カクヨム運営『お題』会議

越知鷹 京

とりあえず、保留にしましょう

「とりあえず、コーヒーでもどうだ?」と社長が提案した。

その一言が、彼らの人生を変えるきっかけとなったのだ。



カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップが開催されるようになってから、どれくらいの年月が経ったであろうか。日々の業務に追われて、振り返ることすら億劫であった。


その中でも、毎年悩まされるのがユーザーへの『お題』である。毎年、クレームの嵐だ。こっちだって、新規ユーザーを獲得するために、どれだけ知恵を絞っているとおもっているんだ。



*去年は「本屋」「ぬいぐるみ」「ぐちゃぐちゃ」。

ぐちゃぐちゃ、って何だよというクレームの袋叩きにあったのを思い出した。


それから、「深夜の散歩で起きた出来事」「筋肉」「アンラッキー7」「いいわけ」

そうそう。アンラッキー7は、7周年ということで「ラッキー7」でどうかという話で盛り上がっていたのに、つまらんという理由で、アンが取ってつけられたんだっけか。



*2022年は、「二刀流」「推し活」「第六感」「お笑い/コメディ」「88歳」「焼き鳥が登場する物語」「出会いと別れ」「私だけのヒーロー」「猫の手を借りた結果」「真夜中」「日記」。


――あの時もそうだったな。


社長が「とりあえず、6周年だから6という数字を頼む」とか言いだして、色々と案が出たんだけど、知名度が高い「第六感」なんてどうだ?とか誰かが言いだして、とりあえず保留していたのが採用されたんだっけ。



*2021年は、どんなだっけ?


「おうち時間」「走る」「直感」「ホラー」or「ミステリー」「スマホ」「私と読者と仲間たち」「お誕生日、おめでとう」「尊い」「ソロ○○」


なんで、この年だけは5という数字を入れなかったのかで、未だに社長は不機嫌だ。

そんなの知るか、って言いたいよ。

営業部長だかが「おめでとう!て、ユーザーに祝ってもらいたいよな」なんて言いだしたから「私と読者と仲間たち」「お誕生日、おめでとう」の2つを採用したんだろうが。こっちを責めるな、部長を責めろよな。


あぁ、今年もクレームが怖い。リスク高すぎんだよ『お題』選びってのはよー。



*2020年は、たしか、アレだ。


「四年に一度」「最高のお祭り」「Uターン」「拡散する種」

4周年を記念して「四年に一度」を採用したんだか。

ただ、「拡散する種」には冷や冷やしたよ。まさか、あんな病気が蔓延するなんてこれっぽちも思いもよらなかった。いやぁ、止めてもらいたいよね。失敗を袋叩きにする文化。


今年の『お題』も、とりあえず応募数の少ない物の中から社長が喜びそうなのをピックアップしたんだが、どうよ?


「社長、とりあえず、こちらに目を通してもらえませんか?」

「まぁまぁ、慌てるんじゃないよ。うちのマスコットはこれだからさ」

ぴよぴよ、と手を小さく羽ばたかせて無邪気に笑う。


クレーム対策本部、なめんじゃねぇ。


「そうですよね。じゃ、とりあえず『とりあえ』で採用しておきますね」

「きみ、上手いこというね!」


はいはい。それじゃ、鳥さんだけに『』にしておこうか。




今年は、ユーザーから どんなクレームがくるんだろうか...。




あぁ、胃が痛い。

失敗して、もとりあえず アンバサダー のせいにしておくか?


これだから、他人の失敗を自分化するヤツは嫌いなんだよ。



「君きみ。とりあえず、コーヒーでもどうだ?」

「あの、社長。そろそろ、名前を憶えて頂けないでしょうか?」



いやんだよなー、物事を曖昧にするのってさ。



「なんだね、君。その態度! 君こそ 私のことを社長、社長、としか呼ばないじゃないか。いい加減、下の名前で呼んでくれたまえ」


「とりあえず、……ムリです」



◇ 了


※ この物語はフィクションです。

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