第8話 旅の話と子供達
―――流石はキングと名のつくモンスターだ。私達の何十倍も大きい。
私達はエルフの森を脅かしているというキングオーガを倒すべく森の最深部まで来ていた。キングオーガは私達を見るなりその大きな手を振り下ろし、私達を潰そうとしてきた。全員無事に避けることが出来たため潰されることがなかったが、地面は大きくへこんでいた。
これは……凄まじい力だね。
こんなのがエルフの森を彷徨いて、エルフ達を傷付けているのなら大人しくさせないといけないよね。
「ヴィルさん、お願い……!」
「分かりましたっ」
『攻撃力大幅上昇』
『防御力大幅上昇』
『回避率大幅上昇』
『魔法攻撃力大幅上昇』
『魔力消耗量大幅減少』
『移動速度大幅上昇』
無詠唱でバフが私達に付与される。
力が溢れ、体が軽くなったような感覚を覚えた。
『攻撃力大幅低下』
『防御力大幅低下』
『魔法攻撃耐性大幅低下』
『回避率大幅低下』
『移動速度大幅低下』
代わりにキングオーガにはデバフが付与された。
これで準備は整った。ヴィルさんにお礼を言って件を握りしめる。
「はあっ!」
足にぐっと力を込め、飛び上がりそのままキングオーガの目元を斬りつけた。目元を斬られ唸り声を上げるキングオーガ。バフとデバフのお陰でこれだけでもかなりのダメージが入ったはず。
そしてすぐさまリリィさんは詠唱をし始め、頭上から龍の形をした炎が降ってきてキングオーガを包み込んだ。
―――しかし、まだ生きている。
デバフをかけられたのにも関わらずリリィさんの魔法を受けてもまだ生きているとは……少し驚かされるね。
でももう少しで倒せそうだ。
「グオオ……ッ!」
「!」
キングオーガは手当たり次第に拳を振り下ろし始めた。危うくヴィルさんが下敷きになりかけたが、ルーヴェルトさんがそれを盾で阻止した。
「重……ってぇ!」
そんなことを言いながら盾で拳を薙ぎ払う。
相変わらずその細い体のどこからそんな力が出てくるのか不思議でならない。
「倒れなさいっ!」
ハルヴァさんはそう言ってキングオーガの胸に向かって弓を引く。その弓矢はヴィルさんによって大幅な強化を受けており、その威力はキングオーガの巨体を貫く程だった。
キングオーガは叫び声を上げながら倒れ込み、死体は塵となって消えていった。
「倒せ……たのですか……?」
ハルヴァさんが呟く。
「あんなに苦戦していたのが嘘のようです……勇者様方、ありがとうございます」
「仲間の故郷のピンチを助けるのも私達の役目だからね。それにとどめはハルヴァさんがさしたんだから、ハルヴァさんの手柄でもあるよ」
「ふふ……勇者様は本当にお優しいのですね」
そう言ってハルヴァさんはエルフ族に代々伝わるお辞儀をした。
そして是非ともお礼がしたいということで、私達はエルフたちの住む里へと案内された。
「皆さん! キングオーガはこの勇者様方のお陰で討伐されました! もう、怯えながら過ごす必要は御座いません!」
「! 本当か、ハルヴァよ」
「ええ」
ハルヴァさんの言葉にエルフ族の長であろう年老いたエルフが驚いた表情を浮かべる。
それだけ長い間、キングオーガに怯えながら過ごしていたのだろう。本当に力になれて良かった。
―――私達はエルフ達に歓迎された。勇者だから、ということもあったかもしれないけれど何よりキングオーガを倒したから、というのが大きいのかもしれない。
様々なご馳走が並び、これでもかという程もてなされた。
「本当に勇者様方には頭が上がりません。エルフ族の恩人です」
私の隣に座るハルヴァさんが微笑む。
「そうだ。長に私も冒険に同行することを伝えなくては……少し席を外しますね」
「うん、分かった」
そう言えばエルフ族の長に許可を得ていなかった。許可が下りるといいなとハルヴァさんの背中を見つめていると、アリシアさんに声をかけられる。
「勇者様、こちらも美味しいですよ」
「本当? じゃあ、少しもらおうかな」
アリシアさんに勧められた料理を口にすると、確かに美味しかった。
「うん、美味しい」
もぐもぐと頬張る私を見て微笑みを浮かべるアリシアさん。
しばらくしてハルヴァさんが明るい表情を浮かべながら私達の方へ駆け寄ってきた。
「快く了承して頂けました……! これから、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ。改めてよろしくね、ハルヴァさん」
そう言って微笑むと、ハルヴァさんも微笑みを浮かべた―――
*
話をしているうちに集まってきた子供達。
話し終えると、子供達は目を輝かせながら私を見つめていた。
「やっぱりフィアお姉ちゃん凄いや!」
「わたし、大きくなったらフィアお姉ちゃんみたいに冒険したい!」
「ぼくはフィアお姉ちゃんみたいな勇者になるんだ!」
興奮気味に話す子供達。
冒険者になりたい。勇者になりたい。そんな子供たちの夢の話を聞いていると、子供らしくていいなぁと微笑ましくなってくる。
私みたいな勇者になりたい子。
アリシアさんみたいな聖女になりたい子。
ルーヴェルトさんみたいな盾使いになりたい子。
ハルヴァさんみたいな弓使いになりたい子。
ヴィルさんみたいな白魔道士になりたい子。
リリィさんみたいな魔法使いになりたい子……
子供達の憧れになるっていうの、なんだかいいな。
私も小さい頃は冒険者に憧れてたっけ。でもまさか実際は冒険者ではなく勇者に選ばれてしまった。
最初は驚いたけれど、素敵な仲間達に出会えて勇者になれて良かったとも思ってる。
「なら、皆頑張らないといけないね」
「うん!!」
大きく頷く子供達。
私も冒険を重ねて経験を積んで、積み重ねて、仲間と協力し合いながら魔王を討伐した。私一人では絶対に魔王討伐なんて出来なかったからね。
「みんなも冒険に出かけたら素敵な仲間と出会えるはずだよ」
「わあ……!」
村に閉じこもったままだったら経験出来なかったことが沢山あった旅だった。
理不尽な事、辛いこともあったけれどそれも仲間がいたから乗り越えられた。
「仲間っていいものだからね」
そう言って1番近くにいた子の頭を撫でる。
「仲間がいるだけで出来ることも増えていくからさ。あ、そうそう……どんな事があっても仲間を見捨てるなんてしない事だよ?」
ヴィルさんのことを思い出してそう忠告する。
どんな事があっても仲間を罵倒したり、見捨てるなんてやってはいけないことだから。
失って後悔してからでは遅すぎる。
「うん! おれ、仲間を大切にするパーティーリーダーになりたい! フィアお姉ちゃんみたいに仲間に信頼されるようなリーダー!」
「あっ! 私もリーダーになりたい!!」
「ふふ、みんなならなれるよ。だってこんなにも優しい子たちなんだから」
村の子供達はとても優しいし、ひとりが困っていたらみんなで助け合っていたりもするし、冒険者になってからもこの村にいた時のことを思い出しながら冒険して欲しいよね。
子供達と話し込んでいると、何やら村の入口が騒がしくなってきた。
何事かと思い村の入口まで行くととんでもない客人がいた。
「えっ、どうしてこんな所に……」
―――そこに居たのはシーヴェスク王国の王子、グラーツ王子だった。
グラーツ王子は私を見つけると柔らかな笑みを浮かべて手を振ってきた。どうしてグラーツ王子がククル村に居るのだろう。
でも、まぁ、この村に来るってことは十中八九私に用があるんだろうなぁ……そんなことを考えながら私はグラーツ王子の元へ歩いていった。
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