第108話: UMA(うわぁ・マジで・アカンやつ)説、否定できないという……




 千賀子の前世における花子さん……すなわち、『トイレの花子さん』と呼ばれる怪談話がより人々に知られるようになったのは、1980年前後からだとされている。


 この花子さんだが、実は人々の間に唐突に登場したように思われるが、実は様々な説があると言われている。


 たとえば、第二次世界大戦の真っただ中、トイレに避難した花子さんが不運にも空襲によって死亡してしまい、名前だけが広まった説。


 戦争とはまったく関係なく、1950年代の都市伝説が元ネタだという説。


 モデルとなった『花子さん』が実在した説もあれば、花子さんという怪談話を作った人が、自分の娘をモデルにした説。


 あるいはオカルトブームの流れに出版関係者が乗り、子供たちの間に広まり易いようにと身近な幽霊として、学校を舞台にして作られた説……等々など。


 これは『トイレの花子さん』に限らず、70~80年代に大流行した様々な都市伝説にも当てはまる。


 すなわち、『口裂け女』、『人面犬』、『ターボババァ(所によって、ジェットババァ、100キロババァとも)』も……っと、さすがにこれを含めると説明が蛇足になるので、話を戻そう。



「……その、花子さんってどういうやつなの?」

「どういうやつ……そうですね、男のフレグランスを悪臭だとか、みなぎる美しい筋肉を野蛮だとか評価する、頭のおかしいやつらです」

「いや、そうじゃなくて、ごめん、聞き方が悪かった。単刀直入に聞くけど、花子さんって女が好きなの?」

「はい、大好きですね。特に、下の毛が生えていない未成熟な娘の全身をぺろぺろして生涯を終えることが最大の誉だとか」

「うわぁ……」



 とにかく、寝耳に水とはこの事で、千賀子にとって『トイレの花子さん』は前世で広まっていた情報しか知らなかったので、河童たちから詳しく話を聞く事にした。



 ……そうして分かった『花子さん』の情報をまとめると、だ。



 まず、この世界の花子さんは、オリジナルとも言える始祖を除いた全ての花子さんは、正確には本体から分裂した手足のようなモノらしい。


 言うなれば、千賀子がやる分身と同じであり、始祖と同じく思考し行動できるが、あくまでも分身体なので、何百何千体死んだとしても始祖には何の影響もない。


 しかも、分身を出してから次の分身を出すまでにはインターバルが必要とはいえ、大した消耗をするわけでもなく、時間稼ぎにしかならないとのこと。


 また、始祖は女子トイレに限り自由自在にワープすることができる超能力を持っているらしく、始祖の位置を特定するのは非常に困難である。


 学校のみならず、女子トイレが作られると、必ずそこに始祖の花子さんがやって来て、分身を置いていくのだとか。



「……なんで女子トイレに? トイレの花子さんって言うぐらいだから、なにか意味あるの?」

「花子さんは、幼子の無毛の割れ目を見て、小便などをする様を観察することが食事になりますので……」

「?????? なんて????」



 とりあえず、フッと思った疑問を尋ねてみたら、倍以上に膨れ上がった不可解な疑問を返された。


 いや、もう、その、人間、心底理解出来ない宇宙語で話し掛けられたら、只々困惑することしかできないらしい。


 神経質だとか、それ以前。だって、冷静に考えてほしい。


 小便を観察することが食事になる……これで、『あ、そうなんだ』と納得出来る人間が、はたしてどれぐらい居るだろうか。


 少なくとも、千賀子にはまるで理解出来なかった。


 正直、日本語を話されているのに、日本語で会話が成立していないという錯覚が起きているような……錯覚なら、良かったのだけど。



「……花子さんって、肉食じゃないの?」

「え?」

「いや、そんな変な事を聞かれたって顔をされるこっちが不本意なんだけど?」



 不思議そうに顔をしかめる河童に、ちょっとイラッときた千賀子だが……ここで苛立っては話が進まないので、我慢する。



「はあ、誰から聞いたのかは存じませんが、花子さんは少女の、それも美しい少女と戯れたり眺めたり浴びたりすることが食事になりますので、そもそも肉は食べません」

「人肉とか食べないの?」

「じんに……え、貴女様は本当にいったい誰からそんな事を? そりゃあ、中には人肉を好むモノが居るかもしれませんが……全体的にみたら、少数派ですよ」

「え?」

「ご存じの通り、我ら河童は互いの筋肉を称えあい、プリッと美しい二つの『尻子玉』に愛情を持って張り手を行い、うっすらと赤く腫れる様を眺めることで栄養を補給するのですが──」

「知らん、知らんよそんなの……」

「花子さんたちも方向性の違いがあるだけで、成長期を迎えんとするつぼみの美しさを目で楽しみ、肌で楽しみ、臭いで楽しみ、甲高くやかましい嬌声を糧としております」

「ロクなもんじゃねえな、君ら……いや、ヒバゴンとかさ、肉食じゃん?」

「ヒバゴン……ああ、あいつらですか」



 花子も大概だが、河童も大概にやべえやつらだなと思いながら尋ねたら、河童は……なるほど、と頷いた。



「それは、誤解です。元々、アイツらも肉食じゃなかったのですよ。肉も食いますけど、どちらかと言えば雑食です」

「え、マジで?」



 前提を覆す話に思わず千賀子は目を瞬かせ──チラリと、傍の女神様を──そう、女神様って常に傍にいるから──見やった。



 ──(=^ω^=)ジトメトッテモカワイイヤッター


(……女神様、その、UMAって大半が肉食なんでしたっけ?)


 ──(=^ω^=)ソウダヨータイハンハネー


(……あ~、うん。女神様にとって、『私』と『それ以外』だから大半なのか……嘘は言っていないけど、誤差が大き過ぎるよ……)



 まあ、どちらにしても、人肉を好んでいるUMAはいるので……そう己を納得させる千賀子を尻目に、河童は話を続ける。



「知恵遅れの子とか、キチガイの人とか、昔はそういう子や人と食糧やら何やらと交換してくれって、よくありましたから」

「ああ、そういう……」

「けっこう、そういうのは喜ばれましたよ。不義理の子ゆえに育てる事ができないという流れで、山の作物と交換してくれって押し掛けて来た人も……」

「あ~、うん、そっかぁ……」

「もう何十年も前のことですけど、年老いた爺さんと婆さんが山に来て、『おらぁの肉を食っていいから、痛み無く殺してくれ』って……私たちは人肉など食べませんけど、オオカミやクマに生きたままゆっくり食い殺されるよりはって……」

「はい、止め止め、この話は止め! それ、昭和恐慌(1930年:昭和2年)の時とか、東北凶作から昭和農業恐慌の間の話でしょ、止め止め!」



 聞けば聞くほどに気が滅入ってくる話を察した千賀子は、強引に話を打ち切った。



 ……なお、昭和恐慌・相和農業恐慌・東北凶作とは、何かと言うと。



 まず、昭和恐慌とは、1929年のアメリカ合衆国で起こった世界恐慌(通称:暗黒の木曜日)の影響が日本に届いて起きた不況(1930年)の事。


 それに合わせて、1930年~1931年(昭和5年~6年)にかけて深刻だった昭和恐慌にて、とりわけ農業関係が大打撃を受けたことから。


 東北凶作とは、1934年~1935年(昭和9年~10年)に起こった、青森・岩手・宮城を中心とする、日本史に名を残す大凶作の事。


 この三つによって、ただでさえ都市部の仕事が無くなり帰農せざるを得なかった者たちに加えて、経済的な打撃を受けて弱っていた地方農村のダメージは壊滅的となった。


 飢餓と呼ばれるほどに生活は困窮こんきゅうし、青田刈り(要は、収穫の前払い)が横行し、欠食児童や女子の身売りが深刻なレベルで増大し、教員などの公務員への給料未払いも発生し、回復し始めるのは1936年以降からであった。






 ……。


 ……。


 …………兎にも角にも、だ。



 何も知らないのであればともかく、少女を狙う変態UMAが居ると分かっていて、千賀子としては、放置するには些か夢見が悪い。


 多摩無しならぬ、『玉無しニュータウン計画』とかいう、腐った綿あめのような頭で考えたのかと思ってしまうような計画も、無視出来ない。


 なので、ひとまず『花子さん』とやらに挨拶というか、接触しておこう……と、思ったわけだが。



「……本当に、なんにも無いわね」



 『多摩ニュータウン』建設予定地へとやってきた千賀子は、率直に驚いていた。


 どうしてかって、何も無いからだ。


 ただ、本当に何も無いわけではない。


 有るには、有る。後から人間が作った物だけが。


 パッと見渡す限り、チラホラと生えている雑草があるだけで、木々は一本も無い。その痕跡すら、まったく見付けられない。


 ブルドーザーによって整地された大地は、寂しさを覚えてしまうぐらいに綺麗に整地されており、遠くの方では既に完成しているマンションが見えた。


 だが、それは終わりではない。まだ、始まったばかり。


 東京の肝いり政策なだけあって、掛けられている予算も人員も桁違い。既にパンクしているも同然な東京は、一刻も早く住処を求めていた。


 実際、荒野になったのかと思った彼方の先で、木々を切り倒し、根っこを掘り起し、荒野を広げ続けているショベルカーなどが見える。


 後から後から、空になったダンプカーが出たり入ったり、山盛りに積んだダンプカーが出たり入ったり、土埃と黒煙をまき散らしながら、大量の土砂を何処かへと運んでいる。


 広大な荒野だというのに、どこに居ても、作業のやかましさが耳に届く。


 ボケーッと突っ立っている千賀子の視界には、絶えずどこかで機械が轟音を立てて作業をしていて、米粒のような人々がチマチマと動き回っているのが見えた。



 ……ちなみに、だ。



 現代(前世の話)に比べてはるかにゆる~いこの頃でも、何の用事もなく工事現場に入れば罵声の一つや二つ飛んでくるところだが……場所が幸いした。


 この頃の若者の間では、ちらほら『神様(笑)』といった考えが出始めてきているが、工事関係者の間ではそうでもない。


 いわゆる、常識では説明できない不思議な事を経験した者が多かったらしく、信じる者、信じない者、別れはするが、信じない者でも無下にはしなかった。


 また、多摩のここには元々、多数の神社や寺があり、先祖代々の墓がいくつもあった。


 ここの工事はとにかく大規模なので、地元以外からも、それこそ全国から募集が……すなわち、別の地方から来ている者も多い。


 それゆえに、色々と思うところがある人はけっこう多く、毎朝仕事が始まる前には、必ず朝日に向かって手を合わせ、無事を祈る人もチラホラいたらしく。


 合わせて、寺や神社や墓を撤去したり移転したり際には、地元民や関係者からの強い希望による、地鎮祭なども何度か行われていたらしい。


 なので、巫女服という実に分かりやすい恰好をした千賀子を見ても、『ああ、地鎮の……』と、咎める者は皆無であり。


 中には『はて、今日は来る予定だったか?』と首を傾げる者はいたが、問題にはならなかった。


 なにせ、この頃の工事現場なんて、事前連絡無しで急な来訪者(それも、顔も知らない)が来るなんてよくあること。


 オドオドと周囲を見回していたら不審に思って声を掛けてくるかもしれないが、堂々と振る舞っていれば、『下見で来た人かな?』と勝手に納得してくれる。


 現代では社員証なり許可証なり持っていない部外者が居たら、即警察案件だが……この頃は、それこそ子供だって勝手に入ってくるぐらいにはゆる~い時代であった。



(……あ~、これは無理だわ)



 しばしの間、真剣な眼差しで大地の……自然の命が息づいていた景色を、過去の光景を視ていた千賀子は、スパッと諦めた。



(『力』を使っても、焼け石に水ですわ、これ……これを戻すぐらいなら、他所に回した方が万倍も労力が軽いわ)



 巫女であり、『山』の主であるからこそ分かるが、ここはもう半ば死んでしまっている。


 なにせ、木を切り倒したという話ではない。根っこを掘り起し、穴を掘って、土壌にも多大なダメージを与えるのだ。


 小さな雑草が繁茂するではなく、樹木などが並ぶ雑木林まで戻るのを待つとなれば、それこそ最低でも100年以上は掛かるだろう。


 いちおう、植林を行えば回復を早めることは可能だろうが……まあ、人が住む以上は無いよりはマシ程度のことだろうなあ、と千賀子は思った。



(……と、いうわけで、2号。そっちで吉報を待っている河童たちには悪いけど、私にはどうにもならんって伝えておいて)

『──分かったわ、本体の私』



 テレパシーによって、千賀子は2号に現地の詳細な映像と感想を送る。


 既に分かっていたことだが、本当にコレはもう、どうにもならない。


 今さら工事を止めたところで、既に自然は帰ってこない。それこそ、10年20年、千賀子は毎日通い続けるぐらいは必要になる。


 いちおう、止めようと思えば止められはする。可能と聞かれたら、可能だとは答えられる。


 だが、リスクがあまりに高過ぎる。無理やり力技で工事を止めてしまえば、いったいどれほどの各所に影響を及ぼすか、規模が大き過ぎる。


 大量の失業者が現れるだけなら、まだマシ。


 下手すれば企業の倒産だけでなく、いまだ好調を保っている経済活動を一気に鈍化させ、昭和恐慌の再来なんて事態も起こしかねない。


(玉有りだか玉無しだか分からないけど、とりあえず、ニュータウン建設そのものに私は手を出すつもりはない。止められないわよ、こんなの)



『──そのように伝えるわ。花子さんについては、どうするの?』

(そもそもトイレが見当たらないし、河童の話も本当っぽいし、そこまで私が労力を掛ける義理もないし……ていうか、北海道のハイセイコーの事があるし、構っていられないわ……)

『──それも?』

(これは伝えなくていいから……とにかく、花子さんが見つからない以上はどうにもならないって話よ)

『──それも、伝えておくわね』

(そうして、私ももうしばらく様子見してから帰るから)



 そう、テレパシーを切った千賀子は……一つ、溜め息をこぼした。


 そう、けっこう暇を持て余している無職(当人目線)な千賀子だが、実際は色々とやる事がある。


 それは、ロウシたちとのスキンシップや、明美や道子との交流、家族の安否の確認だけではない。


 冴陀等村での旅館(要は、観光業)は好調で、表向きは村の顔役の1人(本当にそうかな?)として、顔出しする必要がチラホラある。


 『春木競馬場』も今は落ち着いているが、そっちはそっちで顔を出しておく必要があるし、放置している間に、せっかく建て直したそこにシロアリが……って話になったら目も当てられない。


 時々だが出資者として明美のところの銭湯で問題が起こっていないか見に行くし、道子の方からは挨拶がてら相談を受ける時もある。


 また、先ほどのテレパシーの……北海道だが、まあまあ問題が現れている。


 ハイセイコーの件で調教施設というか、そのための場所を作るために動いている……というか、既に建設も終わり、既に何頭か利用されているが、そこはいい。


 これがまあ、まるっきり任せっきりというわけにもいかない。人の感情というのは、本当に難しい。


 いくら合法的に土地の持ち主と契約を交わしたとはいえ、余所者が我が物顔で……と、勝手に嫉妬して悪評を流す者が現れても、なんら不思議ではない。


 ……うん、まあ、大げさではなく、会話が通じないレベルの地球育ちの宇宙マインドなやつは、何時の時代もいるのだ。


 古臭いとか、そういう話ではない。


 自分たちのルールが絶対であり、そのルールに従わないやつは何をされても仕方がないと思っている人は、一定数いるのだ。


 顔見せ程度だとしても、本来ならば無関係な人たちだとしても、それでいらぬ反感を和らげられるならば、しておいて損はないのだ。


 ……まあ、その。


 去年だけで北海道の炭鉱が十か所以上も閉山して、大量の失業者が出たおかげで土建の方に人が集まり、建設が早まったのは……皮肉としか言い様がないけど。


 幸いと言うべきか判断に迷うが、ホッカイドウ競馬の売り上げが好調らしいので、改めて千賀子の方から何かをしなくとも、ひとまず大丈夫そうなのが救いだけど。



(ロングエースとハマノパレードも、そろそろ調教を始めていっているって話だし……はあ、ちょっとダラダラしたいわ……)



 なんだか、ちょっと精神的に疲れたなと千賀子は思った。


 ヒバゴンも河童もそうだが、UMAというやつは相手をするだけで、関わるだけで精神力を根こそぎ削られていくような気がしてならない。



 ……そう考えたら、だ。



 下手に『花子さん』と接触してしまうよりも、今は会えないで……さらに精神的疲労を溜めずに済んで、良かったのかも……っと。



(……そうだ、せっかく東京まで来たわけだし、なんかお土産買って帰ろう)



 ふと、千賀子はそう思い至った。


 考えてみたら、何も考えずに買い物をするだなんて何時以来だろうか? 


 考えたら、ちょっと気分が好調してくる。


 ひとまず、トイレの花子さんの事は脇に置いといて、千賀子はお土産を買う為に都心の方へと向かった。






 ……。


 ……。


 …………で、まあ、そうして意気揚々と向かった千賀子だが、精神的に出不精の気がある千賀子に、いきなり気の利いた土産を見付けろ、だなんてできるわけもない。


 都心に行けば、なんか見つかるだろう。


 そんな軽い気持ちで、あと、せっかくだし、たまには普通に移動するかと気分転換も兼ねて動いたわけだが……まあ、うん。



「あ、スプライトあるの? 店員さん、スプライトと、ホットケーキ」

「巫女さんなのに、良く知っているね。法事か何かで東京に?」

「そんなところですね。あの、不躾で申し訳ないですけど、東京のお土産で何か良いのってあります?」

「う~ん、そうですね……ちょっと歩きますけど、浅草のどら焼きがおススメですよ。たしか、亀の名前が付いた店です」

「亀……ありがとう、行ってみます」



 餅は餅屋、土地勘が無いのであれば、土地勘がある人に聞けば良い。


 勘を頼りに目についた喫茶店に入った千賀子は、おそらくは前世以来かもしれない飲み物の文字を見て、即座に注文。


 前世以来となる、とても懐かしい味になんとも言えないアンニュイな気持ちで、これまた、ちょうど良い甘さのホットケーキで腹を落ち着かせてから。



「店員さん、おトイレ借ります」

「はい、どうぞ」



 移動中にもよおすのは嫌なので、先に済ませておこうとトイレへ──で、ちょっと感動した。



「……機会があったらまた来よう」



 この店は掃除に気合を入れているのか、トイレはとても綺麗だったから。ちなみに、和式。


 現代に比べたら普通クラスでも、この頃ではかなり気合を入れているに等しい。


 まあ、言い換えたら、現代人があまりに綺麗好きというか、潔癖症なだけかもしれないが……で、だ。



(どら焼きがあるってことは、金つばとか、モナカもあるだろうし……あ、草餅も買って帰ろうかな)



 そんな事を考えつつ、千賀子は慣れた手付きで裾をまくり、神通力で固定しつつ……よっこらせと腰を下ろし──ふと、嫌な予感を覚えて振り返ると。



「つるつるみぇ……とぅるとぅるみぇ……」



 そこには、白いシャツに赤いスカート&サスペンダーを付けた、おかっぱ頭の少女が……ふんすふんすと、鼻の穴をこれでもかと広げた少女がいた。


 なお、少女は床に頬をくっつけんばかりにしゃがんだ状態で身体を傾けて、血走った眼で……千賀子の秘所を見ていた。


 ……。


 ……。


 …………とりあえずは、だ。



「……出るもんも出ねぇよ、この馬鹿野郎」

「見えぐふぇ」



 神通力でその身体をその場に固定しつつ、後ろ蹴りで顔面を蹴りつけたのであった。



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