第14話 現地調査④

僕が次に向かったのはミヤチーこと、都のところだ。


「ミヤチーさん、こんにちは」

「あ、新君、今日もありがとうね」

「ミヤチーさんもお疲れさまでした」

「こっちこそ、新君のおかげで最後にアイドルとしての私がより高まって行ってると感じてるのほんとにありがとう」

「いえいえ、そんな……?」


都の引っかかる言い方に疑問を持った新。

それを察した都が語り出す。


「多分このグループは近いうちに終わる。私の予感がそう言ってるの」

「どういうことですか?」

「私は幼いころから演劇の世界にいたわ。それ以外にもいろんなものを見て来たわ。そしてそれには良い終わり方と悪い終わり方があるの。今のこのグループは悪い方に進んでる時と同じ感じがするの」

「確証は?」

「ないわ。強いていうなら私の経験かしら」

「ミヤチーさんは終わりたいんですか?」

「そんなわけないわ。少しずつだけどもうこのグループにずっといてもいいと思ってもいたのよ。だからね、新君、君ならどうにかできるんじゃないかしら」


都はまるで確信があるように新に言った。


「それは期待し過ぎですよ」

「そう。なら期待させてもらうわ」

「いや、僕の話聞いてました?」

「ええ、その上で期待させてもらうわ。私はこのグループが大好きなの、でも私じゃ何もできない。だからお願いね、新君」


それだけ言って僕は背中を押され追い出されてしまった。

追い出されたからには戻るのもなんだか違うし、次に行くか。


「未森さん」

「あれ、新君、今日もありがとね~~♪」


新が次に向かったのは大空未森もところだった。


「うん?新君元気ない?」


未森は新の頬をムニュ〜と押す。


「そ、そんなことないですよ」

「うんうん、なんか新君、心ここに在らずって感じ。しょうがないからお姉さんが元気を」

「あ、僕次の人にところに行かないと!」

「ダ〜メ!」


未森は新の手を離さない。


「ここはお姉さんが元気をあげちゃいます!」


そう言って新の頭を優しくなでる。


「うん、よし!」

「あ、ありがとうございます」

「さっきよりも良くなったと思うけどあんまり無理しないでね」

「そういう未森さんこそどうしてそんなに元気なんですか?」

「え?何を言ってるのよ?」


未森さんは笑いながらそう言った。

でも僕には確信があった。


「そうですか?僕にはとてもそうとは思えないですけど」

「・・・やっぱりわかる?」


未森は恥ずかしそうに頬を掻く。


「元気に人一倍敏感なあなたが気づかないとは思いませんから」


これまで5人と会って感じた悪い流れ、それは全員が感じていた、けれどそれぞれが感じる物には違いもあると思う。


「なんだか無理矢理元気を出しているように感じるんです」

「うん。なんかみんなどこか焦っているようなギスギスしてるようなそんな感じがするの。それに元気がどうとかは多分関係ないんだよね」


未森は悲しそうに一人語る。


「私はみんなが大好き。だからみんなには人一倍元気でいて欲しいの。もちろんそれが私の我儘なのはわかってるわ」

「それでもあなたは常に元気でい続けるのですね」

「それが私の取り柄だもの」

「そうですか。それが聞けただけよかったです」


新は満足そうにその場から離れようとする。


「新君、明日香ちゃんはまだだと思うけど」

「いえ、僕はこれで今日は帰ります。明日香さんの所には僕の友人がいるので。それでは」


新はそれだけ言ってライブハウスを後にした。



***


「天道さん。次の人で今日は最後です」

「分かりました」

「長らくお待たせしました。どうぞ」


天道明日香、アイドルグループスターライトのエースであり、多彩な才と端麗な容姿を持つ絶世の美少女。

そんな若さとは裏腹に常に落ち着き大人びた雰囲気を纏う彼女。


「失礼します」


そんな彼女のもとに今日最後の客として訪れた謙醒。


「こんにちは。あなたは初めてのお客さんね」

「はい。友人に誘われて今日初めて見に来たんです」


謙醒は彼女の前に手を差し出す。

それを見た明日香は笑顔で握手をする。


「よろしくお願いします」

「こっちこそよろしくね。最後のお客さんだから少し長めに時間を取ってるの。よかったら感想聞かせてね」

「もちろん」


初対面のはずなのに二人の間には妙に思い空気が流れる。


「とは言っても彼の言う通り、とってもいいライブでした。ですが、おこがましいですが、その反面まだまだ成長の見込みがあるとも感じました」

「なかなか面白い意見ね。そのお友達って誰なの?」

「新って言うんですが」

「新君ね!彼にはいつもお世話になってるわ」

「そうですか。あいつも最近通い始めたと聞いたんですが」

「そうね。新君がここに通い始めたのはほんの一月ぐらい前のことだけど。みんなにたくさんの資料を渡して、ここ数日で私たちのグループとしてのクオリティは大幅に向上したわ」

「そうですか。そう言ってもらえると友として嬉しいですね。ですが・・・ですか。その言い方だとまるであなたには無いように聞こえますが?」


謙醒は圧のある笑みを浮かべ明日香に問う。

明日香はそれにまったく反応せず答える。


「そうなのよね。静江とかに聞いたら私には何も言うことは無いって」

「そうなんですか」


まさか何も反応を示さないとは…新が感じたカリスマ性、なんとなくだが理解できた。

こいつは自分に対しての一切の不安がない。

根拠もくそもない。絶対の自信と確信を持っている。

だからこそ、臆せず物事を語れるのか。


「そういう君はどう思った?私は?」


今度は俺に質問を返してきた。


「そうですね。ダンスや歌その他諸々はまだまだ成長の余地はありますが、今の段階で言うならこれ以上ないほど完成されていると思います」

「そう……」


謙醒の答えに何故か少し寂しさと悲しさを感じさせる明日香。


「一つ質問があるんですが」

「なに?」

「あなたはこのグループのみんなさんが好きですか?」


この質問だけ一瞬だったが明日香は反応した。

その些細な動きをもちろん謙醒は見逃さなかった。


「もちろんよ。私はこのグループのみんなが、このスターライトと言うグループが大好きよ」


明日香は先程までの自然な自信を持った答えとは違い。

心からの自信を持ってその質問に答えた。

なるほど、やっぱり


あなたが言っていた通り、ずっとこのグループにいたいんですね」

「ええ……」


明日香は謙醒の独り言に優しく答える。


「そうですか。今日はありがとうございました」

「もういいの?まだ時間はあるけど?」

「はい。それと、総選挙頑張ってください」

「ありがとう」


謙醒はその場を離れようとした時、咄嗟に明日香が一言去り際に言った。


「明後日、夜の11時のテレビに出るからよかったら見てね」


謙醒は軽く頭を下げてその場を去って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る