第10話 恋人と子供
太陽系を脱した俺たち。自由を手にした一方で、引力という支えをなくし、太陽光という恩恵も失った。
それでも昔と変わらず、星々の光、星々のざわめきが俺たちを包む。神秘の海に迷い込んだようだと女神様は語った。俺には星の声が聞こえないので、ただただ静寂だけを感じている。
宇宙に
***
宇宙空間を漂っている俺たちに、突然、一つのメッセージが届いた(と、女神様が教えてくれた)。
「地球さん、地球さん。近くに惑星があるみたいです。かつて生物が
「そうなんだ」
「もうずいぶん昔に恒星から離れてしまって、今はもう生命体はいないみたいです。で、その彼女が
「お願い?」
「子供を作らないかって」
それはどういう意味なんだ。
「一緒に惑星を作って、どこかの恒星の周りに飛ばしましょうっていう提案ですね」
「どうやって作るの?」
「体当たり」
なるほど。星と星がぶつかったエネルギーで、また星を作る。その若くて新しい惑星を恒星の近くに到達させることができれば、また
「良い提案だと思います」
「良い提案なの?」
「良い提案ですよ。新しくできた星は地球さんの子供であると同時に地球さん本人でもあるのです。地球さんが若返ることができるのですから、良いことに決まっています」
「確かにその通りだね」
「はい、その通りなんです」
「でもお断りだ」
「何故?」
俺は女神様の頭をぽんぽんと叩こうとして、でも手が届かず、ただパタパタとしてみせただけだった。
女神様がその手を握ってくれる。
「地球さん。どうして断っちゃうんですか」
「だって──女神様は無事なのかな。子供を作った
「分かりません。お別れになるかもしれません」
「女神様は俺と別れてしまって良いの? ずっと一緒にいようって言っていたくせに」
「別れたくなんかないですよ。当たり前じゃないですか。でも地球さんにとって良い結果になるのなら、私は我慢します」
「女神様。女神様がそんな顔をするから、俺は断るんだ」
「でも! これは大チャンスですよ!」
「俺は女神様との未来を選ぶ。それに……女神様も気付いていると思うけど、俺の中にはまだ
「でも、こんなチャンスは二度と」
「伝えてくれないか? 俺の気持ちを相手に」
「う、はい。分かりました……」
説得は難しいと理解した女神様は、惑星さんにメッセージを返す。
そして彼女はしばらく沈黙した後、急に笑顔になった。
「地球さん! お返事が来ました! それでですね、彼女は今の話を聞いて、やっぱりどうしても
「そうなんだ」
「そこで彼女の希望ですが、地球さん自身との合体は望みません、代わりに衛星──月さんをくださいって言っています!」
どういうこと?
「あ、まず説明しないといけないですね。実は月さんは大昔に地球さんから、巨大隕石との衝突の影響で切り離されてできたものなんです。つまり月さんと彼女が合体するということは、地球さんと彼女が合体したのと同じってことです。地球さんの子供ができるんです!」
そうか。それなら悪くないかな。
「どうですか?」
「月さんが嫌がらなければ、良いと思う」
「嫌がるわけないじゃないですか。新しく
その後、女神様が月さんと話をして、合体話をまとめてくれた。
そして俺は、たっぷりと別れを惜しんだ
「さようなら、うさぎの星のお月様。ずっと
俺がそう言うと同時に、女神様はぷっと吹き出した。
「どうしたの?」
「そのお月様の最後の言葉、なんだと思いますか? 『実はずっと回り続けて疲れていたんだ。最後に大役を任せてくれて感謝してる。あばよ、兄貴』ですって!」
俺も吹き出した。月さんって、こんなやつだったのか。
星の海に吸い込まれていく彼に、俺は言葉を投げかける。あばよ、弟。ちゃんと子供を作ってくれな。
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