同好会室の住人
俺はその週、学園の様子を見るために影を薄くしながらうろついた。
俺が部活棟を見てみたいと言うと
こいつはどうやらボッチらしい。あちこち愛嬌を振りまいているのだが相手にしてくれる者がいない。
女子たちは一応キャアとか嬌声をあげるのだが遠巻きに見ている感じだ。動物園にいる芸を覚えたオランウータンか? 本人は○流スターのつもりなのかもしれないが。
可哀相なヤツだと俺は思うが本人は全くめげていなかった。
「今は新入生の仮入部期間だから賑わっているよ」
確かに不案内な高等部入学生が先輩たちに率いられて動きまわっていた。二年生で転入してきた俺は何となく居心地が悪い。
「ここは特に人口密度が高いね。カオスだよ」星川が笑う。
そこは同好会室といって、複数の同好会がぶちこまれた大部屋だった。
教室二つ分くらいある広い部屋に机やパソコン、そしてまた音楽器材やら将棋盤やらが乱雑に収納された棚が壁を覆い隠すだけにとどまらず、小島群になっていて、そこに生徒もいるわけだから収拾もつかない。
「ここ、将棋部もあるの?」
「それは多分ボードゲーム研究会だよ」
「ボードゲーム?」将棋も入るのか?「囲碁やチェス、オセロも含めてボードゲーム研究会だよ。そうでないと会員が集まらない。
「しないよ。麻雀ならするかも」
「
運とハッタリ、イカサマのゲームじゃないのか? 部員会員の姿はないようだが。
星川の話では主たる活動部員が五人を切ると同好会に格下げされ、この大部屋に詰め込まれるようだ。
パソコンやテーブルは兼用。ほとんど荷物置き場になっている。もはやただの倉庫じゃないか。そこにいる生徒もまた詰め込まれた物だ。
しかもいかにもオタクっぽい男子が多くいて、女子が六割以上いる学園とはまるで趣きの違う異空間のようになっていた。カオスというのも頷ける。
「男の子の方が目立つね」男子が八割じゃないか、この部屋。新入生も男子が多い。
「お嬢様方もいるよ」
星川が目を向ける先に下級生らしき女子が二人いた。掃き溜めに鶴だ。結構可愛い。いや、めちゃ
「軽音同好会だよ」
星川は女子を見かけると必ず声をかけに行く。それが義務であるかのように。
俺は星川についていった。
「あ、星川先輩、ごきげんよう」その子は星川より先に挨拶の言葉を発した。
俺はそんな光景を初めて目にした。
「
さすが星川。俺には言えない声かけだ。下手なナンパ師でももう少しマシな言い方をするぞ。
「恐れ入ります」中峰と呼ばれた彼女はもう一人の中等部女子とともに頭を下げた。
「新しい会員は入りそうかね?」
「全然です」中峰はため息をついた。
可愛い女子が二人いるだけでも興味を持つ
「軽音は今この二人のフロイラインだけなのだよ」
何でだ? 俺は疑問に思ったが口にはしなかった。
「興味を示す新入生もいたと思うのだけれどね」
「多分、兄のせいだと思います」言ったのは中等部の女子だった。
名札をチラ見してその子が「
「それを言ったら私も身内のせいになっちゃうよ」中峰が言った。
「彼女のお父上は高等部一年の担任団の一人だよ」
なるほど、教師の娘にやさぐれの妹か。それを知ったら二の足を踏むのかもな。ここの生徒たちはお上品なヤツが多いから。
「星川くんが入ってあげたら」俺は言ってやった。
「ボクはどちらかというとオーケストラだからね。まあ微力でよければ協力は惜しまないけれど」断っているじゃないか。「――君はどうなんだい?」
「ボクは今あちこち見てまわっているから」
冷やかし程度ならギターやベースを触ったことはある。単なる冷やかしだ。真面目にやっている子らと一緒にやっても足を引っ張るだけだろうな。
本当に挨拶だけに終わってしまい、俺と星川はその場を離れた。するといくつかの同好会から声がかかる。
「活動費 増やしてくれよ 生徒会」
五七五だ。
俺は笑いをこらえた。
「活動費は活動実績に合わせて配分されるのだよ」星川は髪をかき上げた。
そんなことをしてもどこからも悲鳴はあがらないぞ。
「俺たちが活動していないみたいな言い方だな」三年男子が声をあげた。
上級生であっても星川の態度は変わらなかった。
「年二回の活動実績報告書、今年度活動計画。それら書類と部活連集会においてなされるプレゼンテーションを見た上で評価している。実態と乖離していると言うのなら報告書の書き方に問題があるかプレゼンが拙いのではないのだろうか」
「評価の仕方が悪いとは考えないんだな?」
「そこまで言うのならもう一度活動計画等を作成して生徒会に提出したまえ」
上級生に向かってのセリフじゃないな。面白いけど。
「見るのはお前と
硬軟入り混じってちょうど良いんじゃないか。
「――
「それが組織というものだよ」
おもしれえぞ。もっとやれ。
俺は無表情のまま傍観者に徹した。
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