居残り組の日常
四月の半ば過ぎの金・土・日、高等部入学生の研修会があるとのことで、
俺は
ま、桂羅は同じ日に生まれた血を分けた妹なのだが――複雑だ。
兄妹といっても一緒に暮らしたことはない。先日突然言われてきょうだいとして同居生活を始めたばかりだった。ラノベによくある「親の再婚で義兄妹となった関係」と何ら変わりない。
金曜日早朝、俺と桂羅は玄関で制服姿の泉月と楓胡の二人を見送った。
「いってらっしゃい――」
「行ってきます――」
桂羅と泉月は最低限の言葉は交わす。
仲が悪いわけではないがもともと口数は少ないし、見た目は髪の長さの違いしかないし、少し対抗意識もあるのかもしれないと俺は思った。
「いってら」俺が言うと三つ編み眼鏡の楓胡が「大丈夫? 二人で」と俺たちを見た。
全く余計な心配だ。こどもかよ。お前らと変わらないぞ。何てったって四つ子だ。
「――掃除と洗濯は必ずする」俺は自信をもって答えた。
「任せた」桂羅が不敵な笑みを浮かべた。
「お前もするんだぞ!」
「はいはい」
「『はい』は一回だ」大丈夫か? こいつ……。
「仲が良いわね。ホントに心配だわ。浮気しちゃダメよ」楓胡が俺の頬をさすった。
吐息がかかって――ゾッとした。
桂羅は俺と楓胡にジト目を向けた。
二人を送った後、俺と桂羅は朝食を済ませ、登校するためにマンションを出た。
「明日休みになったな――」
その週の土曜日はもともと選択授業の週で、休みにしやすいらしく休校となった。
「――どこか行くか?」
「は?」
「このあたりのことよく知らないしな」
そう言うと桂羅はしばし考えた後、同意した。
桂羅は楓胡と一度出かけたことがあったが基本的に家にこもりきりだ。たまには外を歩くのも悪くないと考えたのだろう。
「行きたいところあるか?」
「考えとく」
表情は変わらないが何やらワクワクしてそうな空気を感じた。
こいつは小さい頃から寮に押し込まれて外の世界を見たことがないからな。まあ俺も都会は知らないし。
H組教室に入ると何だかいつもと空気が違った。高等部入学生研修会にボランティアとして
星組の星二つが欠けるだけでここまで違うとはな。しかも学級委員の
ということで、俺は馴染みの顔の不在でますますボッチ生活まっしぐらとなった。
昼休みにグラウンドをうろついていたら桂羅の姿を見つけた。
俺と桂羅は校内では見知らぬ仲だから会っても声をかけることはない。だから黙って様子を窺っていたのだが、桂羅が注視する先に下級生女子が二人いた。
ひとりは高等部、もうひとりは中等部の制服姿で、それが軽音同好会の二人だとわかった。先日星川に連れられて同好会室を訪れた際にいた二人だ。高等部一年生が
同じクラスの鮫島の妹だ。――似てないな。可愛すぎるぞ。中峰もだが。
そんな二人はギターを抱えて談笑していた。
アオハルだなあ。絵になるよ。
桂羅がその二人をじっと見ている。物陰から窺う不審者みたいだ。
俺は桂羅が先日楓胡と出かけた際エレキギターのセットを購入したことを思い出した。俺が面白がって触らせろよと少し弾いたら下手くそと言いやがった。確かに桂羅の方が少しは上手かったが言うほどか?
桂羅は軽音に興味があるようだ。軽音も部員不足を嘆いていたから声をかければ入れてくれるんじゃね?
しかし態度がでかくても人見知りの桂羅はそれができないようだ。諦めたようにその場を後にした。
面倒くさいヤツだなあ。そう思った俺はそこを離れようとした際に鮫島の姿を見つけた。同じクラスの兄の方だ。
なるほど妹の見守りか。そんなことをしているから軽音に部員が入らないのだぞ。などと思っていたら鮫島が急接近してきた。
「お前、軽音に興味があるのか?」
「いや」
「だったらあの女に……?」そこで間をおくなよ。
「――ストーカーだぞ」ちげえよ。
「ボクはうろうろしているだけだよ」
「あまり挙動不審だと生徒会やら美化風紀委員に声をかけられるぞ」
「鮫島くんも声かけられたの?」
「あ?」
「何でもない」
鮫島は舌打ちして去っていった。あいつも面倒くさいヤツだなあ。
俺は美化風紀委員に声をかけられるのも悪くないと思っている。ツンツンした美人なら申し分ないなあ。などと楽しみにしながらうろついたけれど声がかかることはなかった。
存在感を消すのも良し悪しだな。
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