第3話
「かざはな」
僕は彼女を呼び止める。
今日はまるでカチューシャのように三つ編みを右から左へ髪を編み込んだ髪型だった。
かわいい。
「ラインおしえて……」
僕はさほどの勇気もいらずにスラリと言葉に出した。
「ともだちに、なってくれるの?」
廊下には他にも生徒が行き来しているけれど、僕たちは僕たちで話をしてるんだ。
彼女がスマホを制服のポケットから取り出す。
僕はあらかじめ手に収めていた。
QRコードを読み込んで、追加。
「試しになにか送るね」
風花が画面を二回くらいタップする。
僕のスマホが震えた。
変な動きをする熊が送られてきた。
〈よろしく! カツくん!〉
「ナニコレ」
「自作のスタンプ」
「嘘っ?!」
「うそ。セリフだけ入力して動きとイラストは既成」
「びっくりしたー」
普通に話せる。かつてないくらいの会話量。
そこからは、休み時間目一杯話した。
下校してもラインで話した。
幸せだった。
やがて、春休みになろうという時。
〈やっぱり好きだから付き合って〉
ラインで二度目の告白をした。
僕は文通じみたラインだろうが面と向かってだろうが告白は告白だと思ってるし。フラれたらフラれたでドンと構えるつもりだった。
〈電話していい?〉
風花からだった。
僕から電話をかけた。
「カツくんと結ばれたい」
「どういうこと?」
「身も心も結ばれたい」
「ありがとう」
「引かないの? 今の言葉重くない? 時代錯誤じゃない?」
「心はともかく、実は僕は、まだ子供みたいで、風花をどうにかしちゃいたい、っていう気持ちが湧かないんだ。だから、まあ、無害。安心して」
「男の人なのに珍しい……」
「……今まで何人とつきあったの?」
「え、……ひとり……」
「そう、僕は風花が初めての人だけど」
あんまり過去の男の話とか根掘り葉掘り聞くものじゃないと分かっていても気になって聞いてしまった。
風花が、電話口の向こう側。嗚咽しだした。
「これから先、カツ君が私のエッチな声とか、感じてる声、聞きたくても、私の事満足させようとしてくれても、わたし、カツ君と一緒に気持ちよくなれないんだよ? マグロにはならないけど、カツ君と一緒に、カツ君と、身体が熱くなったり、ナカを思いっきり締めてカツ君を離したくないって気持ちも身体が出せないの、それでもいいの?」
「いい」
風花の言っていることの半分もわからない。僕の考えは別のところだけど心は風花に向いていた。だから聞く。
「カツ君、ちゃんとわかってくれてる? 適当に返事してない?」
僕はさほども考えずに正直に答えた。
「風花の嫌なことはしない。風花と一緒にしたいことをする。いかがわしいことは付き合って一年くらいたってからとか、僕が性欲に目覚めたら考えよう。それから、感じなくて辛いなら無理にしなくていいと思う」
「カツくんっ、……」
ありがとっ。
ちいさく震える声。
「自分でも、一生このまま感じないんだ。本当にすごく好きな人が出来ても、気持ちよくなれないんだ、って辛くて……」
「風花、僕は風花が良ければ、まず、デートがしたい。公園とか、遊園地とか、美術館とか博物館は大学生になってから二人で勉強がてらに行く。そこまで遠いところまで考えなくていい。まだ、全然いい。
ごめん。風花。
好きになったから、好きにしたい。一緒にいたい。
何より一緒に好きになっていきたい」
「もう、すきだよ、すきだから……!」
好きだから……。
「身体のこととか、体質のことで悩まないで。風花。僕が君を好きになったのは
ただ仲良くなりたいっていう一目惚れからだったから」
だから、からだのことはいいんだよ。
「カツくん、わたしがカツくんのこと気になったのはね、中学生の時。ものすごく勉強ができる人がいるな、って。勝つ、漢字は違うけれど僕は、勉強でみんなに勝つ! って言ってるところが素敵だった。でも、カツ君は理知的で頭のいい女の子といつも楽しそうに話してたから、……、わたし、偏差値が高い学校の人といっぱい話して賢くなろうと思って、だけど、好きでもない人と付き合うことになって、カツ君のこと、諦めようとした……」
風花はもう泣いてはいない。
「カツ君、お願い」
「わたしと、付き合ってください。好きです。一緒にいさせて」
「一緒にいよう。歳をとっても、ずっと、一緒にいよう。風花といられたら、自分の人生が幸せなものになる気がして、幸せにできるかな、って不安になって、その度に一緒に行きたい水族館や、デート服のコーディネートや風花の好物を考えてる。風花も……」
そうだったらいいな、って。
「わたしも……っ!」
僕にとって風花さんは、最初で最後のひとになる。
彼女を感じさせる方法 明鏡止水 @miuraharuma30
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます