サッカー部は変な助っ人だらけ

 四月の終わりの祝日、俺は気まぐれを起こして登校していた。

 校内は部活動する生徒と顧問の教職員しかいない。そんなところに大きな眼鏡半分が隠れるくらい前髪がおりた陰気な男子生徒がいては不自然極まりないのだが、部活見学とか――教師に質問とか――図書室に来たとか――適当な言い訳を考えてやって来たのだ。

 休日の学校の様子を見るためだった。特に生徒会活動で登校している泉月いつきの様子は気になる。

 先日名手なて本谷ほんたに泉月いつきのことを「不遇のヒロイン」とか言っていたからな。真面目にやればやるほど泉月いつきは生徒には嫌われるのだろう。

 何となくわかる。俺でもそう思うな。

 しかし泉月いつきは身内だ。楓胡ふうこも心配していたし、ここは兄として妹の様子をこっそり見てやろうではないかと思ったわけだ。

 しかし何も考えずに来てしまった。生徒会室を訪れても良いが何をしに来たと訊かれるだろうな。のシスコンムーブなんて言えないし。

 とりあえず散歩がてらグラウンドやら体育館やら、そして部活棟を見て回ろう。


 グラウンドではサッカー部が練習していた。

 およそ一月ひとつき観察して、この学校が女子の比率が高くて男子はおとなしい生徒が多く、だからといって一流の進学校でもない、比較的富裕層の多い学校だという認識はあった。

 サッカー部もお世辞にもうまいといえるレベルではなかった。しかも――部外者までいる。俺はそこに同じクラスの星川ほしかわやテニス部の渋谷しぶやの姿を見つけてしまった。

 何だよ助っ人か? あいつらの方が目立っているじゃないか。

 体育の授業で星川ほしかわの身体能力の高さはわかっていた。適当に走ってもクラスでいちばん速い。制服姿ではわからないが筋骨隆々としている。柔道をやっていたとどこかで聞いたがそれだけではないだろう。なら何でも一流になれるのではないか。真剣にやったらの話だが。

 とにかくこいつは気まぐれで適当だ。そう――俺みたいに。

 今も星川はパスを受けると誰にもパスを出さずにどんな位置からでもシュートを放ち、それがまた恐ろしい弾道で、決まると凄い――のだがことごとく外していた。そして悪気もなく笑っている。サッカー部の奴らは苦笑して注意もできないようだ。ほんとうに存在が規格外だな。

 渋谷しぶやは対照的に器用なオールラウンダーの姿を見せていた。うまくまわりの味方を使っている。そもそもあまり自分でドリブルしない。マークがきついこともあるが、ほとんどワンタッチでフリーの味方に渡し、自分もパスを受けやすいところに移動して上がっていくスタイルをとっていた。そして最後はゴールを決めるのだ。

 まさにおいしいところを持っていくヤツ。男なら嫉妬するな。そして渋谷なら仕方ないと諦める。その美貌といい、持って生まれたものの違いを思い知らされ嘆息するのだ。俺は違うけど。

 と、突っ立っていた俺は不自然な気配を察した。

 しかし振り返らない。はあくまでも何気なく体の向きを変えた。

 俺の目の前ほぼ至近距離にがいた。

「こんちは」俺はとぼけた挨拶をした。

「渋谷くんをずっと見てたよね。――残念だけど彼はなんだよ」坊主頭は俺の肩に手を置いて、うんうんと頭を動かした。

「――君の気持ちは叶わないよ」ちげえし。

佐田さだくんだったかな――」食堂などで何度か顔を合わした武道部の男だ。いつも部員勧誘をしている。「――サッカー部の助っ人をしているの?」

「そうだよ。助っ人をして、そして助っ人を頼む。これが文化交流だ」

 要するに融通のし合いだろ。持ちつ持たれつというやつだ。

「いつからいたの?」

「五分くらい前かな」

 忍者かよ! 気づかなかったぞ。

 それは俺や楓胡ふうこのスキルだ。まさか同類がいるとはな。

 佐田さだがいきなり俺の両手を掴んだ。お前の方こそじゃないのか?

「良い手をしている」放せよ。

「――竹刀を握るのにぴったりじゃないか。拳は瓦を割っていたような痕が残っているし、この小指は柔道着の襟を掴んで発達してきたようだ」お前、武道マニアだな。

「はは」俺は否定するのも疲れた。

「――実家が道場やっていて小さい頃にちょこっとやらされたけれど、一つもものにならなかったんだ」一応どれもこれも初段はとったがな。

「そので良いんだ。君の力が必要だ」

 俺はスポーツ漫画のキャラではないのだが。

「行ったぞ! 佐田さだ

 渋谷しぶやの声がしたかと思うとパスが飛んできた。

 いやここはラインの外なんだけど。そう思った時には佐田はもうパスを受けてドリブルを始めていた。

 変なやつだ。関わらないでおこう。俺はそそくさとグラウンドを後にした。

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