第28話 幕間⑦
真奈の件に関してはカフェ側で対応してもらうということで、一応の決着を付けることにした。
でも、もし何かありそうな時には容赦なく制裁するつもりだ。
何かがあってからでは遅いから。
綺麗なあの子をキズモノにするなら、例え誰が相手でも止めてみせる。
なんて、さっき醜悪な一面を覗かせた姉紛いがこんなこと言っても、と思うけど。
カフェから出て、二人でぶらぶらと歩く。
その間、アタシは徹の腕にしがみついていた。
さっき
真奈と話した男はみんな真奈を好きになる。
アタシもそうだ。あんな可愛い子と話して舞い上がらないわけがない。
徹はどうだろう。アタシのことを好きだと言いながら、真奈にも気を寄せるかもしれない。
嫌だ。それだけは嫌だ。
徹はアタシが独占したい。他のなんでも譲るから、徹だけは取らないで欲しい。
そんな邪念が頭の片隅で蠢きながら、徹と話してるとあることに気付く。
人が減っている。
それに気付いた時、徹は「河川敷に行ってもいいか」なんて言い出す。
別に構わないけど、河川敷には何も無い。
散歩でもしたいのかな、なんて思いながらついて行く。
河川敷に、と言ってはいたがより詳細に言えば、河川敷の上を通る橋の方に向かってるみたいだ。
橋の下とか暖かい日に昼寝すると気持ちよかったのをふと思い出す。
学校が嫌でフケた時に見つけた場所で、人もあまり来なくて静かだったから、昼寝をしてもそれほど危険じゃなかった。
ん?人もあまり来ない?
アタシがしがみついてる腕の主を見上げる。
表情はいつもの眠そうな顔だ。
それでも、どことなくテンションが普段より高い気がする。
人気の少ない橋へ、テンションの高い徹と向かっている。
何故なんだ。
橋から見る景色が綺麗なのか、橋フェチなのか。
聞いてしまった方がいいのか、聞くだけ野暮なのか。
アタシもよく分からない思考になってきて、口数が段々と減っていく。
そうして言葉少なに着いた先は、やっぱり橋の下だった。
「恋、こっち」
「あ、ああ」
徹に誘われるままに、コンクリートの坂に膝を抱えて座る。
ここか。ここなのか。外だけどここなんだろうか。
さっきまでの不安はどこへ消えたのか、今はこれからの展開で頭がいっぱいになっている。
「恋。実は気にしてるだろ」
「え、え?」
気にしてる?まさかアタシの考えが今まさに読み取られてるのか。
いや、違う。
もしそれを読み取っているなら、徹はこんな回りくどい台詞を言わない。
つまり、気にしてるというのは、さっきまでの不安の種のことだろう。
頭に上っていた淫靡な熱は急激に下がっていって、アタシは思いの丈を述べていた。
次第に涙が溢れてきた。
アタシは何をやってるんだ。
こんなこと言っても、急に泣いても困らせるだけなのに。
アタシが、一番狡い。
徹は、そんなアタシにキスをくれた。
何度も、何度も小さく、間隔の短いキスを繰り返していたと思ったら、今度はアタシの口を舌でこじ開けて、深く長いキスをする。
お互いの舌がお互いを求めてぬるりと動いては、ツバを垂らしながら絡み合う。
すごく、エッチなキスだった。
この前に徹の部屋で、徹の布団に包まれていた時の様な高揚感が湧き上がって、お腹の辺りがまた熱くなる。
これは、たぶん、欲しがってる。
徹に滅茶苦茶にしてもらいたくて、体が徹を求めてる。
ディープキスが途切れる。
「と、とおる、んっ」
ふと口から徹の名前が溢れてしまう。
その直後にまた舌でアタシの口の中を滅茶苦茶にしてくる。
ダメだ。こんなの我慢できるわけない。
今日こそ逃がさない。
今日こそ、徹に抱いてもらうんだ。
いつの間にか覆い被さるように体も重ねていたが、それに気付くと同時に、その背後に揺れる影を見た。
幸せすぎて幻覚でも見だしたかと思ったけど、それは違った。
「徹っ!!!」
それは、最近見た顔ぶれだった。
徹を転がしてた二人の男と、この前男子学生からカツアゲをしてた五人の男達だった。
徹を直接転がしてた男の手に持っていた警棒らしきものが、徹の後頭部に振り下ろされる。
一度じゃない。何度も、何度もそれは徹の頭を鳴らす。
「やめろっ!やめろってっ!」
アタシは叫びながら、その警棒らしきものを掴もうと手を伸ばす。
しかし、徹が覆い被さっているせいで体が起こせず、上手く体が動かせない。
違う。さっきより徹はアタシの頭側に移動して、アタシを完全に守る形で動いてる。
徹は、全身でアタシを守ろうとしてる。
バカ。バカだ。アタシの方が強いんだから、アタシに任せてコイツら全員ぶっ飛ばして、さっきの続きをすればいいのに。
蕩けきった脳を一瞬で切りかえて、アタシを守ろうとしてるんだ。
徹に遮られた視界の奥で、警棒らしきものが地面を転がる音がする。
その瞬間に、徹は殴りかかってきた男にしがみつきながら、コンクリートの坂を転がる。
「徹っ!」
だが、その隙を縫うように、男が六人も一斉にアタシに向かってきた。
まだコンクリートの坂に尻をついていたアタシは、ロクに応戦もできずに両手足を拘束される。
「離せっ!」
「よう。あの時は世話んなったな」
アタシが徹を助ける時に、腹と顔面にダメージを叩き込んでやった男がアタシの腹に跨る。
「離せって言ってんだろ」
男が一人ずつそれぞれの手足を抑えてるせいで、ピクリとも体を動かせない。
残りの一人、あの時アタシに復讐しろ、とか言ってきた奴が、アタシを見下ろしてる。
「お前ら、しっかり抑えとけよ。後で楽しませてやるからよ」
男の下卑た笑いが妙に癪に触る。
「触んな。触ったらぶっ殺す」
「へぇ。こうか?」
男はアタシのパーカーの裾を鷲掴むと、一気に捲りあげた。
下着に包まれた胸が露出する。
それでもアタシは声をあげない。
徹に心配はかけられない。
「決めた。絶対にぶっ殺す」
「悲鳴の一つでもあげればもっと可愛かったろうになぁ」
男は相変わらず気色の悪い笑みを浮かべながら、徹にすら触れられたことの無い胸を掴んできた。
その瞬間、アタシの中で激烈な感情が湧き上がる。
「っざけんなっ!殺す!ぶっ殺してやる!」
体を無理矢理起こそうと可能な限り暴れる。
その時、肩が変な音を立てたがどうでもいい。
それ以上そこに触れるな。
そこはお前が触っていい場所じゃない。
だが拘束は解けずに、男の醜悪な顔が紅潮してきて、男は自分のズボンに手をかけた。
ダメだ。それだけはダメだ。
アタシは暴れ続けたが、やっぱり拘束は解けない。
はずだった。
腕が自由になる。
その瞬間に男の顔面に拳を二発、即行で入れる。
「ぶぇっ!お、お前ら、抑えとけって言っただろ!」
情けない命令を下しながら男はアタシの腕を抑える。
どういうことだ。なんでアタシの拘束を解いた?
もはや敵じゃない男の脇越しに、アタシはそれを見た。
徹?
違うような気がしたが、その人は確かに徹だった。
最短距離で、最大人数を巻き込んだ攻撃を的確に入れていく徹。
戦えたのか。いや、それより徹の顔が明らかにおかしなことになっていた。
もちろん、血に塗れていたというのはあるけれど、そうじゃない。
血に塗れながら徹の目が大きく開いていた。
まるで一瞬すらも見逃さないと言わんばかりに開いていたその双眸は、いつもの眠そうな雰囲気なんか微塵も無くて、常に相手をどう壊そうか考えてる、そんな凶暴な光を鈍く放っていた。
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