ひさびさの四人

 日曜日、昨日に続いて兄妹デートかと思いきや桂羅かつらは人混みが嫌とか抜かして午前中は自室にこもった。

 単に寝ていたいだけだろうと俺は思ったがそのまま寝かせていた。俺は優しいお兄ちゃんなのだ。

 しかし何だな、ずっと俺が飯を用意していないか?

 朝も目玉焼き、豆腐味噌汁、納豆ご飯と簡単なものだが俺が食わせてやった。

 他にたいしてすることがないから構わないのだが。これは楓胡ふうこに報告だな。桂羅は楓胡の言うことなら素直に聞くのだ。

 さてと、俺はひまになったから餃子の仕込みに入った。

 夕食を食べる頃には楓胡ふうこ泉月いつきが帰ってくる。また四人での晩餐だ。俺のB級グルメをたんまりと食わせてやるぜ。

 俺は買い出しに出て材料をたくさん買い込んだ。市販の餃子の皮は小さいから百個は作ることになる。

 白菜かキャベツで悩んだが、今回はキャベツ餃子にすることにした。俺が育った家ではが作ると白菜餃子、叔母がつくるとキャベツ餃子だったのだ。キャベツの方がシャキシャキした食感になる。

 さて、たくさん餃子を焼くためフライパンが塞がるから野菜はサラダで良いだろう。スープも水餃子スープにしてやれ。

 昼飯はパンにした。マンション下のベーカリーをみんな気に入っていたから適当なものを買って帰った。そして仕込みだ。

 こうして家族に飯を食わせるのも大変だな。三食作っていると一日が終わる。洗濯機もずっと回しっぱなしだ。桂羅が自分のものと俺のものを一緒に洗うなとからな。だからお前のはけといてやったぜ。


 一時過ぎたら桂羅かつらがのそっと部屋から出てきた。

「起きたか? ボサボサ頭さん」

「げ」とか言って桂羅は手洗いに向かった。

 俺は買ってきた菓子パンを適当にプレートに並べ、コーヒーを用意してリビングのテーブルに置いた。

 桂羅が戻ってくる。ちゃっかりテーブルに腰掛けて菓子パンに目を奪われていた。

「コーンチーズベーコンにカレーパンじゃん!」

「朝は甘いパン、昼はしょっぱ系だろ」

「ご苦労、ご苦労」

「えらそうだな」

 桂羅はルンルン気分で食べ始めた。

 俺は仕込みを中断して先ほど買ってきたビッグサイズのカップ麺を作った。それをこれ見よがしに桂羅の目の前に持ってきた。

 桂羅は目を丸くする。俺が割り箸を口に咥えて割るのを珍しそうに見てから言った。

「カップラーメン――なの?」

「見たことなかったか?」

「どうして私のがない?」

「お嬢様のお口には合わないかと」

 すでに桂羅はパンを食べ終えていた。クンクンと鼻を動かす。とんこつラーメンだからな。匂いは独特だろう?

「――臭いがきついだろうと思ってな」

「味見」

「俺の食いかけで良いのか?」

 そう言うと桂羅は小鉢と箸をとってきて、俺が食べかけのカップに箸を差し込んだ。隅の方から取り上げる。

「スープは良いのか?」

「あんた、もう何度もすすっってるよね?」

「そこは気にするんだ」

 だがわずかにスープが絡んだ麺を一口食すと目の色を変えた。

 また立ち上がってレンゲをとってきて、恐る恐るという感じでスープを三回四回小鉢に移しやがった。可愛いヤツだ。そして上品に口に流し込む。

「何でこんな味なの? クリームシチューでもないよね」

「何でと言われても、そういう味なんだよ。とんこつラーメンだ」

 細かいことは気にするなよ。俺も作り方は知らないんだ。

「夜食用に買い置きしておくよ」

 うんうんとうなずいたぜ。

「食い過ぎて肥るなよ」

 それは気にならないようだ。さては食べ過ぎで太った経験がないな。そもそも食べ過ぎたことがないのだろう。

 機嫌が良くなった桂羅はその後餃子の包みを手伝ってくれた。

「何個作るのよ」

「三十枚の皮を四つ買ったからな」

「百二十!?」

「楓胡もいるし、そのくらい食うだろう」

 泉月がどう言うかだな。あいつ用のメニューも考えないと――だな。

 ニンニクも別にしないと。餃子の中に入れると問題だ。お好みに合わせてタレに加えるかたちにした。


 五時半頃に楓胡と泉月が帰ってきた。

「おつかれ」「お帰り」俺と桂羅が二人を出迎える。四人で暮らすようになって初めてのパターンだ。

「ただいま戻りました」泉月は相変わらずの挨拶だ。

「つかれた~、ホノカちゃん」俺に抱きつくなよ、楓胡。

「ふん、ふん、ってしたい」頬と頬のタッチまでしやがる。

火花ほのかがいやがってるよ」桂羅が笑いながら言う。

「そんなことないわよね?」

 俺は何とも言えない渋い顔をした。

 そして晩餐。

「あらー、餃子だわー」

 包みあげた餃子が盆にズラリと並ぶ。楓胡は目を細めた。

「着替えましょう」泉月に引かれて楓胡は自室に入った。

 俺は焼き始める。俺の口に入るのは最後だろうな。まあ残飯整理が俺の役目だ。

 そんなこんなで俺たちは三日ぶりに四人で夕食をとった。

 そして三姉妹がお茶を飲み、俺が残飯整理をしている席上、泉月が口を開いた。

「今週、従妹の真咲まさきの誕生日会があるの。一緒に行ってもらえるかしら」

「もちろん」楓胡が即答した。

「お前が育った叔父貴の家に行くのか?」俺は訊いた。

「ええ、そうよ」

 父方叔父の一家には遅かれ早かれ会わなければならないだろう。それが従妹の誕生会になっただけだ。

「おとなしくできるかしら?」泉月は俺の方を向いていた。

 ん? 血が繋がった叔父貴だろ? もう何回か会っているじゃないか。冷たい顔つきをしているが悪い人ではない。

「お上品にしないとね」楓胡が言った。「何を来ていこうかしら」

 ルンルン気分の楓胡と能面の泉月が対照的だった。

 桂羅は黙ってお茶を口にしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る