トリトル王国の興亡

いおにあ

トリトル王国


 トリトル歴2501年。鳥人族ちょうじんぞくおさめるトリトル王国の議会にて。王室分家の血を受け継ぐ、トリ・ノルア議員が、質問を受けている。


「トリ・ノルア議員への質問です。先日の議会では、重要参考人A氏(匿名希望)が『“やかん”のことをバラしてやるぞ』と絶叫したところで、終了時刻となりました。ということで、本日は重要参考人A氏を再びこの場に召喚したいと思っていたのですが・・・・・・昨晩、A氏は唐突に消息不明になりました」


 議会は騒然となる。どよめきと怒号の飛び交う中、トリ・ノルア議員は真っ青な顔になりながら、議会の前に進み出る。


「はい。と、トリあえず、わたくしの方では、じ、事情は、わわ、分かりませんが・・・・・・」


 しどろもどろで答弁するノルア議員に対して、他の議員から野次が飛ぶ。


「嘘つけ、お前がやったんだろ!この、とりごろしがぁっ!!」


 ノルア議員は怒りで全身を真っ赤にして、バサバサと翼をはためかせる。議場に羽が舞い散る。


「なにをぉぉっ!貴様、もう一度言ってみろっ!」

「おう、何度でも言ってやるぞ。この、トリ殺しがぁぁぁぁぁっ!!!」

「静粛に!これ以上の恫喝行為は、退場を申し渡しますぞ!」


 議長が場をおさめようとするが、その努力も瞬く間に水泡に帰す。逆上したノルア議員は、咆哮ほうこうのごとき答弁をする。


「教えてやろうか!“やかん”てのはなあ・・・・・・貴様ら愚民どもを一瞬にして消去してしまう新型兵器“ゼロクリーン・ボム弾”のコードネームだっ!!」


 どうだ、参ったかぁ!とばかりにポーズを決めるノルア議員。そして、彼が高々と掲げたその手羽の先にあるのは――まさしく“やかん”のような形状をした物体だった。


「これがその“ゼロクリーン・ボム弾”の発射装置だぁぁぁぁぁっ!!喰らえい、愚民どもっ!!!」


 こうなると、もうどうしようもない。発射された“ゼロクリーン・ボム弾”が、ノルア議員と非難の応酬合戦を繰り広げていた議員に、真っ先に命中する。



 ポンッ!・・・・・・哀れな議員は“ゼロクリーン・ボム弾”が命中すると瞬く間に・・・・・・一体の鳥のぬいぐるみとなった。



 議会にいた誰もが、目を丸くする。そんな彼らに、ノルア議員は勝ち誇ったように叫ぶ。


「どうだぁっ!これが“ゼロクリーン・ボム弾”の威力だ!当たった者は、誰でも鳥のぬいぐるみ――つまりトリぐるみだっ!――に変身させる。貴様ら愚民どもには、丁度良い兵器だろう」


 そう言うや否や、ノルア議員は議会にいた他の鳥たちにも“ゼロクリーン・ボム弾”を雨あられと浴びせ始めるのだった。

 


 この事件をきっかけに、トリトル王国は内乱へと向かっていった。国中のあちらこちらで“ゼロクリーン・ボム弾”が撃ち交わされ、トリぐるみへと変身させられた住民たちが山のように積まれていく。


 ほどなくして、トリトル王国内には誰もいなくなった。国のあちらこちらに、トリぐるみがあるのみ。こうして2500年の歴史を誇ったトリトル王国は滅亡した。


 しかしトリトル王国は、形の上では綺麗なままだ。なんといっても、相手をぬいぐるみにするという武器だけが用いられたのだから、建物の損壊はゼロに等しい。


 もしあなたが、このトリトル王国に足を踏み入れたら。きっと、トリぐるみだらけの光景に、最初は面食らうだろう。だが恐れる必要はない。トリあえず、美しい街並みを、まずは散策してみよう。そしてよかったら、辺りに散らばっているトリぐるみたちを綺麗に並べてあげて欲しい。間違っても粗末には扱わないように。いつか彼らが、元の鳥の姿に戻る日が来るかもしれないのだから。


 トリトル王国は、あなたの来訪をきっと待ち望んでいるはずだ。

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