第6話 花粉症と大雨注意報

 さらに数年が過ぎた。今は春である。


 俺はくしゃみを我慢していた。地球になってから風邪なんてひいたことがなかったのに、今日になって突然──である。


「地球さん、どうしましたか?」


「女神様。くしゃみが出そう」


「えええ!?」


 女神様は大きくって驚いてみせた。


 地球のくしゃみは洒落にならない。天変地異を引き起こしてしまう。


「ど、どうしたんですか! 風邪ですか!」


「分かんない。鼻がむずむずして目が痒い」


「あ、それってまさか……」


 彼女は杉林を見た。


「花粉症?」


「地球が花粉症になるなんて聞いたことないけど」


「人間が地球になるなんてことも聞いたないですけど。人間っぽさが残っているのでしょうか……」


「うん。それで……どうしよう」


 女神様はマスクとゴーグルをぽんっと出して、俺に装着した。


「ありがとう」


「はい。これくらいお安い御用です」


「でもくしゃみは出る」


「ええええ!」


 俺はそれから連続でくしゃみをした。その結果、春の嵐が世界を駆け巡った。



***



 普通のマスクだと花粉を完全に防げないので、ガスマスクみたいな完全防備のマスクを装着してみた。


「これなら完全に花粉症を予防できるね」


「そうですけど、今度はまた別の問題が……」


 俺は女神様の不安をすぐに理解する。


「防備しすぎて気流が変わっちゃっているのかな。なんとなく世界の気候が変だね」


「そうですね。でも花粉症でくしゃみ連発するよりかはマシだと思います」


「そうなのかな」


 ガスマスクを外してみる。すぐにくしゃみが出る。世界の至る所で暴風が吹き、大雨が降る。


「そうかもしれないね」


「そうですね。こうやってくしゃみを繰り返すよりかはガスマスクの方が──いや、やっぱりなるべく自然体にしましょう」


「どうして?」


「だって地球さんのくしゃみのせいで暴風雨が起こるのは、それが地球の運命だからですよね。あと……地球さんの顔色が確認できないのは心配です。あ、別に顔が見れないのが寂しいとかではなく──」


「最後のは言わなくていいよ。俺の顔なんて眺めていても楽しくはないだろうし」


 くしゅん。またくしゃみが出る。


「そんなことないですよ! 私は地球さんの顔、とても好きですよ! 寂しくないというのは嘘でした!」


 くしゅん。またくしゃみが出る。鼻水も出る。鼓動も早くなる。


「あれ、地球さん。暴風雨はともかく、各地で地震が起きていますけど、なにかありました?」


「なんでもないよ。別に女神様の言葉にドキドキなんてしてないから」


 そんなふうに俺は、またくしゃみをした。目も痒いし、ガスマスクはやりすぎだとしても、布マスクとゴーグルはつけた方が良いだろう。


「花見の季節に桜を散らしたくないからね。もう手遅れかもしれないけど」


「地球さんたら、人間贔屓びいきで日本人贔屓びいきな発言はダメですよ。でもお花見は楽しそうですよね……ところで私も鼻がむずむずしてきました」


 そう言って女神様もクチュンとくしゃみをした。もしかして女神様も花粉症になった?

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