女神様「100話記念なので、記念ガチャをしましょう」
さて、そんな感じで『妊娠騒動(時限爆弾式)』をひとまず終わらせて、神社に戻った千賀子なのだが。
──と、いうわけで、ガチャをしましょう。
「は?」
唐突に、女神様からそんな提案をされた。
いや、誇張抜きで、本当に唐突である。
一切の前振り無しで、いきなり『と、いうわけで』ときたのだ。そりゃあ、さすがの千賀子とて困惑する。
ちなみに、女神様に関してだけは2号や3号の手助けは入らない。
2号と3号が動いたところで何一つ状況は変わらないし、下手すれば女神様のテンションが上がって大変なことになるから……で、だ。
──今回は通算100話目なので、ガチャを回しましょう。そのために、にゅ~ガチャルーレットを作りました。
「100話……え、なに? マジでなんの話なんですか、女神様?」
──それでは、さっそく回してみましょう。
「いや、聞いてよ、人の話をよ!」
──最近、回していないようですし、ね。
「いや、回してはいないけどさ……」
人の話をまるで聞かない女神様だが、相変わらず、今も話を聞かない。
ほんのちょっとばかりは、人間の考えというモノに理解を示すような気配を感じるようにはなったけど……やはり、女神様は女神様のようだ。
まあ、それを今更責めても意味はない。
人間だって、同種族の思想すらまともに統一出来ずに紀元前から争い続けているのだ……女神様の感覚を傲慢と捉えることこそ、傲慢以外の何物でもない。
……で、だ。
そんな流れで女神様より唐突に用意されたガチャルーレットは、『Ver.6』という文字が煌々と輝いているだけあって、これまでとはだいぶ様変わりしてい──いや、待て。
『Ver.6』だと? いったい、何時の間に?
思わず、千賀子は頬をひきつらせた。
千賀子の記憶が確かならば、たしか『Ver.3』、あるいは『Ver.4』だったような……いや、止めよう。
千賀子は、考えるのを止めた。
だって、考え出すとキリがない。そもそもが、このルーレット自体が、千賀子の関与するところではないのだから。
……そんなわけで話を戻し、まずはルーレットの外見から語ろう。
新たに『Ver.6』となったルーレットは、これまでの円形のソレとは異なり、見た目が『宝箱』となっていた。
ファンタジー漫画や海賊漫画などでおなじみの、アレだ。ルーレットじゃねーじゃん、というツッコミは、無しである。
たぶん、女神様からすれば、『え? 違うの?』とガチで首を傾げられるやつだ……まあ、些細な事なので、気にする必要はない、話を戻そう。
ルーレットとは名ばかりのガチャ宝箱、それが二つある。大きさは同じで、造形も同じ。
違うのは色だけで、片方は茶色、片方は緑色をしていて……ああ、よく見れば、『宝箱』には小さな文字でナニカが書かれている。
──茶色は、『スタンダード・ガチャ』
──緑色は、『アイテム・ガチャ』
なんと、小賢しいことに、『Ver.6』はこれまで通りのガチャとは別に、新たなガチャが用意されているようだ。
分かりやすく現代のガチャに例えるなら、『キャラガチャ』と『装備ガチャ』の二つが用意されたというわけだ。
この女神、千賀子をガチャ狂いにしたいのだろうか……残念ながら、それを知る術は千賀子にはない。
「アイテム、か……(ドン引き)」
ただ、分かるのは、『アイテム・ガチャ』とやらには、おそらく己にとって必ずしも+に働くモノが入っているわけではない……という、経験則から来る予感だけであった。
いや、だって、考えてもみてほしい。
あの、女神様だぞ。
あの女神様が、わざわざ新しく用意したのだ。
それも、見た目をガラッと変えて、わざわざ『100話記念』とか意味不明な事を前置きしたあたり、余計に不安ばかりがこみ上げてくる。
しかし、残念ながら、引かないという選択肢は無い。
拒否したところで人の話をまるで聞かない女神様は、あの手この手で引かせようとするだろう。下手に抵抗して、余計に状況を悪化させてしまう可能性も極めて高い。
「……先に聞いておきたいのだけど、『アイテム・ガチャ』のラインナップって、教えてもらえるのかな?」
なので、出来うる限り事前の情報収集をしておこうと……思ったのだが。
──引いてからの、お楽しみです。さあ!
「その、初めてのガチャなので、何がどう違うのかを事前に……」
──アイテム・ガチャの方は、スタンダードに比べてコインの使用量が約100倍になっておりますよ。その分だけ、豪華なアイテムとなっております。
「そ、それだよ! そういうのを先に教えてほしいんだよ、こっちは!?」
──あっ、コインの残量が……100話記念なので、可愛い愛し子に免じて3000枚に調整しておきますね。
「まっ──い、いえ、頑張らさせていただきます、はい……」
やはり、聞いておいて良かった。
どんなアイテム
と、同時に、聞かなければ良かったと思わなくもない。
だって、有無を言わさずコイン……すなわち、ガチャ回数を増やされたのだ。
新しくなったガチャに気を取られていたので詳しく見ていなかったが、一瞬ばかり目に留まった数字を見る限り、軽く倍以上に増やされ……止めよう、もう。
(……いつものガチャは、最悪制御出来ないタイプが来る可能性がある。さすがに二度目は無いと思うけど、最悪のパターンが発生する可能性も0じゃない)
とにかく、問題なのは目の前にあるガチャをどうするか、である。
(……アイテムなら、神社に保管しておけばなんとかなるのでは? アイテムって名前なら、使う使わないは全て私が決められる……かも?)
正直、スタンダードはもう引きたくない。
現状、なんとか能力が向上している『ジョブ:巫女』の力によって抑えられている『魅力』なり『フェロモン』だが、絶対ではない。
特に、寝ている時は起きている時よりも制御が甘く、寝起きなどだと欠伸と共にうっかり漏れてしまう時がある。
同性相手ならまだそこまでではないが、異性相手には……その、色々と毒になってしまうだろうなあ、とは千賀子の弁。
なにせ、自分が寝起きした後の布団を片付ける時、自分のモノだというのに、『女の子の匂い……』と思ってしまうぐらいだ。
実際、日本全国どころか世界も渡り歩いていた3号の記憶にも、己が使用したベッドに顔を埋めて扱いている従業員の姿を……とにかく、スタンダードは止めよう。
今でさえ、100%完全に抑え込めているわけでもないのに、だ。
なにかの拍子に気が緩めば、その分だけ千賀子から放たれる甘い匂いに、周囲の者を惑わせてしまう。
男が、女が、ではないのだ。
それを思えば、千賀子の視線が『アイテム・ガチャ』の宝箱に向いてしまうのは、必然的な流れであった。
「……あ、『アイテム・ガチャ』の方で──」
そこまで告げた時点で、千賀子は気付いた。
『アイテム・ガチャ』の宝箱の鍵穴っぽい場所のすぐ傍に、小さな文字で『10連限定』と書かれているのを。
(──これ、罠じゃん)
そう、理解した時にはもう、全てが遅かった。
スッと、何処からともなく現れた大きなコインが10枚。それが、鍵穴へと吸い込まれて……あ、そこに入れるのか。
それから、アイテム宝箱がカタカタと揺れたかと思えば、パカリと開かれ──中から、一回り小さい宝箱が10個飛び出すと、千賀子の前にて綺麗に整列した。
『緑色に輝く宝箱』
『緑色に輝く宝箱』
『緑色に輝く宝箱』
『金色に輝く宝箱』
『緑色に輝く宝箱』
『緑色に輝く宝箱』
『金色に輝く宝箱』
『緑色に輝く宝箱』
『緑色に輝く宝箱』
『虹色に輝く宝箱』
文字にして並べたら間違い探しになりそうなそれらの中でも、ひと際目立つ金色と虹色の宝箱……に、千賀子の視線が向けられるのを他所に、パカッと一つ目の箱が開かれ──淡い光と共に、千賀子の眼前へと飛び出した。
『R:お肌うるうる美容液(New)』
千賀子の眼前にて表示される、説明ウィンドウ(千賀子にしか見えない)。
それは、中々に洒落たデザイン(千賀子基準)の小さなボトルに入った、美容液であった。
その効能は、その名前のとおりに美容液である。
肌の保湿、肌の補修、肌の保護という三つの効果を有している。要は、現代のドラッグストアなどで売られている美容液よりも、相当に効果がある美容液……である。
「……普通じゃん。え、マジで普通じゃん。いや、むしろ当たりじゃん、これ」
身構えた分だけ、肩透かしを食らった感じだ。
念のため神通力にて効能などを確認するが……最初にパッと表示された内容と同じく、本当にただの美容液であった。
ただし、1970年の今の基準では、超高性能。
千賀子の前世でも、これと同じモノを用意しようと思ったら……いや、用意出来るのか……そう思ってしまうほどの代物ではああった。
『R:お肌うるうる美容液』
しかも、これは『R』だ。
これならむしろ、ガチャを回したくなるアイテムだ。パッと確認した範囲だが、有用な部分しか見当たらない。
ガチャによって乾燥とは無縁な千賀子だけでなく、家族や友人にあげることも可能なのだから、余計に。
『R:快適解決快便液(New)』
これもまた、非常に便利なアイテムである。今度のは実用的な茶色の小瓶といった感じで、中には薬液が入っているのが見えた。
その効能は、その名の通り、下剤だ。だが、ただの下剤ではない。
快適、解決、快便と揃えているだけあって、下剤には付き物な副作用が一切無い。今なら出せると念じれば、すぐさま腸内の不要な老廃物などを痛みなくスムーズに出してくれる優れモノだ。
しかも、どうやら効能がしばらく続くようなのだ。
これも、ガチャの恩恵によって便秘になった経験がない千賀子には無縁の代物だが……欲しい人からすれば、札束を払ってでも欲しい一品である。
『SR:ピッタリフィットランジェリー』
そして、金色の宝箱より出てきた、刺繍細やかなセクシーブラとセクシーパンツ。
それの効果を確認した千賀子は、思わずガッツポーズを取ったぐらいに喜ばしいものであった。
と、いうのも、だ。
この『SRランジェリー』だが、装着する者に合わせて自動的にサイズを調整するだけでなく、常に清潔に保たれ綺麗なままを維持する、洗濯不要な下着なのだ。
そのうえ、下着も劣化することなく、常に最適で快適な着心地を提供してくれるという、千賀子のような巨乳で尻の大きな人にとっては大変喜ばれる逸品であった。
……あまり語る話でもないが、ブラというのは消耗品である。
理想としてはだいたい100回ぐらいの使用を目安に新しいモノに変えた方が良いらしいのだが、この頃(1970年頃)はまだまだ種類もサイズも多くはない。
特に、千賀子のような巨乳サイズともなれば、特注で用意してもらうか、伝手を頼って外国製のモノを手に入れるか、無理やり合わせるかの……とにかく、大変なのだ。
それは、千賀子とて例外ではない。
いくら特注とはいえ、身体に馴染むまで多少の時間は掛かる。その違和感は、けして良いモノではない。
やはり、身体に馴染んだモノがずっと使えるとなれば、千賀子としても大変に嬉しく……早速装着し、その着心地の良さにちょっとテンションを上げるぐらいには、喜んだのであった。
(さ、最高じゃん……!! ヤバい、これも『魅力』ピックアップ系かと思って身構えていたけど、これならいい! これはいいわ、余ったら明美と道子にもあげよう)
と、同時に、千賀子はようやくまともなガチャが用意されたことに、軽く感動の涙が零れそうになった。
だって、思い返してほしい。
女神様の用意した『ガチャ』の、罠を。
無邪気にガチャを回す、それ自体がとんでもない罠へと続く舗装された道だと、いったい誰が思うのだろうか……で、だ。
『R:血行改善薬(New)』
これは、病気を改善する類の薬ではなく、血行を促進させることで肌に活力を与え、肌をみずみずしくさせる薬だ。
見た目は、下剤と似ている小さなボトル。ラベルが貼ってあるので、気を付ければ間違えることはないだろう。
『R:口臭改善薬(New)』
これも、病気を改善する類の薬ではないが、胃の調子をいくらか整えることで、口臭を改善する薬である。
これも、小さなボトルに入っている。現代で言えば、胃薬と息リフレッシュ系薬を融合させたような薬液だろうか。
『SR:ピッタリフィットランジェリー寝間着タイプ(New)』
そうして、次の金の宝箱で出てきたアイテムが、コレだ。
これも、先ほどのブラとパンツと同様の性能のようだが、違う点が一つある。
それは、寝巻用として特化しているという点だ。
一般的なパジャマなどは、寝相や姿勢によっては衣服が変につっぱったり、はだけたりする場合があるけれども、コレにはない。
常に、まるで3ヵ月ぐらい使用して肌に馴染んだような感覚で、どれだけ寝返りをうっても、不思議と衣服が押さえられて変につっぱってしまう……ということもないのだ。
唯一の弱点は、この寝間着ランジェリー。
生地もそうだがデザインの関係で色々とスケスケで、素肌の上に直接着る用っぽいのだが、そうすると要所が微妙に隠れてくれないという点だろうか。
具体的には、乳首とか、股の具とかが透けて見えるのだ。気をつけの姿勢を取ると、それがよく分かった。
他人の目がない神社ならまだしも、他所では絶対に着られない寝間着である。ただ、これもまた非常に着心地が良い……で、だ。
……。
……。
…………そんな流れで、千賀子はアイテム宝箱を開封していき……ついに、10個目となる虹色の宝箱の番が来た。
先に、言っておこう。
この時の千賀子は、けっこう楽観視していた。
なにせ、これまでの9個全てが有用で、千賀子自身には効果が薄くとも、それでも非常に利用頻度が多くなるようなものばかりだったからだ。
最初は警戒していたが、コイン使用料が100倍なだけあって、便利なモノばかり。
特に、壊れない汚れない着心地最高なブラとパンツは誇張抜きで一番うれしいぐらいで、次も『アイテム・ガチャ』にしようと思わせるに十分な代物であった。
「虹色だし、夏場でも汗一つ掻かない衣服かナニカかな」
ブラ&パンツに、寝巻用ランジェリーときたら、次は外出用の衣服か。
そんな期待を込めて、千賀子は虹色の宝箱より飛び出した光と共に、姿を見せたアイテムへと目を凝らし──。
『SSR:素敵で素敵な相棒(New)』
要約:子供から大人への階段登る、素敵なジョークグッズ。どう足掻いても素晴らしく母性を刺激する、けしてペニ○は怖くな~い、勇気をもってください(by女神)
──光が治まるに合わせて露わになった、どう見ても男性のアレにしか見えない、それを見て。
(信じた私が馬鹿だったよ……)
あのさぁ……と、声なき声を呑み込んで、ギュッと唇を噛み締めたのであった。
なお、女神様は千賀子の背後でグッとガッツポーズをしていた。何が恐ろしいって、100%善意なのである。
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女神様「良かれと思って・・・」
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