第23話 憧れのステージへ

目が覚めたとき、私はいつの間にか病院にいた。

私が目を覚ましたことに気づいた看護師さんはすぐにお父さんとお母さんに知らせてくれた。

2人は私に会うは否や抱きついて涙を流した。

お母さんからどうやら私は総選挙の後、急に倒れて意識不明になっということになっているらしい。

その後、スターライトのみんなが私のもとに駆け付けてくれた。

みんなは私が虚界にいたことを知っていた。

それを知った私はこれまでみんなに思っていたことを包み隠さず話した。

正直半ば自暴自棄だった。

みんなにひどい言葉をぶつけたり我儘を言ったり、自分でも無様でどうしようもないと感じた。

それでもみんなはそんな私を見放してくれなかった。

それどころか謝ってくる始末だった。

自分たちが気づいてあげなくてごめんとか……そんなの私がほんとはごめんなのに…

それから私はひたすらみんなに謝った、こんなことになったのは私のこころが弱かったせいであり、それを誰かに相談もしなかった、する度胸がなかったからだ。

私はみんなの邪魔にならないようにこのグループから抜けようと言おうとしたら、明日香がそれよりも先にグループの解散を言い出した。

私は思わず涙を流してしまった。

私のせいでグループの解散を余儀なくされてしまったことに。

だけど、それとはまた違うみたい。

みんなどこか限界を感じていたみたい、このグループの解散もなるべくしてなったと。

今回の件でそれをはっきりと認識したとみんな言っていた。

だから私のせいじゃないとみんなが慰めてくれた。

その温かさに私はまたしても涙を流してしまった。

それから明日香から、絆の証として各々のメンバーカラーの星のペンダントをもらった。


「これで、私の夢も終わっちゃった……」


私は昔、一目を気にせずに歌とダンスを練習した河川敷に来ていた。

明日香から貰ったペンダントを綺麗な夜空に向けて掲げると、月の光がペンダントを照らす。


「やはりここにいましたか」

「…新君」


私が夜空を眺めているとそっと横から新君が歩いて来た。


「お別れ会はいいのですか?」

「うん。さっき終わったばっかだから」

「そうですか…」


新君はそっと私の隣に座る。


「それで、これからどうするのですか?」

「う~~ん……わからない。今までアイドルになることに必死で、それ以外のことを何も考えてこなかったから。今考えれば本当に馬鹿よね、自分がアイドルになれるってまったく疑わず、それ以外の保険なんて何も考えてなかった。多分、どこかアイドルを甘く見ていた自分がいたんだと思う」


現実はそんなに甘くないのに、上手くいかないことがほとんどなのに、どうして気づかなかったのかしら。


「そうかもしれませんね。確かにあなたはどこかアイドルになることを甘く見ていた節はあります」

「ちょ、ちょっと~~」

「ですが、だからでしょうか……あなたは本気で自分の理想を追い続けることができた。愚直に、例え失敗しても、それもアイドルになるためだと言い聞かせ、ここまで登り詰めた」

「新君…」


どうしようまた涙が…

碧の頬をうっすらと涙がつたる。

なんだろう、ほんと最近涙もろいな、私。


「簡単はことじゃなかったはずです。いえ、簡単なわけがありません。そんな苦難を多く乗り越えたあなただからこそ、ここまで来れた。これはあなたにしか誇れないものです。僕はそんな愚直で、まっすぐで、諦めないあなたの輝きに惹かれて、僕はあなたを推すことを決めたんです」


新君が微笑み、私の顔を見てくる。

ああ…思い出した…この感じ、私が憧れた、なりたいと思った彼女に向けてた目とそっくりだ。

そして、私がずっと欲しかった目だ。

そうか…私はアイドルに憧れてたんじゃないんだ。

碧は立ち上がり、河川敷の一つの大きな岩の上に立つ。


「碧さん?」

「新君、最後に聞いてくれるかな、私の、スターライト、石上碧の最初で最後のソロライブを」

「……よろこんで」


新君は柔らかな笑みで答えてくれた。


「~~~♪~~♪~~~♪」


私は小さい頃、たった一つのアニメ、その中の一人のキャラクターに自分を重ね合わせて、そんな彼女になりたいと思った。

その為にあらゆる努力をした。憧れの彼女のようになるために。

でも、そんなに現実は甘くなかった。

いろんな苦難があって、それをみんなで乗り越えて、助け合って。

ほんとうは私はそれを楽しいと思っていたんだ。

でも私はそれを自分の目的を優先するあまり押しつぶしていた。

自分はこの中の誰よりも努力してるのに、誰も推しになってくれない。

そのことに焦って、嫉妬して、いつしか見失っていたんだ。

でも新君のおかげで思い出した。

本当に私が憧れたものを。

私はアイドルに憧れてアイドルを目指したんじゃない。

アイドルになってみんなを笑顔にする彼女に憧れたんだ。

新君、君がアイドルの私じゃなくて、石上碧のファンになってくれて、私はとっても嬉しかった。

そう言ってくれて、今までのすべてが報われた気がした。

だから私、頑張るよ。

あなたの推しにふさわしい推しとして、私が憧れた、みんなを笑顔にする彼女のように、そんな自分になれるように。

今度は私らしい私になって叶えてみせるから。

だから、これはその誓い、初めて私の…私の一番のファンになってくれた君の為に。

月の光が彼女を照らし、星々の光が川を照らし、彼女を更に輝かす。


(今までの彼女とは違う……心から楽しんでいる歌だ)


新は楽しそうに、そして何より心から歌う彼女の姿を見てそう思った。

その光景はまるで彼女の新たな旅立ちを祝福するようだった。

月の光が雲で隠れると同時に彼女の歌は終わった。


「ほんとうに、綺麗でした」


新は優しいけど、想いの籠った拍手を彼女に送る。

そして碧は新に向かって近づくと宣言した。


「私、なってみせるよ。あなたがプロデュースするにふさわしい人に。だからあの時の約束はそれまでお預けでお願い」

「碧さん」

「だからね。これは私から君への挑戦状。私は必ず、君がプロデュースしたいと思うような人物になってみせるから!!」


碧は新たに向かって指をさしそう宣言した。


「だから心待ちにしといてね!」


そしてその返事として新も答える。


「僕も待ってますよ。あなたが僕に自分を売り込んでくる時を」


まさに互いが互いに、どちらが先に相手を堕とせるかその宣言だった。


「約束だから」

「ええ、必ずですよ」


こうして一つの物語は幕を閉じ、新たなる物語へと紡がれる。



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