第6話 ドレスデン伯爵家の常識は世間に通用するか
第6話 ドレスデン伯爵家の常識は世間に通用するか
まあ、済んだことは仕方がない。後は遠くの魔獣がこちらに来れば討伐するだけと思っていると、どうやら魔獣は私の魔力を感知したらしく、脱兎のごとく距離を取り始めた。
追いかけてまで仕留める必要もないだろう。ちょっと残念……
尋問要員まで瞬殺してしまったいいわけを考えながら、みんなの待つ馬車へとトボトボ歩く。
馬車へたどり着くとトム、タム、シゲジイの三人が呆然とした表情で私を見ている。ちなみにアンは絶賛気絶中だ。どうやら私が前方の10人を真っ二つにしたのを見て気を失ったらしい。とりあえず安静にして寝かせよう。
「あの、奥様。いったいあなた様は何者なのですか」
トムがおそるおそる聞いてくる。
「どういう意味よ。私はただの次期侯爵夫人よ」
「いえそうではなく……、
先ほどの戦闘力はいったいどういうことなのですか」
タムがおそるおそる聞いてくる。いや、君たち護衛でしょ。身体強化や魔法ぐらい使えるよね、と心の中で突っ込みながら表面は平常を装って答える。
「普通に身体強化して敵を斬って、火魔法と風魔法で敵を屠り、格闘術で制圧したのだけどなにか?」
「いえ、身体強化も火魔法も風魔法も無詠唱でしたし、あの剣閃に至っては残像すら見えないスピードでしたよ」
「そう?これくらい西の魔獣の森では出来ないと死んでしまうわよ」
「そうですか、よくわかりませんが一つだけわかったことがあります。
奥様が我々の中で最強です」
しばらく硬直した後トムが私を持ち上げてきた。
「いや、そりゃあ私も15歳までの毎月の魔獣討伐戦で最多討伐賞7回と最大大物賞5回ほど取ったことはあるけど、おとうさまやお兄様、それに伯爵軍の将軍に比べるとまだまだよ」
「なんと、奥様以上のバケモノが3人も……」
「ドレスデン伯爵家はバケモノ揃いか……」
「もしかして、王国軍よりドレスデン伯爵の領軍の方が強いのでは……」
3人は勝手なことを言っているが、旅はまだ始まったばかり。早く行程を進めたい。
「そんなことより早く進みたいはね。討伐報酬も欲しいから盗賊の遺体も持って行くわよ」
私の言葉に再び3人は顔を見合わせた。
「奥様、20人を超える盗賊の遺体をどうやって運ぶおつもりですか?」
「馬車の屋根に乗せられるのはせいぜい二、三人ですよ。私たちの荷物を捨てるなら後2人ほど積めるでしょうが……」
シゲジイとタムがあきれたように聞いてくる。
もしかして、この一向に亜空間魔法が使えるものはいないのだろうか。そういえば、出発の際、着替えや慰問の際に渡す予定の品々を馬車の屋根にくくりつけているのはなぜだろうと思っていたことを思い出した。間違いない。この人たちは亜空間魔法で運ぶという発想すらないようだ。ここは一つ、私が実演して見せよう。
「そんなのこうすれば簡単よ」
私はそう言うと魔力を両手に込めて亜空間ゲートを出現させる。
術者オリジナルの亜空間へと接続する魔法だ。幸い私には適性があったようで、試してみたら一発で使えた。5歳の誕生日の翌日のことだ。
使えるようになった最初の頃は、どれくらい入るのか試したくて、水やら砂やら岩石やらを片っ端から放り込んでみたこともあるが、はっきりって際限がなかった。
取り出すときは亜空間のどの辺りに放り込んだかを覚えておいてゲートを接続するだけなのだが、これが勘(かん)頼みのため、失敗すると水と肥料用の馬糞が亜空間内で混ざってしまうこともある。
飲料水だった場合は大惨事だ。最も使い慣れている今はそんな事故を起こす心配もない。
ちょっと魔力消費が多い魔法だから、頻繁に出し入れするようなものには向かないが便利な魔法の一つだ。
「さあ、みんなでこの亜空間に遺体を放り込むわよ」
「まさか、伝説の運搬魔法、いや亜空間魔法か……」
「奥様、あなたはいったい……」
「……」
「たかが亜空間魔法くらいで何を呆けているのです。さっさと終わらせますよ」
なかなか再起動しない3人に活を入れながら、私は遺体を亜空間へと投げ込んだ。
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