第22話 過去の経験
碧の事件から数日後、結局そのことはあの場にいた6人で秘密にしておくことになった。
目が覚めた碧は懺悔と後悔を口にして、私達に謝罪してきた。
彼女の不安や本心を聞いて私たちはそのことに気づいてあげられなかったことを後悔した。
結局、私の方からグループの解散を提案をした。
意外にもみんなあっさり了承してくれた。
どうやらみんな少なからずこのグループに限界を感じていたようだった。
そのことに碧は自分の所為だと涙を流して謝ったが、私たちはまったくそんなことは思っていないと伝えた。
そして約束した、例え一度解散しても私達の絆は消えないと、その証として全員に自分のイメージカラーの星のペンダントを配った。
「次に会うのは何ヶ月、何年先になるのかしら」
「よく言う。自分で計画しておいて、その胆力や演技力には関心するよ」
「・・・!」
最後に他6人と本拠地のライブハウスでお別れ会をした後の帰り道、街灯の光のみが薄らと照らす道、周りには明日香しかいなかったはずが彼女の前から聞き覚えのある声がした。
薄っすらと一つの影が彼女に近寄る。
そしてその影が街灯の下に着くと一人の、黒のロングコートを着て顔を隠す男がいた。
「あの事件以来か、天道明日香」
「あなたは・・・」
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名はテラー、ウィズの仲間だ」
「そう・・・やっぱり君が・・・」
「天道明日香、これを俺たちに送りつけたのは君だろう」
テラーが一枚の紙を取り出し明日香に向かって投げる。
明日香はその紙を受け取り、中を見るとそこにはテラー達に届けられた依頼の内容が書かれていた。
「これは?」
「お前が俺たちに送ってきた依頼をコピーした物だ」
「・・・でも匿名だって」
「そうだな。お前の名など一つもない。それに関するヒントすらない。だが、ターゲットに関するヒントはあった。そしてお前がそれを補完してくれた」
「どういうこと?」
「依頼書なのにターゲットに関する情報が所属グループしかない。それも7人もいて、それぞれ悩みや不安を抱えていた。それなのにどうやってターゲットを絞りだすのか?唯一このメールでヒントとなりえるのが、この匿名者の名、Nだった。しかし、お前たちの中にNをイニシャルにするものなんていなかった。だがそこでお前が一つヒントをくれた」
「ヒント…?」
「タイミング的に仕込んだんだろ?ある深夜番組のお前の出演さ」
「もしかして、占いの…?」
「そうだ」
テラーが明日香と会った時、彼女から言われたのはこの番組のことだった。
そしてそれを見たテラーはふと一つの仮説を思い調べた。
そしたらなかなか興味深い意味が浮かび上がった。
「あのNは占いによく使われる生年月日の月、Nから始まる月はNovember、つまり11月だ。そして、もう一つ、占いとまではいかないがそれに近しいものを自身の名にある人物がいた。石上碧。誕生石だろ?お前がこの一文字の込めた意味は彼女の名前にある石から誕生石を探させ、そしてそれが11月の誕生石だった教えること。しかも11月の誕生石はトパーズ。一般的には黄色と青がイメージされる誕生石だ。彼女の名前の碧は二つの色を合わせられ作られる緑ともとれるし、そのまま青としてもとらえても成立はする。お前はそれを少しでも気づかせる為に、このメール送り付けた日から毎日来る客全員にこの番組の宣伝をした。どうかな、俺の推理は?」
テラーの長々な推理を聞いて、明日香は観念したのかい笑みを浮かべ前を向く。
「その通りよ。流石ね。そうあのメールを送ったのは私。偶々あの番組に出演して、その後に総選挙のことを聞いたの。碧には昔からどこか不安定さがあった。自分を殺して誰かを目指すような。それじゃいずれ自分で自分自身を押しつぶしてしまう。そうまるで」
「過去の自分と同じようにか?」
テラーが彼女の言葉に被せるようにそう言った。
そしてテラーの言葉を聞いた明日香は驚きを見せる
「覚えて…」
「2年前、天性の才を得た少女がいた」
おもむろにテラーは語り出す。
「少女は本当にただの普通の少女だった。特段目立ったものはなくそこら辺にいる子となんの変りもなかった。しかし時が経つにつれ、その容姿は地下深くから発掘されたダイヤモンドのごとく煌めき、彼女は芸能界に入ることになった。そして彼女はその中で才能を開花させていった。まさに完成された宝石……になるはずだった。しかし少女の望みはそんなことではなかった。ただ自分のことを大切な人に見て欲しかっただけだった。だがいつしかその人たちは自分のことを家族としてではなく、別の人間と見るようになった。そしてその」
「少女は逃げた。元の自分になろうとその場から逃げた。でも現実はそんなに簡単に戻れなかった。すでに家族はその少女のことを家族となんて見てなかった。それに少女は絶望した。懐かしいわね」
明日香は星が煌めく夜空を仰ぎ見る。
「やっぱりか。あの時、俺が助けたのは…」
「ええ、私よ」
2年前、彼女の両親から依頼があり、彼女の捜索をした時、彼女は既に虚界に囚われていた。
俺はその虚界を破壊し、彼女を連れ戻した。
「結局その後は私の勘違いであったっていうなんとも言えないオチだったけどね」
「それで、俺に白羽の矢が立ったということか」
「ええ、私を助けてくれたあなたならあの子も助けてくれるって信じていたから」
「なんとも重い期待のことだ。俺たちは野良の覚醒者だぞ?」
「それでも私はあなたを信じたの」
明日香は真っ直ぐとっテラーを見つめる。
テラーはその真っ直ぐ自分を見る目に懐かしさを感じ、やれやれと軽く頭を横に振った。
「まったく、あの時の目と変わらないな」
そう言われて、明日香は笑みを浮かべる。
「行かなくていいの?碧のところに?」
「ああ、今回の主人公は俺でもお前でもない。彼女のもとには最高の配役を送った」
「そう…それなら安心だわ」
明日香は目を閉じ、胸に手を置き安心する
「……ねぇ、また…」
彼女が前を向くと既にテラーの姿はなかった。
「今度は、私もあなたの隣に立てるかしら……」
明日香は星に新しい願いを込めて、月の明かりに照らされながら新しい一歩を歩み出した
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