第3話 旅の話…仲間との出会いその2
次に訪れたのはフェルトス王国。
フェルトス王国は別名"魔法の国"とも言われているらしい。魔法の国と言われるだけあって様々な魔法具が売ってあったし、大体のものが魔力で動いていた。住人も魔法が使える人達ばかりで、ここで出会ったのが魔法使いのリリィさんだ。
私が勇者であることはもうこの国にも伝わっているらしく、私達を見るなり周りはザワザワし始めた。
正直、落ち着かない。
勇者になるということはかなり注目を集めるということになるのか……そんなことを思いながら歩いていた時に話しかけられた。
振り返るとそこには杖を持った、まだ幼い少女が立っていた。
どうしたのかと問いかけようとしたら少女が口を開く。
「勇者様、ですよね……? 私、リリィっていいます。私の実力を見てくれませんか」
「え?」
「もしも、もしも使えると思ったら……私をパーティーの一員にしてください」
リリィさんは自らパーティーに入りたいと言ってきた子だった。本当にこの子を連れて行ってもいいのかと不安になったが、真っ直ぐこちらを見つめるその真剣な瞳に私の方が折れてしまった。
「少しでも危険だと判断した場合は抜けてもらいますが……それでも構いませんね?」
「! はい」
表情の全く変わらないリリィさんだったけど、その時はどこか嬉しそうだった……ような気がする。
リリィさんが私達を連れて訪れたのは魔物が多く潜んでいるという森。そこで実力を見てほしいという。
「……この森には、数日前から人々は立ち入っていません。理由はグランサーペントが現れたからです」
「グランサーペント……聞いたことがあります。Aランク相当のモンスターですよ、勇者様」
アリシアさんが耳打ちしてくる。
Aランクのモンスター……そんなモンスターがいる森にわざわざ連れてきたってことはまさかこの子……
「一人で、倒すつもりですか?」
そう問いかけると、リリィさんはこくりと頷いた。流石に無茶だと言いたかったが、ズンとのし掛るような膨大な殺気に言葉を一瞬失ってしまった。
これは……本当に一人で任せてもいいのだろうか……
目の前に現れた巨大な蛇―――グランサーペント。その牙には猛毒があり、噛まれたら最後だ。
「リリィさん、無茶ですよ……私達も……!」
「いいえ、ひとりで殺ります。勇者様と同行するためなら、これくらいは成し遂げなければならないと、お祖母様が言っていました」
リリィさんのお祖母様……ッ。
というか、"勇者と同行するためなら"? もしかして―――
「貴女は、私たちの仲間になる為に選ばれた魔法使い……?」
「はい」
私の問いにリリィさんはハッキリと答えた。
まさかまだこんなに幼い子が選ばれるなんて……そんなことを考えていると、グランサーペントが大きな口を開けてリリィさんに向かって攻撃を仕掛けてきた。
危ないと思い剣を抜こうとした瞬間、リリィさんは素早く詠唱し始めた。
「
そして放たれる龍の形をした炎。
炎がグランサーペントを飲み込むと、グランサーペントは一瞬にして消し炭になってしまった。
あまりにも一瞬のことで呆気にとられていると、リリィさんはくるりとこちらを振り向き『どうですか?』と問いかけてきた。
「貴女……一体……」
その後リリィさんの自宅に行くと、リリィさんのお祖母様が出迎えてくれた。そして全て説明してくれた。
リリィさんは生まれた時から圧倒的な魔力量だったらしい。だから魔法が暴走して周りの子達を傷つけてしまうこともあった。でも今は修行を積み重ねてコントロールができるようになり、あれ程までに強力な魔法を自由に使えるようになったという。
そして年齢を聞いて更に驚いた。15になったばかりだと言う。
アリシアさんからここに来る最中に聞いたけれど、リリィさんが使った魔法は上級魔法で使えばごっそり魔力を失ってしまうらしい。
けれどリリィさんは帰る途中に現れたモンスターすらも魔法で蹴散らしてしまった。全く魔力切れしていなかったんだよね。
圧倒的な魔力量を持ち、上級魔法も扱えるリリィさん……仲間にいたらとても心強いだろう。
考え込んでいると、リリィさんのお祖母様がおずおずと口を開いた。
「この子を連れて行っていただけないでしょうか……この子も選ばれた時からこの日の為に努力してきたのです……どうか、どうか……」
そう言ってふかぶかと頭を下げた。
これで頭を下げられるのは何度目だ……! 私なんかにそんな頭を下げなくてもいいのにと思いながら何とか頭を上げてもらった。
「最初はどうしようか迷いました。ですが、リリィさんの努力を無下にすることも心苦しい……それに、魔法職の仲間が欲しかったのでこの国に足を踏み入れたので、リリィさんを正式にパーティーに加えたいと思います」
「! 勇者様……」
私の言葉を聞いたリリィさんはどこかホッとしたような表情を浮かべた。
「そして、必ず無事に帰すことを約束します」
「あぁ……なんとお優しい……貴女にならばリリィを任せられます……」
そう言って涙ぐむリリィさんのお祖母様。
私はただ当然のことを言ったまでなのだけど……大切なお孫さんを預かるのだから、ね。
こうしてリリィさんがパーティーに加わった。
―――次に訪れたのは小さな町だった。そこで出会ったのは白魔道士のヴィルさんだ。
ヴィルさんはパーティーを追放されて行く宛てもなくさ迷い歩いていた所を私たちが声をかけたのが始まりだった。
何故彼が白魔道士だと分かったかと言うと服装だった。アリシアさん曰く白魔道士はとても珍しい職業らしく、完全に後衛職で、主に味方へのバフや敵へのデバフを付与して立ち回りやすくする職業。そんな白魔道士専用の装備を着ていたから一発で彼が白魔道士であることを見抜けたのだった。
「後方支援職である白魔道士の仲間が欲しかったんです。良ければ私達と一緒に来ていただけませんか?」
「えっ……ですが、僕は無能だと追放された身ですから……お力になれるかどうか……」
「そんなものやってみなきゃ分かんねぇだろ?」
がっとルーヴェルトさんがヴィルさんの肩を組む。そう、やってみなければ分からない。
「まずは私たち全員にバフを付与していただけませんか? 一人一人、ではなく全員いっぺんに」
「は、はい……それでは、いきます」
どこからともなく杖を出現させ、ヴィルさんは詠唱もなしに攻撃力増加のバフをかけてきた。
しかもそれはかなり質のいいものだった。
じわじわと力が溢れてくるのを感じる。
「これくらいしか、出来ないのですが……」
「……ふふ、十分ですよ。そもそも詠唱無しでバフをかけられることが異次元なんですよ」
普通詠唱しなければ魔法は発動しない。
それなのにヴィルさんは詠唱せずにバフをかけてきた。相当の実力者であることが見受けられる。
「もう一度言います。後方支援の職が欲しかったんです。良ければパーティーに加わってくれませんか?」
そう言って手を差し伸べると、ヴィルさんは少し躊躇った後、私の手をそっと取ってくれた。
因みにヴィルさんの実力は更に後で判明することになる。
こうして、白魔道士のヴィルさんがパーティーに加わった。
次に訪れたのはエルフが住む森だった。
エルフは気難しい性格をしているが、とある人間には友好的らしい。それが私……勇者だ。
代々勇者とエルフは友情関係を結んでいた。だからそれがまだ残っているらしい。
エルフの森を進んでいると、一瞬だけぐったりとしているエルフの姿が視界に入ってきた。
「! 止まってください」
馬車を止めて貰い、急いでそちらの方に向かうと、息も絶え絶えで今にも死んでしまいそうなエルフの男性がいた。そして目の前には、大きなモンスター。このままではエルフの男性が危ない。
そう思った私は剣を構え、モンスターに向かって突っ込み剣を振り下ろした。モンスターは地理となって消えていく。
モンスターはCランクという所か……チラリとエルフの男性を見やると息も絶え絶えで早く治療しなければ危うい状態だ。
「ルーヴェルトさん……!」
「はいはい、運べばいいんだろ?」
「うん。優しくね」
「わーってるっての」
安全な場所にエルフの男性を連れていき、アリシアさんの回復魔法で回復すると、エルフの男性はゆっくりと目を開く。
「あぁ……貴方方が私を助けてくださったんですね……ありがとうございました。私はハルヴァといいます」
「私はフィアといいます」
「フィアさん……まさか、勇者様ですか……?」
うーん、エルフの森にまで私が勇者であることが広まっていたか。
まぁ、隠すこともないだろうしこくりと頷いた。
「勇者様方に助けていただけるなんてなんて光栄な……今度お礼をさせてくださいね」
そう言ってハルヴァさんはエルフ族に代々伝わるお辞儀をした後立ち去って行った。
―――数日後、森の中で探索をしていると、不意打ちを食らってしまった。勇者が不意打ちを食らってしまうなんて情けないにも程がある。
ジンジンと切り裂かれた腕が痛む。
苦痛に顔をゆがませ、切り裂かれた腕を押さえているとルーヴェルトさんがモンスターの攻撃を防ぎ、リリィさんが魔法で援助し、ヴィルさんは敵へデバフをかけたり仲間へのバフをかけたりしてくれていた。アリシアさんは私の負ってしまった傷を回復魔法で癒してくれていた。
それにしても……数が多すぎる。倒しても倒してもキリがない。体力だけがどんどん奪われていく。そんな時だった。
どこからともなく矢が飛んできてモンスターの額を撃ち抜いた。
「ご無事ですか!」
姿を現したのは先日助けたハルヴァさんだった。ハルヴァさんは弓を引き、的確にモンスターの額を狙い撃ちしていった。
こんなにも精度のいい弓使いは初めて見る。
ハルヴァさんのような人がいたら心強いだろうなと、そんなことを呑気に考えていた。
全て倒し終えたハルヴァさんに私はダメ元で提案をすることにした。
「良ければ私のパーティーに入りませんか?」
「えっ?」
「貴方の集中力、精度、目を見張るものがありました。貴方のような弓使いを探していたんです」
そう言うと、ハルヴァさんは優しく微笑んだ。
「一度は命を助けられた身。恩返しをするべきでしょう……是非、貴女のパーティーに入らせてください」
その言葉を聞いて微笑むと、ハルヴァさんも微笑みを浮かべた。
こうして5人の仲間と出会ったのだった―――
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