第21話 推し
力を失ったゴーレムは少しずつ灰となり散り散りとなっていく。
そして、このスタジアムの防衛の中核が消えると言うことは。
「あーあ・・・終わっちゃった・・・・・・」
碧を守っていた要塞も崩れると言うことだ。
彼女は力なく座り込み、夜空が輝く月を眺め、思いを馳せる。
理想だった、小さい頃、病弱でまともに学校にも通えなくて友達もできなくて、まるで現実から逃避するように没頭したのがアニメだった。
私は一つのアニメにはまった。
夕方に流れるアイドルアニメだった。
そのアニメの一人に私と同じように体が弱い子がいた。
でも彼女はそれでも自分が目指した、憧れた姿になるためにいろんな努力をして、たくさんの人の前で輝くアイドルになった。
私は自分と彼女を重ねて、いつしか私も彼女に憧れた。
もしかしたら私も彼女のようになれるのではないかと。
それからたくさんの努力をした。
少しずつ運動するように外に出て、自分の体についても勉強して、より効率的にできないか改良を重ねた。
その時間を確保するために勉強も頑張った。
美容も自分が追い求める形に近づけようと研究した。
そしてようやく、数ある中のオーディションでスターライトに入った。
私はようやく自分もアイドルへの一歩を踏み出せる!…そう思っていた。
でも現実は甘くはなかった。
どんなに自分を磨いてもお客さんは来ない。
その為にみんなとたくさん話し合っていろんなことをしてようやくお客さんが入ってくるようになった。
その時はみんなで目一杯喜んだのを覚えている。
でも私が絶望したのはそこからだった。
お客さんが入ってくるようになっても、私ただ一人を見てくれる人は誰一人もいなかった。
明日香さんも未森さんも恋歌ちゃんも他のみんなもいろんな個性や才能があった。
そんな彼女たちに惹かれる人がたくさんいた。
そして私は悟った、所詮、私はサブ、ただのメンバーの一人、誰の推しにもなれないモブキャラ。どんなに努力しても輝かしい経歴や才能の前では無力だと。
そして総選挙での投票数はたったの1票。
「…滑稽よね……所詮は夢に過ぎないのに……私は…わだしは……!」
「何もおかしくなんてありませんよ」
「…新君………」
座り込む碧に新は寄り添うようにしゃがみ込み、彼女の涙を拭う。
「僕はあなたのそんな努力が美しいと感じました。そんなあなたにもっと輝いて欲しいと思いました。だから僕はそんな想いを込めてあなたを推しました」
新が碧に見せたのは総選挙の投票画面の録画だ。
そこには新が碧に投票するところが撮られていた。
「だから僕はこんなところで終わるあなたを見たくなかった。君の夢を壊したのは悪いと思ってる。これは僕の我儘であり、罪だ。君が僕を恨むなら、それは当然のことだ。それでも僕は君の本物の…!石上碧というアイドルがたくさんの人前で輝く姿をこの目で見たいんだ!!」
「…新く…ん……」
碧の目から涙がどんどん流れてくる。
「僕は君の否定を否定する!君が否定した君の過去を!だから、プロヂュースさせて欲しい…今度こそ君の夢を現実にするために!だから…僕は君を推し続けます」
新は彼女の前に手を差し伸べる。
碧は涙を溢れさせながらその手を握る。
「はい……!!」
***
「ねえ、碧ちゃん大丈夫かしら…」
ライブホールでは6人がゲートを見ながら碧のことを心配していた。
「わからないわね。ゲートを発現した人が虚界に取り残されるのは1割以下とされているわ」
「1割以下って、それって結構」
「ええ、10回に1回ない程度の確率で虚界に取り残されるってこと。中々な確率よ」
都と楓の会話に更にみんなの不安が高まる。
「なら、私たちも行ったほうが」
「ダメ、意味ない。逆に足手まといになる」
未森がゲートに行こうとするが恋歌が止める。
「恋歌の言う通りよ。それに」
明日香がゲートに触れると、ゲートが彼女を拒絶する。
「元から覚醒者しか入れないのか、それとも彼らが何かしたのかわからないけど私たちはこの先には行けない。私たちができることはここで彼女の無事を祈るだけ」
6人はただそこで碧の無事を祈るのみ。
しかしその時、変化があった。
「あれ…」
それに最初に気づいたのは恋歌だった。
恋歌がゲートを指さすと、ゲートが揺らいでヒビが生じていた。
全員が不安を胸に抱えながらゲートを見つめる。
するとゲートから人影が現れる。
ゲートから碧を抱えたウィズが出て来た。
それに続いてアルテ、イヨ、そしてテラーの全員がゲートから出て来た。
そして全員が出終わるとゲートが消滅する。
「ゲートの消滅もとい、虚界の消滅を確認。ターゲット、石上碧の帰還を以って依頼の終了を確認」
テラーが現状の確認を取った。
そしてウィズが6人の前にゆっくりと碧を降ろす。
「碧ちゃん!」
6人が碧に急いで寄り添う。
「ご安心ください。気絶しているだけです」
それだけ言ってウィズは6人から離れる。
「行くぞ」
「……はい」
4人はその場からまるで最初からいなかったかのように去って行った。
これにて依頼、石上碧の虚界からの奪還完了。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます