第15話:手がかりを求めて
翌朝、宿が用意してくれたポリッジと呼ばれるお粥をフレッドと食堂で食べていた。
ポリッジは米で作るお粥とは違いミルクで麦を煮詰めて作られていて、砕いたナッツと乾燥させた木の実が混ぜられている。
かなり薄味ではあるが柔らかい麦と歯応えのあるナッツの食感の違いや酸味の強い木の実が良いアクセントになっているので、食べ慣れてはいないもののこれはこれで美味しく食べられていた。
「さて、ここからどうしようね?」
「とりあえずなんですが魔法薬屋に行ってみたいと思ってます。ハルコさんにお話を聞きたくて」
「じゃあ今日は魔法薬屋に行きつつ、市場を見て回ろうか。ここの宿、調理場貸してくれるらしいから食材あれば料理もできるし!」
「それなら昨日のお肉も探してみないとですね!何を作ろうかな…パスタがあればミートソースにしても良さそうだ」
この辺りの主食は麦から作られる料理が多い。
その中で主に食べられるのはすぐに食べられるパンや調理が楽なポリッジではあるが、パスタも存在はしている。
種類はあまりなさそうだが、ミートソースであればどんなパスタにも合わせやすい。
ミートソースにするならスープはさっぱりしたものか、ヴィシソワーズがいいか。
サラダは生野菜を食べる文化がないから火を通してポテトサラダ…と思ったけどヴィシソワーズと芋が被ってしまうな。
そんなことを考えながら買いたい食材のメモを書いていると、フレッドが僕の手元をじっと見つめていた。
「な…何かありましたか?」
「いや、何が書いてあるのかなって。ヴェルダリア語でも大陸共用語でもないし…面白い文字だね」
「あー…そうなんですよ。大陸からだいぶ離れた国の言葉なので、読める人はそういないかと思います」
「ふぅん。まあ、一緒に旅をしていくことだし、ちょっとずつ俺にも教えてね」
そう言い残してフレッドは先に部屋へ戻っていった。
具体的に「何を」とは言われなかったが、おそらく僕のことについてだろう。
フェリチェの面々には早々に打ち明けることができたのだが、あまり公にしたくなかったのもあってフレッドには未だ「遠くの国から来た旅人」ということしか伝えられていない。
正直、一緒に旅をしていくから早めにと思うので昨日の夜に話すつもりでいたのだが、満腹と疲れで見事に爆睡してしまっていた。
なんというかこう…大事な話ってタイミングを逃すと次がなかなか見つからなくて言い出しにくいんだよな。
悶々と考えながら身支度を済ませて、フレッドに案内してもらいながら魔法薬屋を目指す。
今のところ、元の世界に繋がる唯一の手掛かりである「ハルコ」さんはどんな人物なのだろうか。転移者じゃないにしても、何かしらの情報を持っていると嬉しいのだけれど…。
「はい、ここが魔法薬屋のある広場だよ」
「ここが…!」
大通りにある細い脇道を進むと、噴水を囲む形で年季の入った趣深い建物が並んだ広場へとたどり着いた。
魔法と付いているくらいだからちょっとメルヘンなお店をイメージしていたが、真逆だ。
ショーケースのようなものがあるお店はほとんどなく、あっても怪しく古めかしい道具が所狭しと詰め込まれているような状態で、お世辞にも綺麗だとは言い難い。
ここに入るのか…なんて苦笑いをしている間にフレッドは何てことない顔で普通にお店の中に入っていく。
取り残されないように僕もその後を追うと、店内には若い女の子が1人だけいて、商品棚の整理をしていた。
「やあ、ハルコちゃん!お久しぶり!旅に出ることになったから、一式の魔法薬をもらえるかな?」
「わぁ!フレッドさんお久しぶりです!旅魔法薬ですね。ちょっと待ってください!」
そう言って棚を漁るハルコの姿を見て、僕は昨日から抱いていた希望が消え去ってしまったように感じて落胆する。
バタバタと忙しなく棚を漁るハルコと呼ばれる少女は、どこからどう見てもこの世界の人間で、日本人らしさをどこからも感じない。
「そちらの方は…フレッドさんのお仲間さんです?」
「そう!俺の相棒、料理人のケイだよ」
「…初めまして、ケイです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします、ハルコです!ケイさんも何かお探しですか?」
「えっと…馬車酔いに効くサシェをお借りしたことがありまして、あればそれと…」
「もちろんありますよ〜!他にもご入用ですか?」
そう聞いてくれるハルコの質問に思わず沈黙を返してしまう。
下手に異世界から来たことを悟られないようにしてきたつもりだったが、「ハルコ」が日本人ではなさそうな限り少し身元を明かしてみないことには何も手掛かりは得られなさそうだ。
深呼吸をして、僕はハルコに一つの質問を投げかけることにした。
「ハルコさんは『日本』という言葉を聞いたことがありますか?」
「…っ!」
その言葉を聞いたハルコはバサバサと手に抱えていた品物の袋を地面に落とす。
一か八かの質問ではあったが、何かしらの情報は持っているようだ。
「その地名をどこで…?」
「地名だということもわかるんですね。あまり公にしてほしくないんですが、僕の出身地なんです。何か知っているのでしたら、なんでも良いので教えてください」
黙って床に散らばってしまった商品を拾いカウンターに置き、ハルコは真剣な眼差しを僕に向けた。
「お話しします。誰かに聞かれてはいけないので、どうぞ奥で。フレッドさんは…どうします?」
「同席してもらっても良いですか?いずれ話そうと思っていたことなので」
「…わかりました。私はお店を閉めますので、先に座って待っていてください」
店に入った時の明るさを失い、緊張感のある表情のハルコに促されて店の奥にある席に腰を下ろす。
フレッドは何が起こっているのか不思議そうな顔をしながら僕の隣に腰を下ろす。
しばらくして、お茶と1通の手紙を持ったハルコがやってきた。
「確認させてください。この手紙、最初の部分を読んでください」
「えっと…この文字を読める同胞に、今の私が知る限りの情報を託します。あなたの今後の参考になれば幸いです。と、書いてあります」
「…合っています。それでは、私の知っていることを全てケイさんにお話しします」
そう言うと、ハルコは目を閉じて深呼吸をし、遠い昔の話をし始めた。
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