第13話 執政官もこらしめる

第13話 執政官もこらしめる


 タムによって無事に聞き取りが終わり、シインズー氏の罪は明白となった。関連団体も上手に聞き取ってくれた。タルさまさまである。


「さあ行くわよ」

「まだやるんですか」

「当然よ。当初の計画は伝えたでしょ」

 ちなみに当初の計画とは以下の通りだ。

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 まずは犯人をしばく。

 次に黒幕をしばく。←イマココ

 最後に関連団体もしばく。

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 あと一段階でミッションコンプリートだ。


 縛り上げられた人間が血ぬれのごろつき一人から、寝間着の若い女性を加えた二人になり、案内が増えて情報も増えた。


 とりあえずシインズー氏の裏の仕事を引き受けていたワルインダー組はもうないから、後は癒着している町の行政執政官を捕まえればいいだろう。

 私たちは空が白みはじめた町を、執政官が暮らすという集合住宅に向けて歩き始める。


「奥様、一つ提案がございます。

 問題の行政官のカネスキー氏の捕縛は私に任せていただけません?」

 今回はタムがやる気のようだ。


「どうしたのタム。今回は乗り気ね。カネスキー氏に恨みでもあるのかしら」

「いえ、そうではありません。

 今回はワルインダー組やシインズー氏の自宅のように他と離れた一戸建てではありません。

 そんな集合住宅で奥様を野放しにすれば、間違いなく無関係の周辺に被害が拡大します」


 全く信用されていなかったが、あながち否定も出来ない。

「分かったわよ。私も集合住宅で手加減が効(き)かなかったら不味いと思いますから今回は譲ります」


 私の返答に、なぜかタムだけではなく捕縛されている二人も安心しているようだ。解せぬ……


 そうこうしているうちに集合住宅へと到着した。3階建ての建物の2階の角部屋のようだ。


 私は早速ドアを叩く。

「こんばんは、いえおはようございます。カネスキーさんいますか」

 私がドンドンとドアを叩くと中から中年太りの男が現れた。


「なんだ、こんな時間に。

 ん、小娘ではないか。何のようだ。

 私を侯爵家の委託を受けた行政執政官と知ってのことか」

「はい、その委託を受けた行政執政官が政治家と癒着して犯罪行為をもみ消しているとお伺いして話を聞きに来ました」

「な、失礼な。そんなことは知らん。貴様(きさま)何者だ」

「これは申し遅れました。

 私、このたび侯爵家の嫁となりましたジーナ・マコゴレイと申します。

 そしてこちらが証人です」

 と言って、後ろの縛り上げた二人を示す。


「な、」

 言葉を失うカネスキー氏を、タムが問答無用で縛り上げた。

「待て、勝手にこんなことをしていくら侯爵家の嫁でもただで済むと思うなよ」

 縛り終わってから、我に返ったカネスキー氏がわめく。


「俺たちに手を出せば、例え侯爵家の嫁でも闇に屠れるんだぞ。

 お貴族様が知らないような闇組織ともつながりがあるんだ」

 なんだか興味深いことを言っているわね。

 ここは一つ問いたださねばならないでしょう。

 私がズイッと前に出ると、なぜか後ろから悲鳴が上がる。


「ヒッッ、カネスキーさん悪いことは言わない。ここは素直にしとけ。

 ちょっと逆らっただけでうちの組は全滅したんだぞ。俺以外皆殺しだ」

 そう言ったのは血ぬれのまま両手を縛られているゴズイというヤクザ者だ。


「そ、そうよ。この女はちょっとしらばっくれただけでうちのダーリンを氷のオブジェにして殺しちまったのよ」

 そう叫ぶのは寝間着のまま縛られて連れてこられたシインズー氏の妻だ。


「あんたは確かシインズーのところの……

 それにそっちの奴はワルインダーで何度か見かけた下っ端じゃないか。

 おまえ今何て言った。全滅とは何が全滅したんだ」

 焦りはじめるカネスキー氏。


「だからおれっちのいたワルインダー組がそこの女に皆殺しにされたんだよ。

 俺は幸いそこの兄ちゃんに捕まえられたから死んでないだけだ。

 その女とやり合った奴は一人残らずこの世にゃいねえよ」


「なっ」言葉を失うカネスキー氏。


 なんか、タムの出番はほとんど無かったみたいだ……。


「話は付いたはね。

 それじゃあこいつらはまとめて王都の侯爵邸に移送してお義父様の判断を仰ぎましょうか」

 私の言葉にうなだれる三人。

 まあ、悪いことをしたんだからその報いは受けてもらわなければならない。シインズー氏の妻も夫と共謀して甘い汁を吸っていたらしいので無罪放免には出来ないのだ。



 こうして病院嫌がらせ事件は一夜にして見事に解決した。


 私たちは宿に帰るとひとまずぐっすりと休息を取り、その翌日に次の慰問地へ旅だった。






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