落とせば、腹から血を流したアニエスが片手でその足を掴んでいた。

 その瞬間に裏のダルクは激昂した。


「ぬあああああああ!!! 馬鹿女! 馬鹿女! ぼくの大事な体に触るな! どこまでも邪魔する穢らわしい無能め! 無能女は大人しくそこで死んどけよおお!」


 脚を掴んでいる弱々しい手を蹴り払う。それはまるで靴に張り付いたゴミを払うかのように荒々しく。それを掴んでいる瀕死のアニエスの手は簡単に払われてしまう。


 足首から振り払った汚物を確認するように、視線を落とすと、その先には虹色の瞳がダルクを見つめていた。


 その瞳には慈愛が溢れいている。


「……ダルク、自分に、勝つ……ですわぁ……お姉ちゃんが……」


 いる、ですわ。


 そう言いかけた言葉は音にならず。

 口だけがそう動いていた。


「しつこいんだよ! 馬鹿女!」


 裏ダルクがそんなアニエスを睨みつける。

 足元のゴミを踏みつけようと、左足をあげ、踏み潰すべく地に落とさんとする。


 が、それは落ちなかった。

 足は中空で止まったまま。そんな自分の脚を見て裏ダルクは眉を顰める。

 原因はわかっている。


「……ボク、いい加減にしろよ……」


 表ダルクの意志は姉の言葉、姉の瞳、姉の応援に、蘇った。


「それは僕のセリフだよ。いや君は、僕じゃないな。人でもない。妖精でもない」


「おい! それ以上言うな! それを言ったら俺は消える!」


「いや、言うよ。言葉にする。言葉にしてそれを受け入れる。君を消してボクは僕になる!」


「ダメだッ!!! 言うな!」


 それは覚悟の言葉。

 ついさっきまではどこかでぼくへの信頼は残っていた。話し合えばわかってくれるのではないか。死ぬべき時までそばにいてくれるのではないか。

 一人で死刑になるのはやっぱり怖い。

 断頭台に一緒に行ってくれる。地獄への道連れになってくれる。一緒に生まれ変わってくれる。

 ぼくは自分だったけど、それでも今までずっと一緒にいてくれた唯一の友だった。

 きっと一緒に歩いてくれると思いたかった。

 信じていたかった。

 端的に言うなれば、まだ甘えていたのだった。


 でも、もう、それも、消えた。


 ダルク・フォン・ローレライはここで初めて一人で立った。


「お前は僕じゃない! お前はただの罪だ! 僕は罪を受け入れる! 僕が全部を背負う! だから消えろ!」


 言葉にした途端。微妙な均衡を保ち、アンバランスな体勢で固まっていたダルクの身体からは一気に力が抜け、後ろへ倒れ込んだ。



 ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽



「お嬢! 何があった!」


 フロノスは力を失いながらも必死で空を飛びアニエスの元へと戻った。

 ダルクの部屋に戻った段階で倒れんばかりに疲労困憊であったが、それでも大事なアニエスの状態を確かめたい一心で部屋の中に転がり込んだ。


 その中ではダルクがアニエスの腹を押さえて泣きそうな顔でアニエスの名を呼んでいた。圧迫して止血をしているがその傷は深く、出血が止まる気配はなかった。そんな状況へ飛び込んできたフロノスの顔を見て浮かべたダルクの表情は安堵であった。


「フロノス! 姉上を助けて! 腹を刺されたんだ、いや違う! 刺したのは僕だ。僕が姉上の腹を刺してしまった。だから助けて! フロノスは時間が自由になるんだろう? 姉上の傷を戻して治してよ!」


 愛する人の惨状と。殺人犯の自白と。姉を思う弟と。

 それらのどれもがチグハグでフロノスを混乱させた。

 しかしそのどれもがピッタリとアニエスの危機を伝えていた。


 しかし時間を戻して傷を治せと言われても。


「む、りだ」


「え? 無理って! フロノスは時間を余裕で戻せるって言ってたじゃないか。フロノスが来てくれれば傷はあっという間に治ると思ってたからここまで必死で姉上の傷を押さえていたんだよ。ねえ! フロノス! このままじゃ姉上が死んでしまう!」


 両手を真っ赤な血に染めながら、ダルクはフロノスを糾弾する。


「お嬢を刺した人間にそんな事言われたかねえ! そうは言っても無理なもんは無理なんだよ! 時間を戻したり進めたりすんのはな! お嬢の力をギリギリまで使って、俺の力も限界まで使ってはじめて使えるんだよ。この状態のお嬢から力を抜いたらそれこそ死んじまうわ! お前こそ光魔法で治癒とかできんじゃねえのか?」


「光魔法にそんな能力はないよ。光は光だ。光るだけだよ」


「役に立たねえ! 存在力だけはご立派でも光るだけじゃどうしようもねえじゃねえか!」


 アニエスの危機。手詰まりの状況。そんな中で光るだけなどと言われ、ついつい嫌味な言葉が出てしまう。

 その言葉にダルクはハッとする。


「ねえフロノス! 今、僕の存在力はご立派って言った?」


「ああ! 言ったよ! 皮肉だよ! 悪かったな!」


「違う! 違うよ! 姉上の力の代わりに、僕の力を使って時間を戻せないの? これでも僕は王族だ。僕だけだったら暗くなったり明るくなったりしかできないけど、フロノスが使えば姉上の時間を戻して傷を治す事ができるんじゃないの!?」


「そんなっ! こと……」


 出来るワケねえと反射的に言いかけたが、フロノスは思い直した。


 可能かもしれない。


 フロノスはアニエスを愛しているから魔法が使えるワケじゃない。アニエスを愛した結果、フロノスがアニエスの力を使っているだけだ。妖精は誰の力だろうが元来使える。誰の存在力でも吸い出してしまう黒い妖精がいい例だ。理論的には出来るだろう。


「……や……ってやれない事はねえな……ただ」


「ただ?」


「多分、お前は死ぬよ。よくて植物状態だ」


 フロノスの見立てではダルクにはアニエスほどの力は宿っていない。アニエスは無能と呼ばれているが元来はとてつもなく存在力を宿していた。しかし元妖精王であるフロノスに見染められ、物質世界でフロノスが受肉するために全ての力を使用され、魔法が使えない状態になっているだけである。

 しかしダルクは違う。

 ローレライ魔法王国の王族としての存在力は有しているが、時間を巻き戻すために存在力を使用した場合、物質世界に存在をとどめておけなくなる可能性の方が高い。


 これは死刑宣告だ。

 お前にその覚悟があるのか。

 そうフロノスの目は問いかける。

 それに対してダルクはあっさりと答える。


「いいよ」


 そう答えて、ダルクは真っ直ぐにフロノスを見つめる。

 その瞳の中にはまごう事ないローレライ魔法王国王家の光が宿っていた。

 フロノスの愛するアニエスの瞳の中にもよくみる輝きだった。


「いいのか?」


「うん。僕はどうせ死ぬ。今までの罪を考えれば死刑でも足りないくらいだよ」


 言葉としてはやけになって聞こえるが決してそんな事はない。

 その言葉。その態度。

 自分の罪と向き合い、自分の状況を正確に理解し、自分のなすべき事を理解している。

 ダルクは一人で立っていた。


「なんだ。何があったか知らないが覚悟は決まってんだな。突きつけられた罪を受け入れられずにただうずくまるしかなかったさっきまでの王子様じゃねえんだな」


 フロノスはそこまでのダルクしか知らない。

 アニエスが心を救い、自分の罪を受け入れ、分裂していたダルクは統合されている。

 今のダルク・フォン・ローレライは高潔な王族の精神を持っている。


「そうだね。姉上のおかげだ。だから僕は命をかけて姉上に恩を返すよ」


「わかった。手を出せ」


「うん」


 フロノスは。


 ダルクの手を握り。


 アニエスの腹を触る。


 その瞬間。


 部屋は虹色の光に包まれた。



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