パフェそしてスーパー

 フルーツサンドの後はフルーツパフェだ。パンケーキはまたの機会にしたようだ。

 目の前に色鮮やかに盛られたフルーツとクリームを前にして桂羅かつらは目を耀かがやかせている。

 俺はそれを本人の了解をとった上でスマホ撮影した。勝手に撮ると怒るからな。

 一応写真向けに顔をつくりやがる。

 俺の腕が悪くてもパフェの宣伝ポスター並みの画像を撮ることができた。被写体が良いから当然か。

 それを楓胡ふうこに送るとまた嫉妬のスタンプが返ってきた。

 桂羅かつらはパフェのみの画像を送りさらに楓胡ふうこうらやみを買った。

 俺の写真は撮らないのか? 。そう思ったが口には出さなかった。

「パフェデビューか」

「そうだけど、悪い?」

「いや、俺も滅多に食べないし」女子がいないと食べないな。「――今度はチョコパにするか」

 パンケーキにしても一度にあれこれ食うことはできない。またの機会の提案をすると桂羅はうんうんと頷いた。食べるのに忙しくてろくに返事もできないのかよ。

 そうして満腹感に満たされると眠くなる。特に外出慣れしていない桂羅は三時頃にはもう疲れた顔をしていた。買い物は良いのかと訊いても明日で良いとぬかしやがる。

 お、明日も俺とデートする気か。昨日とはえらい違いだな。

 ということで四時には俺たちのマンションに帰ってきた。

 晩飯をどうすると訊いたら、悪いからあるもので良いと言う。俺を気遣うとはな。よほど疲れたのだろう。俺もまた当然疲れていると思ったに違いない。こいつはそういうヤツだった。

 さてさて炭水化物をたっぷり摂ったから晩飯は野菜と蛋白質だけにするか。風呂に入ったら少し寝ると言った桂羅をおいて俺は買い出しに出かけた。


 すぐそばにあるスーパーに入る。この地域の再開発に伴って新装開店したらしくお洒落で綺麗なつくりだ。

 土曜日の夕方で買い物客は多かった。野菜と蛋白質だけで良いと思い、野菜は冷蔵庫にあるから蛋白源のみ店内かごに放り込んでいった。

 豆腐や、サラダに足す豆類。お、冷しゃぶも良いな。ローストビーフやらのパーティーセットもあるぞ。唐揚げも良いな。そうなると米も食いたくなる。あれ、結局炭水化物も摂ってしまうのか。まあなんでも良い。

 ついいたら俺のまわりから人が消えていた。

 はは、やってしまったな。独り言を口にしていたようだ。

 ふと近くのカップルが目に入る。仲良くカートを押すものだからカートがベビーカーに見える。

「だんなさま、オムライスなどいかが?」

「きみがつくるものならさぞやだろうね」

「まあ」

 これは現実か? アニメで観るような会話だな。若夫婦らしく二人でカートを押しながらしっかり恋人繋ぎしてやがる。

 男の方は三十代前半に見える。女は三十手前か?――と、その顔を見たら知っている人物だ。D組担任にして古文教師の水沢だった。

 ゆるふわ清楚系の美人教師だと思っていたが目をキラキラさせて甘々娘あまあまむすめになっている。と呼んでいたから新婚か。買い物デートとはな。

 俺は見てはいけないものを見てしまったようだ。古文の授業中にこの顔を思い出したら笑ってしまうぞ。

 俺は何気ないふりして二人の視界に入った。

 俺に気づくかな。俺は学校にいる時とはまるで異なる出で立ちをしていたからわからないかもな。いや学校にいる時の顔――うっとうしい前髪を眼鏡半分隠すほど下ろした顔――ですら水沢は覚えていないかもしれない。

 俺がわざとらしく水沢の目の前をうろついても何の反応もなかった。そもそも俺を含めて他人の顔は全く見えていないようだ。

 俺は買い物を終えたので、水沢たち二人の後をついて回り、セルフ会計を済ませた。

 この近所に住んでいるのか? 興味があったので少しの間尾行つけてみようと歩いたら俺たちのマンションに来てしまった。

 同じマンションの住人だったのかよ。成り行きでエレベーターを同伴させてもらったぜ。俺がいるのにすっかり二人の世界だ。

「ああ土曜日が毎週休みだと良いわ」水沢が甘えた声を出す。

 今日は新入生研修会で多くの教師が休みだったのかもしれない。あるいは午前のみで終わりとか。

「ボクもそう思うよ」旦那もたまたま休みだったのか?

 見上げる水沢のあごが旦那の胸に当たっているぞ。くっつき過ぎじゃね?

 二人は甘ったるい空気だけ残して降りていった。

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