第7話 最初の慰問先に到着
第7話 最初の慰問先に到着
気絶しているアンを馬車に乗せて座らせ、私たちは道を進める。
それからは残念なことに刺激的なイベントはなく、2日後に無事侯爵領に到着した。
最初の訪問地は病院とそこに併設されている身寄りのないお年寄りの施設だ。
侯爵領は豊かなようで、資金も十分あるのだろう。見ている限り平民が利用する施設としては立派なものだ。これは現当主である債務大臣閣下の領地運営が上手なのだろう。
私は病院長と面談し、寄付をしたのち、困っていることがないか聞く。
「困りごとですか。
あるにはあるのですが次期侯爵夫人にお聞かせしてよい内容なのか迷います。どちらかというと荒事ですので……」
あら、荒事ですのね。これは期待できるかも知れません。
「かまいませんからお話しください。お力になれる内容があるかも知れません」
「はあ、それではお話ししますが、実は悪質な輩に目をつけられまして……」
詳しい経緯を聞くとどうやら地元の政治経済界の大物が汚職の疑惑を持たれているらしく、隠れ家を求めて仮病で入院してこようとしたそうだ。
しかし、現侯爵は厳格な方で、もしそんなことをしてしまえばバレたときに援助を打ち切られるのは目に見えている。
その辺を熟知している院長は毅然としてお断りし、痛み止めを処方しただけで追い返したそうだ。まあ、痛み止めで収まるような類いの頭痛ではないのは明白なのだが、これは皮肉を込めてのことだという。
それからである。
毎朝病院の前に汚物が置かれるようになった。
ひどいときはドアや壁にも汚物がつけられている。
職員は毎朝汚物処理から行わなければならなくなった。業務の多忙化である。
更に、明らかに健康そうな若い連中が病院に押しかけ、本当の患者さんを見る時間を圧迫する。
「連中の悪いところは「頭」と「柄(がら)」だけですよ」と病院長は言う。
これはどう見てもヤクザものを使った嫌がらせだ。
「わかりました、お任せください」私の返答に、後ろで控えていたアンが「えっ」と驚きの声を漏らした。
「ありがとうございます。よろしく侯爵へお伝えください。どうやら町の執政官ともつるんでいる可能性もあります。お願いします」
執政官とは領主から依頼されて派遣される行政官である。町長と同等の権限を持ち、政策の実行権では町長を上回る。そんなのがヤクザとつるんだら町の運営にすら支障を来す。
私は退室するとシゲジイ、トム、タムと合流し、しばらくここに滞在することを決めた。
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