フルーツサンド

 映画は面白かった。アニメ恐るべし。

 推理とアクション。奇想天外・奇妙奇天烈な展開。それ以上にそのアニメーション技術には感服する。

 しかし理解できない事柄も多かった。

 まず、登場人物が多すぎる。誰が誰だか分かりやしない。あらかじめシリーズを観て予習しないとついていけない。

 そしてまた思わせ振りな台詞の数々。次回作に解答が用意されているのか?

「何? どういうこと?」桂羅かつらがうるさい。

「いや、俺にも……」

「あんた、いつも観ているのでしょう?」

「三年に一回くらい――かな」

「それでついていけないってどういう作り?」

「あと二回くらい観るか?」

「う……」考えてやがる。こいつがよく喋るのは食いついた証拠だ。

「アニメ――だな」俺の言葉に桂羅かつらは顔をそむけた。

「――まずは昼飯食うベ」それには反対しなかった。

 俺たちは移動を開始した。


 土曜日の昼だったものだからどこの店も賑わっていて、桂羅は顔をしかめた。人混みが苦手なのだ。

 先日楓胡ふうこと出かけたらしいが外出はそれくらいしか経験がないのではないか。

 視線を集める。先日の楓胡との双子コーデと違い今日は地味な服装なりだが目立つ。

「人の目が怖いわ」

「俺はお前の目が怖い」

 にらまれた。他人の目を警戒して顔が強張こわばっているのだろうが、その近寄りがたい美貌はついつい観賞してしまうのだ。睨まれて喜ぶヤツもいるのではないか。

 そうしてランチの店を探していたらフルーツサンドを提供する店の前で桂羅かつらの足が止まった。

 つり上がっていた目が丸くなったぞ。少しはほころんでいるな。

「何、これ?」

「フルーツを食わせる店だろ。高級果物を売る店だ」去年までだったら絶対に手を出さないな。

「サンドイッチなのよね?」

 こいつはフルーツをサンドするのを見たことがないらしい。

「入るか。並ぶけどそんなに待たないだろ」

 店の前の椅子に女性グループが三組ほどいた。

 中は女性が多い。男はカップルの片割ればかりだ。

 桂羅は黙って待ち席に座った。

 俺はにやけた顔を見せないようにしてその横に腰を下ろした。

 表情の変化は乏しいが、俺はこいつの感情が少しだが分かるようになっていた。

 二十分もたった頃、俺たちは中に入れた。

「まずはサンドイッチだな」

「まずは――って?」

「デザートの方がメインだろ」

 俺が目を向けるところにパンケーキやらパフェやらを食す女たちがいた。

 何かキラキラしたものを見るかのように桂羅の顔がパアッと輝いた。食べる前から喉を鳴らせるなよ。

 二人してフルーツサンドを食べた。

 素材のフルーツがうまい。イチゴ、キウイ、オレンジ、マスカット……。スーパーのものとは大違いだ。俺でも違いがわかる。

「サンドイッチというよりはお菓子ね」

「まあな。今度家の近くにある玉子サンドを食わせる店に行こう」

「そんなのもあるんだ」

 ご機嫌だな。上品につまんではいるがしっかり食らいついているぞ。こいつが俺と同じジジイのところで育ったらさぞワイルドな女に育っただろうな。

「とっても美味しいわ」

 目を細めるなよ。何だか眩しいぞ。

 隣のカップルの兄ちゃんが横目で桂羅を見る。それに気づく姉ちゃんがジト目を兄ちゃんに向けた。

 俺は何だか心地よくなっている自分に気づいた。デートだよな、これ。でも相手は血がつながった妹だ。複雑。

 スマホに楓胡ふうこからのSNSメッセージ。

『桂羅ちゃんと仲良くしてる?』

『映画観てランチタイム』

 俺はサンドイッチを口にする桂羅を撮って送ってやった。

『それは良かった』とか返しつつスタンプと不機嫌スタンプを送って来やがった。

「誰?」

だよ。ちゃんと食ってるか心配だったんだろう」

 俺は楓胡とのやりとりを桂羅に見せてやった。

「写真撮ったな!」

「気づかなかったのか?」どうかしているぜ。

 俺が楓胡に送った画像の桂羅は口を大きく開けてうまそうにサンドイッチにかぶりついていた。

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