とりあえず会議
日乃本 出(ひのもと いずる)
とりあえず会議
居酒屋の個室で、数人の作家志望が話し合っていた。
その議題は、最近発表されたKACのお題についてだ。
「しかし、見たかあのお題を?」
「うむ。トリあえずというお題だったな」
「しかし、なんでまたトリだけがカタカナなんだろうか」
「さあ、それはわからない。何か深い理由でもあるんじゃないのか?」
「深い理由ねぇ……。トリだけをカタカナにする深い理由なんていったいなんなんだろうな」
「それをくみ取って作品を作り上げるのも、我々作家の使命といえる」
「そうだな。よし、まずは注文をしてから考えよう」
「そうするか。店員さん、とりあえずビールを全員分お願いします」
「ちょっと待て、今、お前はなんと言った?」
「うん? とりあえずビールと言ったが?」
「何がとりあえずビールだ。お前はビールをバカにしているのか」
「何を言っている。そんなわけあるはずないだろう。俺はアルコール類の中で一番ビールが好きだ。ビールこそ至高の飲み物だろう。それほどに敬意を払っている。失礼なことを言うな」
「なんだと。失礼なのはお前の方だ。何がとりあえずビールだ。その言葉はビールを完全にバカにしているとは思わないのか」
「なんだと。バカはお前だ。とりあえず、という言葉の意味を分かっていっているのか」
「ああ、もちろんわかっている。とりあえずとは、さしあたって・すぐに・たちどころに、という意味合いがある。そして、さしあたってという意味は、先のことはともかく今のところは、という意味合いが強い。つまり、今のところはビールで、と言っているのと同義だ。どうだ、バカにしていると言えるのではないか」
「まったく、うるさい奴だ。とりあえずには、すぐに、という意味もあるのだろう。だからこそ俺はすぐにビールが欲しいという意味合いで言ったのだ。これのどこがバカにしているのというのか」
「言葉遣いが悪いのだ」
「じゃあなんだ。今回のKACのお題も言葉遣いが悪いというのか」
「それがわからないからこうして話し合いの場を設けたのだろうが。やはりお前はバカだ」
「なんだと。聞き捨てならぬ。すぐに訂正しろ」
そうこうしてヒートアップしている中、店員さんがビールを持ってやってきた。
「何やら盛り上がっておいでですね。しかし、みなさん、カクヨムに投稿しているのですか?」
「おや、店員さん。どうしてそれがわかったのですか?」
「いや、KACがどうとかお題がどうとか聞こえてきましたからね。僕も、カクヨムを利用していますから、わかったんですよ。あ、でも僕は投稿はしたことありません。読むほうです」
「おお、それなら店員さんにも意見を聞いてみよう。店員さん、今回のKACのお題のトリあえず、これがトリだけカタカナなのはなんでだと思いますか?」
「そうですねえ……。深読みするならガンダムの戦闘機であるトリアーエズが出てきますが、多分、簡単な理由だと思いますよ」
「ほう? どうしてそう思うんです?」
「だって、カクヨムのマスコットがトリですからね。きっとそんなとこが理由じゃないんですか?」
的確かつ正論に近い店員の言葉に、一同は苦虫を噛み潰したような表情となって、ビールを口に運んだ。
今日のビールはやけに苦く感じた。
物事、なんでも深読みすればいいというもんじゃないらしい。
とりあえず会議 日乃本 出(ひのもと いずる) @kitakusuo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます