第14話 あたため

 夜が更けていく中で、雨は止みそうになかった。これだとやはり自然の家に戻るのは明け方になるかもしれない。


「軽い遭難状態よね、私たち」

「だな。夕飯後で良かったよ」


 窓越しの雷雨を眺めながら、僕らは古臭い木の床に座り込んでいる。カレーを食べていたおかげで腹は空いていない。喉が渇いたら、外に出て天を仰げばいいだろう。


「でも、少し肌寒くない?」

「……肌寒いかもな」


 さっき雨に打たれたせいで運動着が濡れている。下着までは行っていないが、上着のジャージとハーフパンツは布面積の50%以上が水を吸って変色していた。篠崎の運動着も似た状態に見える。


「……脱いで乾かしておきましょうか」

「え?」

「こんなの着たままじゃ風邪をひくかもしれないし……」


 そう言って篠崎が長袖ジャージを脱ぎ始めていた。その下には白い半袖Tシャツを着ていたがそれさえも濡れていた。下着が透けている。林間学校ということで、動きやすさを重視してかグレーのスポブラだった。篠崎は半袖Tシャツまで脱ぎ始め、上半身をスポブラ一丁にしてしまった。


「お、おい……僕の前だぞ」

「今更下着程度、見られたところでね……もっと凄い部分、幾らでも見られているんだもの」


 ……確かに何を今更ではある。


「橋口くんも脱いだ方がいいんじゃない? 濡れたままだと気持ち悪いでしょうし」


 そう呟く篠崎はハーフパンツにまで手を掛けて脱ぎ下ろしていた。スポブラとお揃いの、スポーティーなショーツがさらけ出されている。

 篠崎のスタイルは相変わらず良くて、梁の一部に運動着を干し始めた後ろ姿をちらりと眺めてはどぎまぎしてしまう。


「ほら、橋口くんも脱ぎなさいってば。濡れたままでいいわけがないでしょう?」

「あ、おい……」


 干し終えた篠崎が、僕の運動着を強引に脱がせに掛かってきた。僕にはもちろん抵抗の選択肢がある――しかし、大人しく脱がされることにした。篠崎の言う通り、濡れているのは気持ちが悪い。それに、篠崎だけに下着姿のままで居させるのはどうかという思いもあったからだ。


「相変わらず、良い身体ね」


 僕を下着姿までひん剥いた篠崎は、そう言って僕の運動着も干し始めてくれた。

 こうして僕らは心もとない格好で改めて腰を下ろすことになる。

 濡れた衣服を脱いだ分、不快さは減ったが若干肌寒さが増したような気もする。夏なのに、今夜は秋口のようだ。


「ねえ……せっかくここまで脱いだのだからアレを試してみない?」

「……アレ?」

「雪山で、遭難したときにすること」


 と言われて、この状況と照らし合わせて思い至るのは……、


「まさか……裸で抱き合うヤツか?」

「その通り。そうすると暖を取れるって言うじゃない?」

「いやいや……別にそこまでするほどの寒さではないだろ?」

「それはそうなのだけど、もぅ……」


 篠崎はなぜか不服そうに頬を膨らませている。空気の読めない男ね、とでも言われているようだった。

 なんだろう……篠崎はそんなに僕とそういうことがしたいのだろうか。

 その行為自体に憧れがあるのか、はたまた別の理由でもあるのだろうか。

 いずれにせよ、篠崎はしたいらしい……。


「……分かったよ」


 根負けしたみたいに、気付けば僕はそう言っていた。


「ストレス発散の、一環ってことだな?」

「ええ……そういうことにしておいてちょうだい」


 だそうで。

 それから僕らは、下着をも脱ぎ始めた。僕自身、その行為に興味がないと言ったらウソになるので、それほどためらいはなかった。


「……気持ち良いわね」

「ああ……」


 コアラの親子みたいな体勢で、僕らは素肌を触れ合わせ始めた。

 とめどない雷雨の音が木霊する中、篠崎の柔らかくてあったかい身体に顔をうずめていると、イヤなことをすべて忘れられるようだった。

 やがてお互いに快楽を求めたくなったが、避妊具を持っていないのでそれはさすがに我慢した。


 そんな中で気付けばお互い眠っていて、目が覚めたときには朝日が昇り始めていた。

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