11
我慢しなきゃって思ってた。でも泣いてしまった。涙が溢れて止まらなかった。
「仁くん。今まで本当にどうもありがとう」涙声で咲は言った。
仁くんはなにかを察したのか黙って咲の話を聞いている。
「仁くんに会えて、仁くんと一緒に今まで過ごすことができて、……仁くんと友達になれて、私は本当に幸せでした」無理やり笑って咲は言う。
「咲。そこを動くな。一歩も動くなよ」
仁くんが一歩だけ前に足を踏み出した。同時に咲は一歩だけ足を後ろに動かした。背後でざー、と言うとても激しい川の流れる音が聞こえる。
「朝まで待てば、きっと森を出ることができるから大丈夫だよ。洞窟の外で寝袋で眠って、朝を待って、それからみんなのところに帰ってね。夜のうちに無理して森の中を戻ろうとしてはだめだよ」
仁くんは無言。
「仁くん。心配しないで。私のことは『みんな忘れちゃう』はずだから。だから誰も悲しまない。誰の心も痛んだりしないよ」
「咲。お前が悲しいだろ。お前の心が、痛いだろ」
仁くんは一歩前に出る。咲は一歩後ろに下がる。
「仁くん。ありがとう。仁くんは本当にいつも優しいね。でもね、仁くん。私ね。もう決めたんだ。みんなを助けるって。そう決めたの。だからいいんだよ。私は満足してる。これが『私の生まれた運命』だったんだよ」
「俺は忘れないぞ。咲のこと絶対に忘れない」
咲は無言。
「咲。こっちに戻ってこい」
「だめ。だってそうしたらみんな死んじゃう。……みんなが、お父さんも、私も、仁くんも死んじゃうんだよ。そんなの絶対にだめだよ」
咲は一歩下がる。もうその後ろは大きな川だった。
「咲」仁くんが動く。
「さようなら、仁くん」
咲は迷わずにそのまま後ろに下がって、目を閉じて、両手を胸の前で繋いで、大きな川の中に落ちた。
どぼん、と音がして咲の世界は真っ暗になった。
水は氷のように冷たくて、流れは思っていた以上にとても強かった。
でも、心は思っていたほど悲しくはなかった。
これでみんなを助けることができる。
よかった。
咲は思う。
でも次の瞬間、そんな咲の意識は急激に現実の世界に引き戻された。
誰かが咲の腕を掴んだのだ。
冷たく、暗い水の中で。
「咲!!」
「仁くん!!」
二人は同時に水面から顔を出す。咲は目を開ける。するとそこには大好きな仁くんがいた。
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