女神様「101話記念なので、ガチャを回しましょう」




 ──とんでもない事になったぞ、そう千賀子は思った。



 理由は、眼前のテーブルに置かれた『ちん○』である。


 さすがは、女神作というべきか、その造形は不本意ながら見事という他ない。


 なにせ、本当にリアルだ。前世ですっかり見慣れたブツだからこそ、余計に細やかな部分までしっかり作り込められているのがわかる。


 が、しかし……千賀子は、ギュッと太ももを閉じて気合を入れる。


 とんでもない理由は、そこではない。見た目のこだわりがヤバいのは確かだが、そこではない。



(……どう足掻いてもって、こういうことかよ!?)



 ヤバいのは、この『ちん○』そのものである──よく分からないって? 


 簡潔に語るなら、こう……この『SSRちん○』を視界に入れていると、性欲が猛烈な勢いで滾ってくるのだ。


 最初は、『こんなもの万が一にも誰かに見られたくないし、なにか手頃な箱にでも入れて押入れの奥にでも……』と考えられる余裕があったのが、罠であった。


 そう、この『ちん○』の説明に、『どう足掻いても~』という文面がある時点で、速やかに処分するべきだった。


 何故ならば、気付いた時にはもう、子供が欲しい、子供を産みたい、子供に乳を吸わせたい、そんな欲求が千賀子の中で沸き起こっていたからだ。



 そう、そうなのだ、本命はそっちである。



 結局のところ、人間である千賀子は子供を産むにはまずヤラないと駄目。女神パワーで強制受胎させられる以外では、性行為をする必要がある。


 しかし、今生の千賀子は前世の記憶の影響が残っており、その精神の延長であるがゆえに、男性に対しても女性に対しても、性的な興味を感じにくい。


 つまり、ある種の不感症というやつで。


 その、不感症……すなわち、最初の関門を突破するための道具が、この『SSRちん○』であり。


 ぶっちゃけてしまえば、もっと性欲滾らせて自慰とかバンバンして、もっと性感に目覚めて、そこから性行為に好奇心をもって……という、なんとも気の長い女神アプローチなのであった。



「め、女神様さぁ……段階を刻んでいくの、ズルくないぃ……完全にこれ、罠アイテムじゃないっすか……」


 ──??? 時々、布団の中で弄っているではありませんか? 


「見ていても言わない! そういうことはね!? 墓場まで持って行くのが優しさってもんなんすよ!!」



 ちなみに、千賀子がヤバいと断じたのは、千賀子は千賀子で自分を慰めた経験があるからで……つまり、今生でも性的な快感を知っているからである。


 そう、厄介な話だが、優良健康花丸である千賀子の身体は、年齢相応に高ぶってしまう時がある。


 学生の時はそうでもなかったし、プライバシーなど皆無な昭和のあの頃……家族の誰かに見られでもしたら、その日に家出する


 いざ1人暮らしになった事で気が緩んだのか……本当に時々だが、そういう気分になり、こっそりと……というのが、実は何度もあったわけである。



「……に、2号、それを外で燃やしてきて……たぶん、近くにあるだけでも影響を受けるっぽい……」


 ──太陽の中に入れても焦げ一つ付きませんよ? 



 女神様のすっとぼけた注意に、千賀子はくわっと目を見開き…………けれども、構っている余裕はなく。



「それなら、埋めてぇ……や、ヤバい、下手に押入れに入れてもヤバいっぽいから──さ、3号、立てないから手伝って!!」



 切羽詰まった千賀子の呼び声に、2号はため息と共に動く。



「はいはい、それじゃあ山のどこかに埋めてくるから」



 それに合わせて、3号も動く。



「本体の私、ちょっと手水舎のプールに飛び込もうか」



 全身から甘ったるい匂いを発し、ねっとりと汗を掻き始めた千賀子の身体を担いだ3号は、猛スピードで外へと飛び出し──何時ぞやぶりに、境内にある手水舎へと叩き込まれたのであった。


 ちなみに、2号と3号には、そういったデバフの影響はない。


 見た目は完全に千賀子と同じであり、肉体的にもセックスは可能だが、そういう快感を得られる身体ではないからだ。


 いくら似せているとはいえ、あくまでも似せているだけであり、女神様のように人間を完全に作っているわけではないのだ。


 ……なお、山に埋める予定だった『SSRちん○』は、のっそりと姿を見せたロウシのキックで粉々になったことを、ここに記載しておく。






 ……。


 ……。


 …………さて、気を取り直して、Take2。



 高ぶっていた千賀子も、手水舎の冷たいプールにダイブしてしまえば、一気に冷めるというもの。


 着替えたり水分補給したりと色々していれば、自然と思考も冷静さを取り戻し……ソワソワと待ち続けている女神様の前にて、戻って来たのだった。


 そうして、千賀子は再び、選択肢の前に立たされる……こともなく、迷うことなく千賀子は『アイテム・ガチャ』を選択した。


 何故なら、リスクはあるけれども、やはりアイテムの方が有用性も利便性も非常に高いからなのと。


 なによりも、アイテムの場合は、従来のガチャで与えられる恩恵とは違い、破棄あるいは破壊することが可能だというのが分かったからだ。



 と、いうのも、だ。



 従来のガチャで得られる恩恵は、あくまでも千賀子自身に限定される。ただし、それが『SSR』以上ともなれば、必ずしもそうなるわけではない。


 そう容易くSSRとかURとかは当たらないが、ハズレを引くと千賀子自身にも多大なリスクをもたらす恩恵の可能性が相当に高いのだ。


 恩恵なのにハズレがあるという時点でコレ如何にという話だが、倫理観や理性を完全に消失してしまえば、これ以上ないぐらいの恩恵であるのは確かなので……ん? 



 ……なんで、わざわざ止めずにガチャを回すのかって? 



 そんなの、どうせここで止めて溜め込んだとしても、ナニカの女神的タイミングで天丼ガチャされる可能性大だから、である。


 女神様が間に挟まると、ほとんどの場合はロクな結果にならないのは経験則から嫌でも……なので、自分が引けるうちに引いておこうと思うのは、悲しいかな自然な流れであった。



 ……で、だ。



 コイン使用料が100倍になるということは、ルーレット一回分が100コイン。


 残コインが2000枚なので、計20回……すなわち、10連ガチャを2回行うことになるのだが、結果は……思っていたよりも、良かった。


 得られたアイテムは、色々である。


 1回目の時に出た美容液や改善薬もそうだが、他にも非常に使い勝手の良いアイテム……というか、千賀子以外にこそ有益なアイテムも出た。



『R:ほっこり女神の湯(7回分)』



 その中でも特に有益なのが、入浴剤である。


 効果としては、千賀子が日常的に使用している神社の『豊穣の湯』と効能は同じではあるのだが……しかし、同じだからといってガッカリするものではない。


 そもそも、神社の『豊穣の湯』の効能は、他の温泉が裸足で逃げ出して草葉の陰で震えてしまうぐらいで、理屈では説明付けられない代物だからだ。


 なにせ、自律神経症、不眠症、躁鬱病、内蔵全般の循環器&消化器障害、冷え症、皮膚全般の症状、消化器の各種症状、貧血症や便秘や下痢、糖尿病や通風、コレステロール、その他諸々を改善させるだけではない。


 物理的な外傷に対しても殺菌&消毒&修復のトリプル作用が働くほか、筋肉痛などに対しても効果を発揮し、解熱鎮痛効果もあるので苦痛が軽減されるだけでなく、神経からくる痛みやケイレンすらも抑えてくれる。


 効果が期待できる、なんてレベルではない。効果をハッキリと確認できる、そういうレベルなのだ。


 そう、現実に存在していたならば、全国からリピーターが増えるばかりか、治療目的で人々が押し寄せるのは間違いなし。


 そういう湯を作り出せてしまう入浴剤が、『ほっこり女神の湯』なのだ。


 回数制限があるとはいえ、これは本当に良いモノである。


 これまでは残念ながら神社の外に持ち出せず、千賀子以外に利用することができなかった(女神様が良い顔をしないので)が……これには、一回目のガチャ結果同様、千賀子もニッコリである。


 他には、変わり種として、急な雨などに降られた際に身体が雨水で濡れたり汚れたりしても、すぐに乾いて綺麗な状態になる指輪だろうか。



 名を、『R:身綺麗な宝石』である。



 これもまあ、けっこう便利だ。


 というのも、この頃(1970年頃)の雨水というのは、ぶっちゃけてしまえば、千賀子の知る現代よりもはるかに汚いのである。


 なにせ、モクモクと、黒煙やら何やらが煙突などより吐き出されて混ざり合った大気の成分を含んだ、雨水なのだ。


 色が付いているというほどではないが、地面に落ちたそれらは乾けば独特の臭いを放ち、うっかり雨に打たれてしまえば、そりゃあもう何とも表現し難い悪臭が発生するのである。


 それは、何も衣服だけではない。


 跳ねた雨水で汚れたズボンや靴も同様であり、雨が降った日は独特の臭いが街中に広がり、それは家の中も例外ではなかった。


 ──そんな汚れや臭いを、この指輪を付けているだけで無効化してくれるのだ。中々に、便利な代物である。


 他にも『にきび治療薬』とか『ビタミン剤』とか、製薬会社が知れば目の色を変えて、殺してでも奪い取りに来そうなアイテムが手に入ったが、話が長くなるので省略する。



「……さて」



 そんな感じで、場の空気が温まったところで……色々とトラブルが起こったので、改めて身綺麗にした千賀子は、テーブルに置かれたアイテムに目を向けた。



『UR:あの頃よ、もう一度(New)』



 それは、虹色に輝きながらもうっすらと後光が差していた宝箱より出てきたアイテム。ちなみに、箱を空けた時には、キラキラと粒子も飛び散り、それはそれは綺麗な……話を戻そう。


 この、『あの頃よ、もう一度』というアイテムの見た目は、『瓶に入った錠剤』である。


 効果を簡潔に語るなら、『一定時間、望んだ年齢の姿になれる』というもの。


 魔法少女系の作品とかでありそうな、大人になったり子供になったりすることができる、アレである。


 一見するばかりでは、そこまで身構える必要はないのだが……忘れてはいけない、これは、女神様が用意した『UR』のアイテムであるということを。


 そう、このアイテム……ただ、望んだ年齢の姿になれるだけではない。


 効果の説明文が妙に長ったらしいというか、遠回しというか、これまでとは明らかに表現の仕方が独特過ぎたので、よ~く3人で考え、一度だけ使用した結果……恐ろしい仮説が生まれたのだ。


 それは──『全盛期のステータスを保持したまま、その年齢の見た目になるのでは?』、というものだ。


 例えるなら、全盛期の内部ステータス値をそのままに、見た目のグラフィックを変えた……というのが、分かりやすいだろうか。


 以前、諸々の経緯から2号がロリ化した事はあったけど、アレとは根本から違う。というか、そんな生易しいモノではない。


 と、いうのも、この薬が指定する『全盛期』というのは、現時点の話ではない。


 言うなれば、千賀子が寿命に至るまでの、各種パラメーターが最も高かった時を個別に参照するのでは……というものだ。


 未来も過去も、関係ない。


 腕力はもっとも力が強く出る20代。体力は10代、美貌も似たような年代で、知性や精神は経験が積み重なった4,50代、といった感じである。


 ここで罠なのが、参照されるのは、あくまでもそういう部分なだけで、『ジョブ』や『スキル』は含まれないというもの。


 つまり、スキルレベルは現時点のままなのに、それ以外の各種ステータスはカンスト……みたいな状態になるわけだ。


 これがまあ、事実なのだとしたら、とんでもない罠である。


 なにせ、実際に2号と3号に見守られて使ってみた千賀子は、試しに12歳の姿になった結果──その、2号と3号に襲われたのである。


 おかげで、薬が切れて元の姿になるまで、全員がなめくじみたいな状態であった。


 2人曰く、『本体の私を見た瞬間、理性が吹っ飛んだ』、らしい。本来ならば性欲が無い2人ですら、そうなったのだ。


 魅力値カンスト状態で、神通力による制御を失えば、どうなるか……それを実際に体感した瞬間であった。


 千賀子の感覚としては、あくまでも自分の分身であるから自慰の延長でしかなかったが……うん。


 間違っても、人前でうっかり飲んでしまえば……そう結論を出した千賀子は、2号と3号からも承諾を得て、それをそっと押入れの中に入れたのであった。



 ……なんで押入れかって? 



 それは、女神様曰く、『地面に埋めたり、完全に手の届かない場所に捨てたりすると、増えて戻ります』と言われたからである。


 しかも、際限なく増える……そんなんおまえ、完全な呪いのアイテムではないだろうか。


 使い方とタイミングさえ見誤らなければ、恐怖の大王すらも退けられそうなアイテムであるのは確かだが……リスクが高すぎる。


 少なくとも、現時点では、千賀子はそれを二度と使用しないと心から決めたのであった。


 ……。


 ……。


 …………なお、その際に、だ。




 ──( = ^ ω ^ = )




 無言のままに、横に広がっている女神様の姿があったけど、千賀子はあえて触れようとはしなかった。


 だって、ろくなことにならないし。



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女神様「     」(ロウシの蹴りをくらって悶絶中)


次回、掲示板です。本編とは関係ない番外編みたいな感じになります

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