第109話: 多摩ニュータウンに逃げ場無し!!!
──そも、『玉無しニュータウン計画』とは、なんなのか。
既にお気付きの方がいるやもしれないが、知らない人もまた多いと思われるので、簡単に説明しよう。
それは、『花子さん』の……言うなれば、『花子・オリジン』である花子さんの始祖が考え、古からの悲願を叶えるために編み出した秘術である。
内容は、単純明快。
エネルギー体である分身を、まだ性別が決まる前の胎児の段階に憑依させ、そのエネルギーを全て費やして、強制的に『性別:女性』に固定させるというものだ。
人間の性別は、妊娠初期の段階では全て女性である。
精子と卵子が結合した際、精子側の染色体の違いによって性別が決まるわけだが……言い換えたら、よほどの例外を除いて、性別は受精した段階で決まるというわけだ。
つまり、花子さんたちは、この染色体を不思議パワーによって全てX染色体に変えてしまい、生まれてくる子供を全て女児に固定する。
これこそが、『玉無しニュータウン計画』の全容である。
まるでギャグ漫画のような話だが、現実として考えたらとんでもなく恐ろしい計画である。
なにせ、そもそもの『多摩ニュータウン計画』は移住人口が、なんと約30万人を目標として計画されている日本最大規模の都市開発計画である。
あくまでも紙面上の話だが、仮に30万人(15万組)の夫婦が移住して、1人子供を産んだとすれば、女性人口だけが15万人増える。
2人産めば30万、3人産めば45万、4人産めば60万人。そう、女だけが60万人増えるという計算になる。
世界人口を考えたら、たかが60万人と思われそうではある。だが、日本人口として考えたらとんでもない話である。
ぶっちゃけてしまえば、やっていることは人口抑制というレベルの話で。
規模が拡大すれば最終的には、子供を産む女性は法的に制限されても不思議ではない……という話なのだ。
さすがに店内(というか、トイレ)で対応するわけにも店を出て、いくしばらく。
常人相手ならばいくらでも逃げ切れるが、千賀子が相手なので、それは不可能。
千賀子の神通力にて強制的に自分も花子も周囲から見えない状態にしたうえで、足早に移動し、ワープにて転移。
多摩ニュータウン建設予定地に残された、まだ工事の手が伸びていない雑木林の奥へと戻ってきた千賀子は……無言のままに、花子さんの髪を掴みあげた。
「あいだだだ、待って、待ってください! これには深いふか~いワケがあるのです!!」
「ワケって、『玉無しニュータウン計画』のこと? 河童から聞いたけど?」
「え?」
さすがに、『玉無し』の計画を知られているとは思っていなかったのだろう。
心底驚いた様子ではあったが、すぐさま千賀子が力を込めて腕を振れば、「千切れる! ツルツルなのはアソコだけで良いのに!」それはそれは痛そうに顔をしかめた。
「ワケを話したくなったら、素直に話してね。今日はこのまま頭の皮膚が剥がれるまで振り回したい気分だから」
「はい、はい、はい! 話します、全部話します!」
声色からして本気なのを察したのか、花子さんの顔色は真っ青であった。
「これには深いワケが……お願いします、どうか、話を聞いてくださいお姉さま~!!」
「誰がお姉さまじゃい!」
そして、という感じの泣き言を挟んだ後で、冒頭の話に繋がり、花子さんの計画の全貌を教えてもらったわけだが。
「ヨシ、ぶっ殺し確定ね」
「え!? なんで!? 誰しもが求めた理想郷が生まれるのに!?」
「理想郷と思っているのはお前だけでしょうに、このロリコン変態め」
「変態とは不本意な! 生まれたままの若々しくも穢れ一つない、白無垢のような割れ目の美しさその割れ目を彩るプリッとした桃尻にぷにっと飛び出たイカ腹ポツンと可愛らしい穴と穴のコントラストを目で愛でて鼻で愛でて耳で愛でてその成長を見守るのは人として当たり前のことでしょう!? (息継ぎ無し)」
「おまえは人間じゃないでしょ……(ドン引き)」
千賀子としては、生かしておく理由が欠片もなかた。
前提として、花子さんが『玉無しニュータウン』とやらを作ろうとしたのは、女児の無毛な割れ目を眺める=食事とかいうグリセリン液に脳を浸してはちみつを追加したかのような生態をしているからである。
ぶっちゃけてしまえば、全て花子さんの都合でしかない。
河童たちも大概だが、あっちは自然の成り行きに任せているだけ、まだマシ……いや、そうでもないか。
「何か言い残す事はある? 忘れるまで覚えていてあげるから」
とりあえず、死なせた方が世のため人のためと思った千賀子は、グググッと手に力を込める。
なんとも悲しい話だが、罪悪感を微塵も覚えない。むしろ、こやつを生き長らえさせておく事の方が罪悪感を覚えて仕方がない。
とはいえ、命は命。
せめて、痛み無く安らかに送ってやろう。
そんな思いを込めて、千賀子は拳を構える。破壊力とかそういうのではなく、巫女的パワーによる魂破壊攻撃だ。
河童の話から推測するに、物理的に肉体を破壊してもなんだかんだ復活しそうだし……かる~い気持ちで、千賀子はギュンギュンと『力』を込め始めた。
「──お、男なんて下品ではありませんか!?」
いよいよヤバいと思ったのか、言い訳の声に焦燥感がこれでもかと滲み始める。
「毛むくじゃらで、飯は女の倍は食べて、偉そうで、馬鹿ばかりじゃないですか!? 同じ女ならば、分かるでしょう!?」
「馬鹿なのは、女が馬鹿だからよ」
「え!?」
「女の馬鹿なところはね、さも自分たちが謙虚で賢くて無害で善良な存在だと思い込んでいるところよ」
「お、女の敵!?」
「ほら、そういうところ。だいたい、アンタも薄々分かっているから、毛も生えていない幼子の方に固執するんでしょ?」
「そ……それは……!!!」
「語るに落ちるとはこの事ね」
同情を誘おうとしたのだろうが、千賀子は一言で切り捨てた。
「う、うう……私とて、成人した女子の方が色々な意味でマシなのは分かっている……しかし、黒々とした毛が、醜く飛び出したビラビラが……うう、気持ち悪くなってきた……」
(いや、そもそも覗き見を止めろと……あ、そういう生態だから止められないのか……う~ん、そう考えると、こいつらって本当に難儀な生態をしているわね……)
けれども、ちょっとばかり千賀子の手を止める程度には効果があった。
客観的に考えたら、『花子さん』にとって覗きは食事……というか、正確には幼子の秘所を感じることが、だろうか。
覗きなんてしているのも、真正面からお願いして断られたり変態扱いされたり、どうにもならないから結果的にそうするしかない……と、考えることもできる。
つまり、なんだかそれ以外の理由が有りそうだけど、花子さんには傷付ける意図は……少なくとも、花子さんの目線から見れば、ないということだ。
花子さんたちからすれば、ただ食事をしているだけである。
人間に例えるなら、犬や猫の排泄行為を眺めるような感覚……だろうか。悪趣味ではあるが、それもまあ人間の基準での話なので、良いか悪いかは関係ない。
玉無し計画とやらも、言葉を変えれば食料の供給先を増やそうとしただけ。その程度、古来より人間がやってきている事だ。
食う為に太らせて、食わなくても死ぬまで使って、死んだら肉も皮も使って、場合によっては骨すら使い、最後は粉々にして餌にする。
それに比べたら、『玉無しニュータウン計画』は別として、変態行為を行うだけで当人には欠片も気付かせないあたり、人間よりもよほど……ん?
なんで、気付かせない、というのが分かるのかって?
気付かせるような奴ならとっくの昔に人々の間で問題になっているし、千賀子が花子さんの接近に気付けたのも、巫女的シックスセンスがあったおかげである。
普通ならば、同じ部屋に居たとしても欠片も気付けないし、なんなら肉眼では見えないステルス花子さんモードが使える感じがするし……まあ、それはそれとして。
(冷静に考えたら、私は何を真剣に覗きがどうとか考えているのだろう……)
そこまで考えたあたりで、千賀子はなんとも言い表し難い気持ちになると……ふと、ある事を思いついたので、溜息とともに千賀子は手を放した。
「取引をしましょう」
「え、え、は、はい?」
どちゃ、と地面に尻餅をついて痛がっている花子さんを、千賀子はジロリと睨んだ。
「始祖のあんたをぶち殺したって、どうせすぐに分身の誰かが始祖に成り替わるのでしょう?」
「ひぇ、なんで分かるのこの人……」
「女神様の巫女をやっていればね、そういう事も分かるようになるのよ……話を戻すので、取引しましょう」
ズイッと、千賀子は屈んで視線を合わせた。
「やろうと思えば、あんたを通じて分身全部を一網打尽に出来るけど……それやると、今の私でも1ヶ月ぐらい寝込んだ挙句の全身筋肉痛で、下手すりゃもっと長く体調が悪化するわけね」
「は、はあ……」
「恩人の知り合いや友人ならともかく、顔も名前も知らない他人のために、そこまでしてやるほど私は聖人でもないし、義理もないわけ」
「はあ、それは、そうですね」
「あんた、分身たちが見聞きした事も、ついでに、トイレの外の会話とかも聞こえて覚えていられる? 移動出来るのは女子トイレだけ? 女子トイレの中なら見つからないって事でいいのよね?」
尋ねれば、しばしの間、困惑していた花子さんは……ポツポツと教えてくれた。
──一つ、千賀子の分身とだいたい同じである。
分身が見聞きした事も正確に記憶できるし、さすがに距離がありすぎたり、階が違ったりしたら難しいかもしれないが、それでも人間とは原理が違うようだ。
ただ、記憶に関しては数日ごとにほぼ完全なリセットが掛かるらしいので、そうなる前に紙などに書き記す必要があるとのこと。
──二つ、女子トイレに移動するのではなく、女子が使用している(あるいは、使用したトイレ)トイレに移動する。
つまり、花子さん的には、女子が使用するトイレは全て『女子トイレ』というアレらしい。変な所で無駄に柔軟である。
──三つ、女子トイレの中に限り、千賀子レベルの巫女的シックスセンスでもないと、まず出現を感知できないとのこと。
カメラなどにも映らず、肉眼でも視認できないし、音を出しても認識できないのだとか。つまり、覗かれていることに絶対に気付けないし、知ることはない、というわけだ。
「よろしい。それなら、これから3週間ぐらい東京中のトイレというトイレを見張って、赤子を産み落とそうとする女性が現れたら私に教えなさい」
「え? どういうこと?」
「自分勝手で馬鹿な女が、改心せず行きずりの男の子供を便所で産み捨てる可能性大ってことよ」
意味が分からずに目を瞬かせる花子さんに、千賀子は苦虫を噛んだかのように顔をしかめた。
「大して期待はしていなかったけど、この期に及んで周りが悪いって思っているのが伝わって来るのは……しかも、これまた変態活動家のセフレみたいな位置になっているっぽいし」
「????」
「気にしなくていいわよ。とにかく、いいわね? 3週間後までには、金髪碧眼の女の子が生まれるから」
「イエッサー!!! 幼女のためならば、たとえ火の中! 水の中! 頑張りますよ!!!」
「……手を出したらぶん殴るから。とにかく、見付けたらすぐに私に連絡しなさ──っ!?」
その瞬間、千賀子は──神通力によるバリアを張る。
仮にその場に第三者が居たら、千賀子を守るようにドーム状の膜のようなモノが見えただろう。
だが、建設予定地であり工事予定地でもあるその場所に、第三者の目はなく……とんでもない剛速球のバスケットボールと野球ボールが、バリアに当たって静かに地面へ転がった。
……なにヤツ!
言葉には出さなくとも、目でそう語っている千賀子の視線が……己を見つめる、2人の少年を捉えた。
「困るんだよね、花子さんの計画を止められると──」
「──だって、そうしないと僕たちが困っちゃうから」
少年たちは……一見するだけだとただの少年にしか見えないが、巫女的シックスセンスを持つ千賀子には分かった。
「……あんたら、人間じゃないわね」
そう、千賀子は、2人の少年の正体が、ヒバゴンや河童や花子さんたちと同じ……人外の存在であることを見抜いた。
だが、しかし……分かったのは、そこまで。
さすがの千賀子も、出会った直後に全てが分かるわけではない。知るためには精神を集中し、その内心を探る必要があるわけだが……今回は、その必要がなかった。
「太郎! 次郎! なにをしにやってきたの!?」
「……? 花子さん、あんたアイツらのこと知っているの?」
「知っているもなにも、アイツらは私たちとは対極に位置する……言うなれば、鏡映しの存在だから!」
何故ならば、花子さんが教えてくれたからだ。
簡潔にまとめると、少年たちの正体は、『花子さんの男の子Ver』と言えば、想像が付きやすいだろうか。
花子さんが女子トイレの怪談ならば、少年たちは男子トイレの怪談といった感じで、名は『太郎』に『次郎』である。
「……で、その太郎くんに次郎くん? どうして私の邪魔をするの? それに、困るってどういうこと?」
答えても答えなくても、無理やり聞き出すけど。
そんな内心を隠しながら尋ねれば、どうやら初めから2人は隠すつもりなどないようで……意味深にクックックとわざとらしく笑った後、2人はギュッと互いの手を……指を絡ませるようにして握った──ん?
(……なんだろう、嫌な予感がする)
背筋を走る怖気に、先手必勝をするべきかと迷う千賀子を尻目に、2人は意気揚々と語った。
「そりゃあ、困るよ。だって、花子ちゃんの『玉無しニュータウン計画』を進めてもらわないと──」
「──僕たちのユートピア、『
それは、まさしく鏡写しで、対極だというのが一発で分かる計画名であり。
「──くっ!? な、なんて恐ろしい事を!?」
「おまえら、実は裏で話を合わせていたりとかしてないよね?」
思わず、千賀子がそうツッコミを入れてしまうのも、無理からぬ話であった。
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※ 生き残るのは、誰だ!?
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