第16話 過去
3年前、私があのライブハウスでみんなと出会った日。
「石上碧です!よろしくお願いします!!」
「よろしくね碧ちゃん」
「は、はい明日香さん!!」
初めてみんなに会った時、緊張でまともに話せなかったのを覚えてる。
「碧ちゃんそんなに緊張する必要ないよ♪」
「はい!未森さん!」
「トントン」
「ん?」
腰の上ら辺をつつかれている感覚がして下を見ると恋歌ちゃんがいた。
「問う。お前の好きなエロはなんだ?」
「え?す、好きなエロですか……?」
「こら、新入りの子にそんな下品な質問をしないの」
「痛い」
その時は静江さんが恋歌ちゃんを注意して終わった。
「あなたが新しい子ね。私は橘都。よろしくね」
「はい!都さんは確か昔演劇をやってたんですよね!」
「あらよく知ってるわね。もしかしてファンの子だった?」
「その…以前お母さんと見に行ったことがあって」
「ほんと!?ありがとう!」
「ちょっとミヤチー!私にも紹介させてよ!」
私と都さんの間に割り込んで私の手を握ってきたのは楓さんだった。
「あたしは英楓よろしくね!気軽にカエデちゃんって呼んでね♪」
「よりしくお願いします楓さん!」
「碧ちゃん…?」
「ええーと、カエデ…ちゃん?」
「うむ、よろしい!」
「ちょい待ちまだエロを聞いてない」
「恋歌、あなたね」
みんな最初に会った感想は正直あんまり覚えていなかった。
ただ他の人とは何かが違うと感じただけははっきりと覚えてる。
それからみんなと過ごしていく内に実感してきた、私だけ何もない。
天性の才能や高い地頭、過去の実績に無尽蔵の元気、誰とでもすぐに仲良くなれる性格、誰にも従わず迷わず自分を恥じることのないマイペース。
そんな様々な才能や個性の中で私だけが何もない。
私はたまたま応募で受かった一般人。
それに比べて彼女たちはそれぞれがスカウトを受けた原石の塊。
日に日に彼女たちとの差は広がる一方、だから努力した。
私が憧れたアイドル、あのアニメみたなみんなを魅了して輝くアイドルに、お母さんが褒めてくれたあんなアイドルに。
だから私はどうすればそんなアイドルに近づけるか研究した。
そしてようやく私もみんなの前で名前が呼ばれるチャンスを得たと思った。
でも結果は……
碧がスマホで開いたのは地下アイドル総選挙のホームページだ。
そこには名前を呼ばれなかったアイドルたちの名前とその投票数が載ってある。
『石上碧 投票数1票』
河川敷の前の歩道、それを見た碧は曇天の下立ち止まり、雨に濡れ、書き表せない声で泣く。
涙が雨とわからないほど、彼女の涙は地面へとポタポタと落ちる。
「やっぱりここにいましたか」
彼女の後ろから一人、最近聞き覚えのある男の子の声が聞こえると共に彼女を濡らす雨が彼女からなくなる。
碧がゆっくり振り返るとそこには傘を持ち彼女を見る新がいた。
「どうして…新君が…ここに……」
「前、話してくれましたよね。あなたが目を輝かせてみていたアニメのこと」
「……」
「7年前、ちょうど僕たちが小学生の頃に夕方にやっていたアニメ。アイドルに憧れた少女が様々な問題を抱えた少女たちと共に成長して立派なアイドルになっていくという王道なストーリー。そうまるであなたのように」
「…同情でもしに来たの?」
「そうかもしれませんね」
「・・・・・・!?そんなのいらない!!」
碧は傘を持つ新の手を払い、新は傘を落とす。
「私は……もう無理なの……君も見たでしょ、私の評価。投票数1、これが結果よ」
「そうですね。ですが結果は残しました」
「ええ残したわ!でもこんな…こんな惨めな結果を!現実を見る為に私は努力してきてない!」
「なら別の努力をするしかない」
「してきたわよ!!何度も何度も!!歌が止まったらダンスに、ダンスが止まったらビジュアルに!それが止まったら次は知識に!何度も何度も努力した!それでも私は彼女たちに勝てなかった!!……私は凡人なの……才能も個性も無い、ただの一般人なの、ただのモブキャラなの!!」
「そんなことありません」
「あなたに何がわかるの!!私が3年も自分を知ってきてわからなかったことをたったの1週間足らずで見つけてみんなの改良点も全部アドバイスして!君も彼女たちと同じ天才なのよ!!」
「そんなことありません。あなたには才能があります」
「ほら、君もそれを言う。それは才能があるから言えるのよ!私の努力も知らないで!私の思いも知らないで、そんな軽く私の今までを否定しないで!!」
碧は振り返り走って行く。
「碧さん!」
「私の名前を呼ばないで!」
呼び止めようとした新だが、碧は走りながら新を拒絶しそのまま走り去って行った。
置いてかれた新は落ちた傘を拾う。
「わかりますよ。僕も、あなたと一緒ですから…」
新は来た道を戻って行く。
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