恋ってわからないもの
蒼雪 玲楓
始まりはこんなもの
「とりあえず、私のこと恋人にしてみない?お試しでいいからさ」
そんなことを言われたのはいったいいつのことだっただろうか。
当時の僕たちは二人ともとても幼くて、恋愛がどんなものかなんてわかっていなかった。
そのことが大人になった今ならわかる。
言い出した彼女も、承諾した僕も、おままごとの延長のようなそんな感覚だったと思う。
とりあえずで始まった関係もずっと続いていけば案外慣れるというか、馴染むもので今では僕と彼女の左手の薬指にはお揃いの指輪がはめられている。
「ちょっとー、何急に手を上げて指輪眺めたりなんかしてるのー?」
「こうやって指輪を付けることになったきっかけが誰かさんのとんでもない一言だなと思って」
「あ、あははー。あの頃の私は若かった……うん!ほんとに若かったしノリと勢いだけで言い出した感はあるのは否定しない!」
苦笑いを浮かべた彼女はソファーに座る僕の太ももに頭を乗せるように寝転がる。
「でもさー、そのノリに付き合ってるそっちもそっちじゃない?」
「あの時から実は好きだった、って言ったら?」
「そ、それほんとなの!?」
「残念ながら嘘。仲のいい友達としての好きなら本当だったけど」
「ば、バカ!!びっくりさせないでよ!」
寝転がったままの姿勢でポカポカとお腹を殴られる。
照れているから全く力が入っておらず、軽い衝撃しか伝わってこないせいでちょっとしたマッサージ程度にしかならない。
「でもさ、そんなにびっくりするところあった?」
「もちろん。えっと……あれ…そんなにない?」
僕を殴る手を止め、寝転がったまま器用に頭を捻る様子を見ると微笑ましくなって思わず頭を撫でてしまう。
「んっ、急にどうしたの……くすぐったい」
「なんとなく撫でたくなったから」
「なんとなくかー、なら仕方ないから許す。もっと撫でて」
すっかり猫みたいにじゃれついてきていた彼女はふと何かを思いついたのか、僕のことを見つめてくる。
「ん?どうかした?」
「とりあえずで恋人になったのに、結婚までするなんて私にベタ惚れだなって思ってさー」
「そんなこと言ったら、それに加えて恋人になってって言い出したそっちのほうが状況は更にすごいからね?」
「うぐっ……いいの!お互いベタ惚れってことでこの話おしまい!」
とりあえずで始まった関係も悪くはないし、このままずっと続けばいいなとこっそりと思うのだった。
恋ってわからないもの 蒼雪 玲楓 @_Yuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます