【KAC20246】しあわせの青いトリ?

こむぎこ

依頼

 隣人から、青いトリの納品を依頼された。というよりも、チルチルとミチルのお話が実際に可能なのか、なんて検証の依頼をされたという方が正しい。不審な依頼だと思ったからこそ、内容を何度も確認をしたし、その内容の書面も作ったが、なぜだか依頼主はかたくなに素性は伏せていた。


 何でも屋なんてものを開いていれば数多くの依頼を目にするが、さすがに度を越している。詳しく話を聞けば、孫娘にせがまれているらしく、依頼者自身も試してみたのだが、それでは納得しなかったと。もっとちゃんと調べてほしい、やればちゃんとできるはずだ、と孫娘に言われてここまで話が回ってきたとのことだった。


 この何でも屋は一人で経営しているのだから、どうあがいてもチルチルとミチルなどいないのだけれど、私は即座に応諾してしまった。依頼料が依頼料だったうえに前金まで支払うとのことで、多少の不審さは依頼料で食べられる焼肉の枚数によってどこかへと消えてしまった。応諾した次の日には、帽子も持って来てくれたし、加えて白いトリまで持って来てくれた。


 聞きかじった原作知識をもとに、帽子をもって冒険にでも飛び出そうとするも、別段不思議なことも起きない。なにかが見えるようになるわけもなく、ただただ、平穏な街の風景だけが広がっていた。その帽子ぶかぶかで似合ってないね、とか、探し猫に頭でも引っかかれたかい、とか、そんなことをいわれるようになったくらいだ。


 ならば、ひとつ夢でも見ておけばいいだろうと思って、睡眠を楽しもうとするものの、うまく夢の一つも見れやしない。しばらくヒツジを数えてから起き上がってみても例のトリが青く変わることもなく、いよいよどうしたものか、を真剣になやむ段階に入った。


 一応、検証ということなら、「残念ながら件のトリ、あえず、という結果でして」という報告も十分なものであるはずだ。だが、いかんせん、手を抜いたのではないか、と疑われる要素は残る。前金をいただいた以上は、それなりに手を尽くさなければならないだろう。


 はて、手を尽くすと言えば。

 簡単な手順があるにはあった。青ければいいのだ。白いトリを塗装して、青いトリにしてしまえばよい。


 時は金なり。急いでスプレーを買って来た。ただ、いざ行動に移す段になって、さて、これは下手に塗装すると窒息の恐れがあるだろう、どうしたものかと思案に暮れる。ならばペンキのほうがマシだったか。


 そう悩んでいると、不意にインターフォンが鳴り響く。


 塗装現場を放置して出てみれば、警察と、なにやら独特な動物のにおいのようなものをひっさげた作業服の人物がいた。少々よろしいですか、という警察の声は、有無を言わさず頷かせるだけの力を持っていた。


 話を聞けば、なにやら、動物園から、目玉のトリが逃げてしまったようだ。ほう、残念に、と思って聞いていると、その犯人が私ではないか、と疑われているのだとか。そんなことはないと弁明しようとすると、犯人は特徴的な帽子を身に着けていた、それが貴方の身に着けている帽子とそっくりではないかと。後ろで動物園の飼育員はそっくりだ、といわんばかりにうなずいていた。


 そしてさらに部屋の中まで押し入った警察は、この白いトリと青い塗料だって怪しいと大声で言い張った。


 ここに至ってひとつ考えがまとまりかけ、確信を得るために一つ尋ねてみることにした。


「その、トリとは青いトリでしたか?」


 彼らの答えは首肯だった。ここでようやく合点がいった。


 きっと、依頼者あるいは依頼者の孫娘が動物園から青いトリを逃がしてしまったのだ。それを隠蔽しようと青いトリを探したが見つからず、何でも屋まで青いトリを探す、あるいは作り上げる依頼をしに来た。


 依頼者としては青いトリが出来上がればもうけもの、そうでなくても特徴的な帽子を渡して、その帽子から何でも屋の私が疑われれば御の字といったところだったのだろう。


 警察ですらたどり着けていない真相にいち早くたどり着けたことに、私は高揚していた。口早に経緯を話し、真相を警察と飼育員に伝えた。

 だが、警察はこう言ったのだ。


「ならば、依頼者はどなたなのですか?」


 結局のところ、私はその問いにうまくこたえられず、容疑は晴れなかった。

 しばらくの間警察との問答は続き、しばらく拘束される流れになった。そうこうしているうちに、真犯人のほうでなにやらいろいろとあったらしかったが、私は拘束されていたために、この事件のには立ちじまいだった。





 それ以来、トリあえず、依頼者の身分だけは確認するようにしている。

 

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