第7話 流れ星と願い事
さらにさらに数年が過ぎた。
地球の環境は今日も昨日も明日も、来年も十年後も百年後も千年後も、そんなには変わらないだろう──俺が大病を
人間たちの活動で二酸化炭素を初めとする温室効果ガスが増えていて、地球温暖化が進んでいるなんて言うけれど、たとえそうだとしても、長い長い地球の歴史の中では
隕石なんてものもある。小さければ大気圏で燃え尽きて消えてしまい、もし地表にたどり着いたとしても河原の石に埋もれてしまう。しかし大きければ地球環境を激変させる力を持ち、かつて地球に衝突したたった直径10キロメートルほどの隕石は、当時の生態系の王であった恐竜たちを絶滅させ、哺乳類を新たな生態系の王として君臨させる要因となった。
その隕石は地球の直径の千分の一に満たない大きさで、象に石ころをぶつける──否、砂粒をぶつける程度のことだったけれど、それだけのことでこれだけのダメージを地球に与えた。
「地球さん! 地球さん! 見てください、流れ星ですよ!」
「女神様。言われてから探しても見つけられないよ」
なお流れ星は隕石ではない。キラリと光ってすぐに消えてしまうそれは、地球にとって無害な宇宙のチリの集まりである。だから怖がる必要なんてないし、無邪気に声を上げる女神様の反応は正しい。
でも俺は想像してしまう。もしそれが巨大隕石で、地球にぶつかったらどうしよう──と。人間として生きていれば長くて百年の寿命だし、そんな地球規模の災害に巻き込まれる可能性は低いだろう。しかし何万年も何億年も生きる地球にとっては、いつかは起こる災厄なのである。
「地球さん、地球さん。願い事しておきましたよ」
「女神様なら願わなくても、大抵のことはできちゃうんじゃないのかな」
「そういう無粋なことを言ってはダメですよ。お花見を生殖器鑑賞って言うみたいに」
「そこまでぶち壊しの発言はしないけど……で、なにを願ったの?」
「地球さんの健康と、地球さんとずっと一緒にいられることと、地球さんが幸せな気持ちでいられることです」
「うーん、三十点くらいかな」
女神様が泣きそうな顔をする。少しからかいすぎてしまったようだ。
「じゃあどうすれば百点になりますか? 模範回答を示してください」
「『女神様が幸せな気持ちでいられること』が足りてない。あと俺は女神様とずっと一緒にいるだけで幸せだから、『地球さんが幸せな気持ちでいられること』は改めて願う必要はない」
泣きそうだった女神様がはっとしたような表情になって、それから笑顔になって──でも笑顔なのにぽろぽろと泣き出してしまって──
「ひどい。地球さんはいじわるです。そんなことを言われたら嬉しくて泣いてしまいます……。それに地球さんの答えも間違っていますよ。だって私も、地球さんとずっと一緒にいるだけで幸せだから、『女神様が幸せな気持ちでいられること』は改めて願う必要はないんです」
俺は──女神様も、照れ隠しで、また夜空を見上げた。流れ星は見つからないけど、星々の瞬きは相変わらず綺麗だった。
ずっとずっとこうして二人で眺めていたいと、星空に願ってみた。
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