第四話 ダッシュ!

 ローズィー北部にあるセラフィア陸軍の兵器廠。

恐らく、天使はここにいる。


 東の空がほんのり明るむ、夜通し走りつけた甲斐あって起床ラッパ前には到着できた。

追手も無かった。


 グラウンドゼロに捨てられたあの日。二人は軍への復讐を決意し一週間で準備を済ませた。


 傷も万全ではないがそれはどうにかなる。

昨夜、駐屯地に忍び込みトラックを一台奪取した。そこから夜通し車を走らせた。


 強固な外壁を見据えたハルとストールは、車両の重量と馬力を生かして壁にまっすぐ突っ込んだ。

フロントガラスは割れ、バンパーもぐしゃぐしゃに潰れたが車は止まらなかった。

そのまま基地内を走った。

 目指すは一際大きい、そして窓のない建物だ。

それは基地の外れの他の建物から少し離れた場所に位置していた。

トラックはそのまま、その建物の壁に頭っから突っこんだ。

壁を突き破ると丁度ガレージに出た。

二人は即座に割れたたフロントから飛び出し、そのまんま一直線に一本の廊下に駆け込む。

放射能マークのある廊下だ。この長い廊下の先に天使はいるはずだ。

途中防護服を着た兵士数人と交戦し、小さな部屋に出た。

壁にはいくつかのつなぎの防護服がかかっており、二人もそれを着込んで先に進む。

厳重な警告文の書かれた扉を開くとそこには大きな実験装置が鎮座していた。

青白い光を放つそれの下に天使は寝かされていた。

昨夜熟考した、少ないヒントから導き出した天使の居場所の予想が当たっておりストールは嬉しかった。

この装置はおそらく、天使が持つ何らかの力を封じる装置だろう。

二人は緊急停止ボタンを押すと用意した幌を広げ、天使を包むと二人で抱きかかえ、そのまま来た道を全速力で走り出した。


 タタタタタタタタタタタ


 青白い無機質な壁に、赤い警告灯の光が点滅している。

真っ直ぐ伸びる廊下を、ハルとストールは駆け抜けていた。

サイレンが鳴り響くがそんなものお構いなし、駆け抜けた。


 厳重な防護服を着こみ、力無く体を預ける天使を抱き抱えているが、火事場のばか力という奴だろうか、きれいなランニングフォームで全力疾走している。

今はお互い相手の顔を覗けないが、きっと目ん玉をひん剥いて歯をぎらつかせているだろう、と。少なくとも自分はそんな顔をしている気がする、と、お互い思っている。

不思議と息は上がらない、無限に走り続けられそうだとさえ思う。


 出口の明かりがだんだん大きくなってきた。

一直線に長い廊下を抜け、見上げる程天井の高い倉庫にでた。

そのまま少しも速度を緩める事なく駆け抜ける。

すごい勢いで飛び出てきた二人に、倉庫の整備士たちが驚愕し、呆然と視界から消えるまで見届ける事しか出来なかった。

我に帰って追いかけてくるが中央勤務の弛んだ連中は到底追いつけず、声も遠く聞こえなくなった。


 上部の通路ではまだ状況を把握できていない警備兵たちがアタフタと駆け回っている。

それを横目に見ながら広い倉庫を一直線に駆け抜ける。


 すると壁に開いた大きな穴と、その穴を開けたであろう、ベコベコになった輸送トラックが停車している。

ここに乗ってきた車だ。

そのまま走り寄るとその勢いを殺し切らないまま扉を開けて、抱えていた袋を助手席に優しく積み込む。

辺りを片付けていた作業員が捕まえようと手を伸ばす。

足を引っ張られたりスッタモンダ、作業員の頭を蹴っとばしながら自分たちもトラックに乗り込む。

トロいストールの頭を何度かぶっ叩いた気がするがそんなの気にしない。

作業員を蹴散らしながらエンジンをかけシフトレバーをガチャガチャやり、バックに入れると勢い良くアクセルを踏み締める。

ポンコツトラックだが勢いよく排気ガスを倉庫に撒き散らし、タイヤを空転させながらも瓦礫を乗り越え倉庫から飛び出した。


 外ではけたたましいサイレンが響いていた。

銃を携えた兵士がこちらにかけて来るのが見える、がそんなの知ったことが。

ハンドルを切りトラックの向きを兵士の群れに向けると、今度は目一杯アクセルを踏み込んだ

猛烈な勢いで突進して来るトラックに、兵士たちは引き金を引く暇もなく左右に離散した。

側溝に飛び込んだヤツもいて嘲笑う。

そのままエンジンをフル回転させてゲートに向かって突っ走る。

後輪がキュルキュル言いながらついて来る。


「ヒャッホー!ざまあみろ」

「ばーいばぁーい!ふへへへへ!」


 いうこと言ってスッキリした二人は暑苦しい防護服を脱ぎ捨て、それと同時にさっきの声が届いていない事に気がつくがもう遅い。

いつもの着崩した軍服の姿に戻る。

最後の土産とでもいうように部隊のワッペンを引っぺがし、窓から放り投げた。


トラックは砂煙を巻き上げながら北に向かって一直線にアクセルを踏み込んだ。

二人はアドレナリンに突き動かされるまま喜び、雄叫びを上げていた。

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