第4話 突然の呼び出し

こうして5人の仲間が出来た私は喧嘩もすることなく冒険をしていた。

6人でダンジョンに潜ることも多くなり、その度に仲間の心強さが身に染みた。


リリィさんの攻撃魔法は目を見張るものがあった。上級魔法を連発させても魔力切れを起こさない脅威的な魔力量には驚かされてしまう。


ルーヴェルトさんの盾は本当にどんな攻撃も防いでくれた。今の所防げない攻撃など無に等しい。正に縁の下の力持ちだ。


ハルヴァさんの弓の制度は相変わらず化け物並だ。どんなに素早いモンスター相手でも相手の動きを読んで頭を撃ち抜いていた。敵に回したら恐ろしいことこの上ないだろう。


ヴィルさんは私達にいくつものバフを付与し、それにプラスして敵へのデバフを付与していた。しかもダンジョン攻略に必要なものも全て用意していて、優秀以外の何者でもなかった。本当に助かっている。


アリシアさんは仲間が増えたことによって回復魔法に専念できるようになった。例え腕が食いちぎられたとしても再生させてしまう規格外の力の持ち主だ。流石は大聖女様と言うべきか。


私の剣の腕も徐々に上がってきていた。ルーヴェルトさんからも、出会った当初より遥かに動きが良くなっているというお褒めの言葉も頂いている。本当に嬉しい限りだ。


6人仲良く冒険を楽しんでいた。気を引きしめるところはしっかり気を引き締めてね。



「―――それからね」



仲間の話が終わって度の話をしようとしたその時、コンコンと玄関の扉がノックされた。

誰だろうと見に行くと、そこには村長の姿があった。……村長に挨拶しに行くのすっかり忘れてた。



「フィア、良く戻ってきてくれた」

「! ……魔王討伐、ちゃんとしてきましたよ」

「嗚呼、その事ならもう耳に入っている。良くやったな」



村長はそう言うと笑う。

つられて笑うと、村長はずいと一通の手紙を差し出してきた。差出人は―――シーヴェクス王国の王子、グラーツ王子からだった。

シーヴェクス王国と言えばかなり大きな国だ。冒険していた頃に少しだけ滞在していたような記憶がある。要件はなんだろうと手紙を開いてみる。するとそこには『話がしたいので是非また立ち寄って欲しい』という旨の内容が書かれていた。


また旅をしなければならないのか……もうこのククル村に永住するつもりでいたんだけど……王子からのお呼び出しならそう簡単には無視できないだろう。


私はすぐさま出かけるための準備をする。



「え、もう行くのか?」

「うん、待たせちゃいけないと思うから」



兄さんの問いにいそいそと準備をしながら答える。本当はもっと一緒にいたかったし話していたかったけれど、お呼び出しくらっちゃったからね。

またフードを深く被り、荷物を持って家を出る。



「今度はちょっと遠出するだけだから、心配しなくても大丈夫だよ」



そう言って微笑み、ククル村をまた後にした。

はー、もっとククル村にいたかったなぁ。

まぁ、要件が終わったらすぐに帰ろう。そうしよう。

馬車に乗り込み、シーヴェクス王国まで移動を始めた。ぼんやりと外の景色を眺めながら要件はなんなのだろうかと考える。


変な依頼だったらどうしようかなぁ……


もう私戦うことはしたくないんだけど。平和に生きたい。

そんなことを考えながら何事もなく馬車に揺られること数時間。シーヴェクス王国が見えてきた。



「お嬢さん、シーヴェクス王国に着いたよ」

「あっ、ありがとうございました」



そう言って一礼し、馬車を下りる。

相変わらず大きな国だ……フードが取れないように手で押さえながらお城を目指した。




*




―――このお城に来るのは二度目か。

グラーツ王子に会うのも二度目になる。お城に入る前にフードを取り、フィアであることを伝えてお城に通してもらった。


真っ直ぐ玉座の間へと向かい、扉を開けるとそこには王様とグラーツ王子がいた。

私はゆっくりと歩み寄り、玉座の前で跪く。



「お久しぶりです、王様。そしてグラーツ王子」

「おお! 来てくれたか勇者フィアよ、魔王討伐良くぞ成し遂げてくれた」

「フィア様なら成し遂げてくれると信じていましたよ」



グラーツ王子はそう言って微笑む。

グラーツ王子……貴方はその微笑みで何人の女性を落としてきたのだろう。数え切れないんじゃないだろうか。まぁ、そんなことはどうでもいい。


私を呼んだ理由を聞かなければ。



「あの、私を呼んだ理由を知りたいのですが……」



そう言うと王様はなんだかやけにご機嫌な様子だ。え、一体何を言われるの私……

少し固まっていると、王様がゆっくりと口を開いた。



「実はな、グラーツがお主を是非とも嫁にしたいと言っておってだな」

「はぁ……嫁……嫁!?」



思わず大声が出てしまい、口を抑える。

あまりにも急展開過ぎてどうしたらいいのか分からない。確かにグラーツ王子はとても魅力的な男性だ。そんな男性がどうして私なんかを嫁にしようと考えたのだろう。裏があるんじゃないだろうか。等考え込んでいると、ゆっくりとグラーツ王子が私の元に歩み寄ってきた。



「突然の事で混乱していらっしゃいますね。ですが私は本気です……初めてであったあの日から、私はあなたの事を想っていました」

「え、あ、あの……」

「返事はすぐにとは言いません。ゆっくり考えてくださいね」



グラーツ王子はそう言うと、私の額にキスをした。

思わずぼふんと顔が赤くなる。そんな私を見てグラーツ王子はクスクスと笑う。


今回は直ぐに解放してくれたけれど、次きた時はそうもいかなさそうだ。それにしても……



「どうしよう……王子に求婚されてしまった……」



勇者に選ばれ勇者として魔王を倒してククル村に戻れたと思ったらシーヴェスク王国の王子に求婚され……色々とありすぎて頭がパンクしてしまいそうだ。

はぁ……どうしたものか。


こんな時みんなが居たらみんなに相談していたんだけど……パーティーを解散したばかりだから会おうにも会えないんだよね。一応居場所は何となくわかるけれど……



「ううむ……」



でも、グラーツ王子普通にかっこいいんだよなぁ……かっこいいと言うよりかは美形というか……表現出来ないほど美しいのだ。


長いサラサラの銀髪に優しげな橙色の瞳。そして甘い声に甘いマスク。しかも性格もいいと来た。こんな優良物件そうそうないぞと思いつつ貴族の生活は私には合わないような気がしてならない。



「少し観光してから帰ろうかな……」



勇者としてシーヴェスク王国に来た時は本当に滞在目的だったから観光なんてものは出来なかった。観光なんてしている暇もなかったしね。

家族に何かお土産でも買っていこうかな。


そんなことを考えながら私はお土産屋さんに入った。

お菓子や紅茶等お洒落なものが置かれてある。

どれも美味しそうで目移りしてしまうな……キョロキョロと辺りを見渡していると、突然聞こえてきた悲鳴。

何事かと店の外に出ると尻もちを着いた女性と黒ずくめの如何にも怪しい男が走り去っていくのが見えた。



「引ったくりよー! 誰かあの男を捕まえてー!!」



引ったくりか……これは黙って見ていられないね。

私はぐっと足に力を入れ、そのまま走り出す。幸いにも引ったくり犯の足は遅い。一気に距離を詰めた私は勢いよくぶん殴った。


引ったくり犯は勢いよく吹っ飛び、壁にぶつかり目を回している。

その隙に奪われた鞄を取り返し、女性の元へ戻り手渡すと女性は私の顔を見るなり目を丸くした。



「勇者……フィア、様……?」

「……えっ……あっ」



引ったくり犯を始末した衝撃でフードが取れてしまったらしい。大勢の目の前でフードが取れ、一気に私は注目の的となってしまった。


うん、やらかしたね。


フードを深く被り直し、そのまま走り去った。

追いかけてはこられたけれど途中で気配を消して木陰に身を潜めることが出来た。


これは早めにこの場を後にしないと……面倒なことになりかねない。もうなってるけど。

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