第17話 受諾

「もう…もう…いや…」


家に帰った碧はすぐに自分の部屋に行きベットに寝転ぶ。

濡れたまま、寒さなど今の彼女にはそんなものは感じなかった。

今彼女の中にあるのは悔しさと絶望、そして嫉妬心だけだ。


「どうして…私だけ……私だけいつもこうなのよ……」


碧は布団を涙で濡らし、体を縮こませ布団をかぶる。

そのまま少し時間が経つとすぐに布団が一定の鼓動を奏でる。


「…私は……みんなを…笑顔にする……アイドルに……」


だんだんと黒いモヤに包まれていく。

そして完全に包まれると黒いモヤは縮まっていきとうとう完全に消滅した。



***


スターライトが活動拠点とするライブハウス。

本来はこんな夜中の時間は閉まっているはずが、今そのライブハウスには3人の特徴的な衣装を身に纏う者達がいた。

そして更に一人現れる。


「やっと来たか」


入って来たのはブカブカな黒いパーカーを着て目まで隠れるほどフードを深く被るウィズだ。


「話はついたか?」

「いえ、ダメでした」


その時、彼らの後ろ、ステージの上にゲートが出現した。


「行きましょう」


ウィズが一言そう言ってゲートに向かう。


「まったく、そんな辛気臭い雰囲気しないの。もっとシャキッとしないさい!」

「うおっ!?」


アルテが思いっきりウィズの背中を蹴り飛ばす。


「何するんだよ!」


ウィズはアルテに文句を言う。

アルテは腕を組みながら言った。


「これでスッキリしたかしら?」

「・・・ま、まぁ」


ウィズは少し不服そうに認めた。


「ウィズ元気だす。じゃないと飲み込まれるぞ〜」

「イヨの言う通りよ。私たちは私たちの仕事を真っ当するのよ」


アルテとイヨのお陰で喝の入ってウィズ。

改めて彼がゲートに入ろうとした時、出入り口の階段から音が聞こえてきた。

しかも一人二人ではない。


「ウソ・・・!?」

「ワォ〜・・・」


降りてきたのは明日香、静江、未森、都、楓、恋歌の6人だ。

未森と恋歌はゲートを見て驚きを見せ、静江、都、楓の3人は声が出なかった。


「イヨ、アルテ、俺たちは先に行くぞ。ウィズ、お前に任せる」


そう言ってテラー、イヨ、アルテの3人は先にゲートの中に入っていく。

そして残ったウィズは6人に向かって自己紹介をする。


「初めまして。我が名はウィズダム。ナイトメアの一人です。気軽にウィズとお呼び下さい」


ウィズは優雅にお辞儀をした。


「ナイトメアってあの…!?」

「どうしてあなた達がここに」


楓がウィズたちをナイトメアだと知って驚く。

そしてウィズが静江の質問に答える。


「我らはある方からの依頼により石上碧様のドリーマーの討伐を受け参上いたしました」

「まさか碧ちゃんが」

「でもゲートがここにあるってことは」


6人は碧が本当に夢に堕ちたのか信じたくなかった。

しかしこの時間にこの場所にゲートがそれを否定する何よりの証拠だった。


「あなた達なら碧を助けられるんですか」


明日香が一歩前に出てウィズに問う。

そしてウィズははっきり答える。


「はい。我らナイトメアの名に誓って、必ず」

「そう……ならあなたたちを信じます」

「明日香ちゃん!」


静江は明日香にほんとにいいのかと問うように彼女の名前を呼ぶ。

だが明日香はまっすぐウィズから目を離さず言う。


「今私たちにできることは何もないわ」

「なら、国の調査を頼めば!」

「無理よ。静江、この中で一番頭のいいあなたなら分かるでしょう。国に頼んでも来てくれるかわからない」

「SNSでも人を選んでるんじゃないかって憶測もあるしね」


都が明日香の援護に入った。


「それに時間的にも実力的にもあの人達が一番」

「恋歌の言う通り。私たちが今できることはただ見守るだけよ」

「……」


静江は黙って頷く。


「ありがとうございます。それと一つお約束ください。石上碧様を救い出した後も彼女とこれまで通りの関係でいてくれることを」

「もちろんよ!」

「当たり前よ!」


楓と未森が愚問と言わんばかりに言い切った。

他の4人も頷く。

それを見てウィズはフードの中、笑みを浮かべる。

そしてウィズは最後にお辞儀をしてゲートに入って行った。

ウィズが入るのを見た6人は無事に碧が帰ってくるのを祈るのだった。

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