第5話 パーティー解散後、もう一度会いに【リリィ視点】

―――1週間後。



パーティーを解散して勇者様と別れた私達は久し振りに集まり、近くの料理店に入って話していた。

大体が勇者様との思い出話だ。勇者様は優しくて、可愛くて、かっこいい方だった。

戦闘を重ねる毎に確実に剣の腕を上げていって、最終的には魔王までもを倒してしまった。勇者様は私たちがいたから勝てたと言ってくれたけれど、魔王に勝てたのは勇者様の努力あってこそだと私は思う。



「しっかし勇者の覚醒した時の必殺技、あれは痺れたよなぁ……聖なる剣セイグリッド・ソード。あの一撃で魔王は沈んだんだよなぁ」



ルーヴェルトさんはそう言いながらお酒を飲む。

確かに勇者様のあの必殺技はかっこよかった。ボロボロになりながらも剣を握りしめて最後の力を振り絞って放たれた必殺技。

私も、見惚れてしまった。



「戦闘とは関係ありませんが、僕の力を認めてくれたのが本当に嬉しかったです」

「あれを見たら認めざるを得ないっての! ヴィル、お前はもっと自信を持てよな」

「は、はい」



ヴィルさんにむかって笑うルーヴェルトさん。凄くプライドが高い人だって聞いてたけれど、根は優しくて仲間思いなんだろうな。



「私も、貴方方が見つけて下さらなければ命を落としていましたからね……命の恩人ですよ」



ハルヴァさんはそう言って微笑む。



「貴方を真っ先に見つけたのは勇者様だけどね」



私がそう言うと、ハルヴァさんは目を見開いた。これはどうやら初耳だったようだ。



「余計、感謝しなければなりませんね」



そう言って目を伏せる。

正直言うともっと勇者様と冒険したかった。でも魔王を討伐するという使命が果たされて、勇者様の存在意義は消えてしまった。

でも勇者様は『平和が訪れた証拠だから』と笑っていた。

本当に素敵な人だと思う。


チラッとずっと黙っているアリシアさんの方を見やる。アリシアさんは話を聞く限り勇者様が冒険に出る際に加入した古参メンバーらしい。


ちょっと、羨ましい。



「……アリシアさんは勇者様のこと、どう思う?」

「えっ……私は、そうですね……ふふ、とても素敵な女性だと思いますよ。どんな状況でも冷静さを欠かずに的確な指示をくださりました。それから、絶対に仲間を見捨てないあの優しさに私は胸を打たれました」

「そっか」



アリシアさん、勇者様のことをずっと見ていたみたいだからね。

かなり熱い視線を向けていたからもしかして……ううん、気の所為かな。


―――勇者様の話題だけで軽く2時間は話し込んでしまった。それだけ私達は勇者様が大好きだった。

別れたばかりだっていうのに話してたらまた会いたくなってきちゃったな。会いに……いっちゃおうかな。


確か勇者様の故郷はククル村だったっけ。

かなりの長旅になりそうだけど、やっぱり会いたい。

みんなも、勇者様に会いたいんじゃないかな。そう思った私はみんなに提案することにした。



「ねえ、ククル村まで行ってみない?」

「ククル村……勇者様の故郷、でしたっけ」



ヴィルさんが顎に手を添えて呟く。



「行くとしたら……この国からだとククル村に着くまで丸3日はかかりそうですね」



ハルヴァさんは地図を取りだし、地図を見ながら呟いた。



「でも、会いてえよなぁ。……よし、会いに行くか!」



ルーヴェルトさんがそう言って立ち上がる。

それに続いて、ヴィルさん、ハルヴァさん、も賛成し始めた。勿論私も賛成した。だって、大好きな勇者様にもう一度会いたいから。



「決まりだな。よし、そうと決まれば身支度して旅に出るぞ!」

「おー!」



勇者様や勇者様のご家族への手土産は何にしよう。何を話そう。何をしよう。色んな楽しみが湧いて出てくる。

みんなでわいわい話しながら身支度をして会計を済ませた後、料理店を後にした。


途中の街で手土産を買ったりして、準備は万端。


私達は勇者様のいるククル村へと向かうことにした。




*




途中で何度かモンスターに襲われたりしたけれど、私たちの敵ではなかった。

馬車の人に何者かと聞かれたけれど、黙秘しておいた。元勇者パーティーメンバーです、なんて言ったら大騒ぎになってしまうような気がしたから。


一日目、二日目と順調に旅は進み、三日目―――馬車から外を見るとのどかな風景が見えてきた。

もうすぐ勇者様に会えると考えるだけで胸が高鳴る。


そんな時、馬車が止まった。

何事かと全員で顔を見合わせる。



「どうかしましたか?」



ハルヴァさんが声をかけると、馬車の人は顔を真っ青にしていた。そしてその視線の先にいたのは―――ハイウルフの群れ。

ハイウルフはとても凶暴で、人間をも食らうモンスター。ランクとしてはCだけど、これほどまでに多いと少し厄介だ。



「よっし、殺るか」

「最初からそのつもりです」

「支援は任せてください」

「私も、回復はお任せ下さい」

「ん、殺ろう」



馬車から降りた私達。

ここから先へ真っ直ぐ行けばククル村に着くと聞いていたので馬車を引き返させ、臨戦態勢に入る。

前衛である勇者様はここにはいないけれど、私たちでもやれる。


だって私達は勇者様に認められたメンバーなんだから。



『移動速度低下』

『攻撃力低下』

『防御力低下』

『視界遮断』



ヴィルさんの重複デバフがハイウルフの群れに掛かる。途端に動きが鈍くなった。



『攻撃力上昇』

『防御力上昇』

『魔力消耗量減少』

『回避率上昇』



そしてすかさず私達への重複バフが付与される。ハイウルフ相手にここまでしなくてもいいと思うけれど、常にイレギュラーを想定していなくてはならないからこれくらいが丁度いいのかもしれない。


魔法を詠唱し、そのまま杖をハイウルフの群れへと翳す。すると雷鳴が轟き、凄まじい稲妻がハイウルフの群れを直撃した。


これで半分は削れた。


そしてまた詠唱していると背後からの奇襲。それをルーヴェルトさんが盾で阻止してくれた。とても、頼りになる。



「ふっ!」



木の上から無数の矢が飛んでくる。そしてその矢はハイウルフの群れの頭を貫いた。

また半分減った。



「これで、とどめ」



そう言って私はまた稲妻を落とした。

土煙が収まると、そこにはハイウルフの群れの残骸が積み重なっていた。やっぱり、私たちの敵じゃない。


そんなことを考えていると、ずっと会いたかった人の声が聞こえてきた。



「なんの騒ぎかと思えば……貴方達だったんだね。まさかこんなに早く再会できるとは思わなかったよ」



苦笑いを浮かべる勇者様。私は一目散に駆け寄った。



「お久しぶりです、勇者様。お元気そうでなによりです」

「リリィさん。貴女も元気そうでよかったよ」



そう言って勇者様は優しく私の頭を撫でた。

そんな私たちを見て次々に勇者様に話しかけたり、ルーヴェルトさんに関してはわしゃわしゃと勇者様の頭を撫で回していた。


勇者様は『やめてよ』と言っていたけれど、声色は優しいし本当に嫌がってはいないみたいだった。寧ろ、嬉しそう。



「ハイウルフを倒してくれたんだね。最近何故か村の周りでハイウルフがうろつくようになってしまって……子供たちが自由に遊べなくなってたんだよね。だから、とても助かったよ。ありがとう」



そう言って勇者様は微笑んだ。



「そうだ、お父さんとお母さん、後は兄さんにみんなを紹介したいな。着いてきてくれる?」

「勿論」



勇者様の問いに全員の声が重なった。

勇者様のお父様とお母様とお兄様……どんな人達なんだろう。きっと素敵な人たちなんだろうなぁ……そんなことを考えながら勇者様の後をついて行く。


しばらく歩いて行くと、村の入口が見えてきた。

村に入ると子供達が一斉に勇者様を囲んだ。勇者様、子供に好かれてるんだ……心優しい証拠なんだろうなぁ。


子供達は私達を見ると首を傾げる。



「フィアお姉ちゃん、この人達は?」

「この人達は私の仲間達だよ。ほら、魔王討伐のお話、したでしょ? その時に一緒に戦ってくれた人達だよ」



勇者様がそう説明すると、子供たちの目がキラキラと輝き出した。



「わあ……! 本物だあ!!」



子供達に握手をねだられ、一人一人に握手していると、勇者様はクスッと笑っていた。

それにしても、普段着の勇者様……すごく可愛いなぁ。

そんなことを考えていると、奥の方からどこか勇者様によく似た男の人が歩いてきた。もしかしてこの人が勇者様のお兄様なのかな。


男の人は私達を真剣な表情で見つめた後、ふっと笑った。笑った顔はとても優しくて、勇者様そっくりだった。



「お前達がフィアの言っていた仲間たちか。えーっと?」

「あっ、リリィ……です」

「ルーヴェルトだ」

「ヴィルです」

「ハルヴァと言います」

「私はアリシアと申します」



それぞれ自己紹介をすると、男の人は優しく微笑んで私たちに向かって手を差し伸べた。



「俺はフィアの兄、フィストだ。よろしくな」



やっぱり、勇者様のお兄さんだった。

そして私達は勇者様とフィスト様の後を付いて勇者様の家に向かった。

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