わたしはトリになりたい

sayaka

私は鳥になりたい


「トリあえずトリになりたい!」

 わたしの渾身のギャグが炸裂した。

 白結さゆが白い目をこちらに向ける。

詩月しづき、それ面白いと思ってるの」

 確かに大して笑えないかもしれないけれど、とっさに思いついたにしては冴えていると言っていい。

 白結は最近トリに夢中らしい。

 トリといっても焼鳥とかの食べる鶏肉ではなく、オレンジ色のふっくらしたトリのマスコットキャラクターが可愛くてお気に入りとのこと。

 ゆるキャラみたいなものだろうか。

 トリにあまり興味が持てないけれど、白結が喜んでくれるなら話は別。

 わたしはとっておきのトリのモノマネを披露する。

「全然似てない」

 すげなく評価される。

 次こそはアッと言わせてみせないと!


 白結とは幼稚園からずっと一緒の長い付き合いで、わりあい仲が良いと思っている。

 今日も連れ立って下校していた。

 お互いの家も近いので、共に登下校するのがほとんど習慣になっている。

 高校生になった今でも手をつないで歩く。

 白結が右手にぎゅっと力を込めてきて、繋いだ手から情熱の気持ちが伝わる。

「トリの可愛いさはそんな半端なものじゃないから」

「へー、そうなんだ」

 適当に相づちを打っておく。

「まずあのふわっとした見た目! それにあの表情筋だとか、哀愁ただよう後ろ姿に、ユーモアあふれる発言がたまらないでしょ!!」

 なんやかんやとトリの推しトークが止まらない。

 白結をそんなに熱くさせる何かがあるのだろうか。

 わたしはだんだんとトリの生態に興味がわいてきた。

 ひょっとするとトリのように擬態すれば、白結に可愛がってもらえるのかもしれない。


 翌朝、トリの格好をして現れてみた。

「なにそれ」

「トリさんだよ、白結ちゃん!」

 おはよーと言ってトリの動きをしてみる。

 即席で作ったにしてはなかなかの見栄えかもしれない。

 決めポーズをして白結の反応をうかがう。

「作ったの、それ」

「うんっ、作りました〜ジャジャジャーン!」

 トリさんってこんな口調なのだろうか。

 よく分からないが大体合っていることにしておく。

「一晩で作ったにしてはすごいけど」

 白結はしげしげとつややかな羽毛を見つめている。

 着ぐるみというよりは羽織ものに近いかもしれないけれど、それでも白結の関心を引くことに成功したようだ。

「まさか詩月にこんな特技があったなんて」

「エーッすごい? ねぇすごい? 感動した?」

「した」

「や、やったぁ……」

 わたしはガッツポーズをして(トリの格好のままではただ羽を曲げただけだったが)瞳を閉じる。

 この達成感、最高かもしれない!

 トリ、ありがとう!!

 感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。

「ありがとうね」

「へ?」

「詩月、私のためにわざわざトリの格好してくれたんだよね」

「え、まあそう」

「なんかちょっと、なんていうかすごくうれしいかも……」

「え!!」

 思っていたのとは別の方向だけれど、これはこれでアリなのかもしれない。

 いやトリなのかもしれない、トリあえず。

 両手で口元を押さえて頬を染める白結は、トリよりもずっと可愛くて新鮮な光景だった。




「でもそれで学校行くの?」

 いやー、それはないかな。ありかな、どうなんだろう。

 わたしはトリの気持ちになって考える。

「トリとは……」

「いいから。着替えてきてよ」

「トリあえず、そうしよう」

「それ気に入ったの」

「面白いでしょ」

「ちょっとしつこいかな」

 やんわり言われるとせつなくなってしまう。

 わたしはさみしいトリのポーズをして幕を閉じた。



 <終わり>



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