俺たちの朝

 翌朝、俺たちはだけで朝食をとった。

 叔父は朝早く仕事に出たらしい。今日は港区にある病院に行くようだ。和紗かずさ義叔母おばの姿もなかった。

 楓胡ふうこ桂羅かつら泉月いつきに俺――の四つ子に真咲まさき光輝こうきを加えた六人で朝食を囲んだ。もちろんメイドによる給仕つきだ。

 俺の右隣の桂羅かつらが隠しもせず欠伸あくびをする。こいつは俺たちとの共同生活ですっかり怠惰になってしまったようだ。ついこの間までのストイックな寮生活を忘れてしまったらしい。楓胡のスタイルに染まってしまったか。

「眠そうだな」

「昨日遅くまでお喋りに付き合ったからね」

「楓胡と寝るからだ」

「その前に真咲ちゃんが部屋に来て話をしていったから」

 それが俺の部屋に真咲が来た後のことらしい。楓胡が真咲を自分達の部屋に連れていったようだ。

「いろいろ訊かれたんだろうな」

「叔母さまとは話の内容が違ったけれどね」

「将来の話と趣味の話の違いか?」

「私は過去の男について訊かれたわよ」楓胡が割り込んでくる。

「それは俺も訊きたいな」一応な。

火花ほのかちゃん一筋ひとすじって答えたわ」

 俺と桂羅は揃ってジト目を向けた。

「おともだちのこともうかがいましたわ」真咲も話に加わる。円卓に六人しかいないから小声でも筒抜けだ。

「お前――ともだち――いたのか?」俺が桂羅かつらに言うと桂羅は目をいた。

「私だってくらいいたわよ!」

「なるほど仲間ね」ともだちじゃないんだ――。

伊佐治紘香いさじ ひろかさんと同じクラスになったことがあるのですって」真咲が微笑む。

「それってあのROCAロカか? 元子役で今はアイドルバンドFIANAフィアナのROCA?」

「ああ……、いたわね、そういう奴」何だ? その嫌そうな言い方。しかし――、

「――サインもらってくれ」俺は手を合わせていた。

火花ほのかちゃん、ミーハー」

「高く売れるだろ」俺は楓胡ふうこに言った。

「クソヤロウだな!」

桂羅かつらちゃん、はしたないわよ」

「ROCAとなのか?」

じゃないわ。私のって感じ」

「仲良くないんだな」

 俺は笑ったが、桂羅は不貞腐ふてくされたような顔をした。

 まあ女の園だ。いろいろあるのだろう。

「私、コンサート、行ってみたいですわ」真咲まさきが目を輝かせる。

「でもチケット手に入りにくいのでしょう?」いつの間にか光輝こうきも加わっていた。

 静かに食べているのは泉月いつきだけだった。

「僕も行ってみたい」光輝は乗り気だ。

「ともだち枠で手に入らないのか?」いや、ともだちじゃなかったか。

「そんな枠ないわよ」

「――だろうな」

 俺が笑ったら桂羅はムッとして「手に入らないこともないわよ」と言った。

「「え!?」」俺と光輝は桂羅を見た。

「いくつかそういうルートがあると言ったのよ」

 こいつは東雲しののめ家だ。分家とはいえ元財閥。東矢とうや家よりもいろいろな業界に顔が利く。

「お姉さま、お願いしますわ」

 真咲は遠慮もなくお願いができる。しかもは一切感じられない。可愛さは正義――そういうキャラなのだ。

「まあ私も一度は行ってみたいと思っていたんだ。コンサートなんて行ったことがないからね」

 何だか桂羅の態度がでかいぞ。女王様にでもなったつもりか。

「――問題は何枚手に入れることができるかだね」

「二枚とかなら抽選かしら」

「それなら楓胡ふうこお姉さまと火花ほのかお兄さまでいってらっしゃいまし」

「何だよ?」

「ありがとう」楓胡はすっかりその気になっている。

「私は都合の良い女か!?」

「そんなことないよ、頼りにしている」俺は桂羅のご機嫌をとった。

 一夜にして俺たちはこの邸で大きい顔をするようになった。泉月いつきが存在感を消していたのが気になるが、俺たち新参者に喋る機会を与えたのだと思うことにした。

 その日は平日――授業があったので俺たちは自宅マンションまで送ってもらい着替えて順次登校した。

 泉月が真っ先に出たのは言うまでもない。

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